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【連載小説】ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい[#150]115 顔合わせ

ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~

115 顔合わせ

◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…前世(前・魔王討伐隊『英雄』のアシュリー)の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。今回の討伐隊での冒険者の『サポーター』
・ケヴィン…人間の国シルディスの先代の王で、2代前の『英雄』
・マコト(真)…神の国(日本)から召喚された、今回の『勇者』。本人曰く、初代の勇者と同一人物らしい。
・シアン…Sランク冒険者。前・魔王討伐隊の一人で、今回の討伐隊の顧問役
・マーガレット(マーニャ)…2代前の『英雄』で、且つ今回の討伐隊の教会の『英雄』。マーニャの名で冒険者をしていた。
・ウォレス…シルディス国の第二王子で、今回の討伐隊の王族の『サポーター』。自信家で女好き
・デニス…Sランクの先輩冒険者。今回の討伐隊での冒険者の『英雄』
・ニール(ニコラス)…前『英雄』クリストファーの息子で、現国王の甥。今回の討伐隊、王族の『英雄』
・メルヴィン…魔法使いの黒髪の寡黙な青年。今回の教会の『サポーター』。前・魔王討伐隊『英雄』と自称している。

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 天井の高い謁見の間には明るい光が差し込んでいた。日の光をこの部屋に導いている床から天井まで伸びる大きな窓からは、美しい庭園が見える。

 ここに来るのは前世で討伐隊に選出された時の一度きりのはずだ。しかし、何故かそれ以上に見覚えがある光景に思えた。

 
 ケヴィン様の先導で謁見の間に入る。
 王は玉座に。その隣には大司教様の御姿があり、さらに見慣れぬ青年が立っている。彼が話に聞いていた『勇者』だろう。

 黒い髪、整った容姿でまつ毛も長い。一目見ただけでは女性とも見紛うような容姿をしている。事前にシアさんから話を聞いていなければ、私も彼の性別を判断するのに迷っただろう。

「初めまして、僕がマコトだ」
 爽やかにそう言うと、彼は愛想のよい笑みを見せた

 わずかに香る彼の魂の匂いに気付き、戸惑いを感じた。
 ――私は、彼の匂いを知っている。いったいどういう事だろうか?

 彼が私たちの間に並ぶ。これで討伐隊の全員が揃い、皆で合わせて王に向けて膝を突いた。
 王が私たちの名を一人ずつ呼び、激励の言葉をかけていく。それが終わると、王の隣に控えていた大司教様が前に出た。

其方そなたたちにはシルディス神の求める神器を集めてもらう」
 これだ。先ほどケヴィン様の応接室で話していた、神器の事だ。

「まずは――」
「神器ならあるぜ」

 シアンさんが強い口調で言い、大司教様の言葉が止まった。

「悪いが『一つずつ順番に』なんて、まどろっこしい事をするつもりはねえ。要る物を全部挙げてもらいたい」
「それはどういう意味だ?」
 私たちの事情を知らないウォレス様が、不審そうな顔で言った。

「魔王討伐隊の目標は魔王の討伐のはずだ。だが、どうせまたお遊びみたいな神器集めからだろうと思ってな。先に目ぼしいダンジョンに潜って色々と集めてきた」

「準備がいい事…… でもそういう訳にはいかなくてよ」
 ウォレス様の隣で、マーガレット様が声をあげた。

「おかしいな」
 勇者――マコトさんが小さく呟くのが聞こえた。
「魔王を倒す為に、神器を集める? そんな設定をした覚えはないぞ」

 設定……?

「マコト様。あの頃は不要だったのです」
 マーガレット様が紫水晶アメシストの瞳を細めながら、言葉を返す。

「あれから、何百年もの時が経っております。その間に何人もの勇者が召喚され、何度も魔王を倒しました」

 そうだ。だから――

「民衆は飽きているのです」

「なっ!?」
 デニスさんが短く驚きの声をあげ、シアさんが小さく舌打ちをする。

「だから、彼らがただ魔王城を目指すだけではダメなのです。民衆の間に、彼らの存在を知らしめ、雄姿をその目に焼き付けさせ、その上で国を救う。その為に――」

「俺らに国中を巡らせたのか?」
 苛立いらだったような口調で、シアさんが言った。

「民衆を飽きさせぬ為の神器集めだったと言うのか?」
「……それもあるわ。もう一つの目的は、討伐隊の増強」

「確かに。魔族領の魔物はそこらの魔獣に比べてめっぽう強い。だからと言って、あんなやり方で……」
 苦々しい様子で口籠くちごもったシアさんに代わり、一歩前に出た。
「マーガレット様、鑑定は使えますか? それで私たちを鑑定してみてください。これでもまだ不足でしょうか?」

 マーガレット様は少しだけ考え込むように視線を寄越し、それからじっと私とデニスさんを見つめた。
 私のスキルの偽装は解いていないが、十分すぎる値に見えるようにしてある。

 鑑定が済んだのか、マーガレット様は小さく驚きの声を上げた。
「マーガレット、二人は強いのか?」
 大司教様がそういうのは、鑑定を使えないからだろう。
「ええ…… このステータスだと、二人ともSSクラスでしょうね。これに神の加護が加われば、確かに不足は無いわ」

「今回は俺も同行する。俺もSSランククラスの働きは出来るはずだ。もちろん『英雄』の役目を邪魔するつもりはない。元『サポーター』の俺だ、その役目は充分に理解している」
「マーガレットさんもお強いですよね。今の実力だとSSSランククラスですか? それともそれ以上でしょうか?」
 私が尋ねると、マーガレット様は軽く眉を動かして、微笑んでみせた。敢えて否定をしないのが、肯定の意思表示なのだろう。

「マーニャさん、そんなに強かったのか……」
 ニールが信じられないというような表情で言った。
「……元々、マーガレット様はマーニャさんとして活動している間も実力を隠していました。彼女も元討伐隊の一人です。Sランクをうに超えた実力をお持ちでも不思議はありません」
 それに、サティさんの言った事が真実ならば…… 彼女が古い時代の神巫女だとしたら……

 考えを止め、大司教様に向かって告げる。
「神器のほとんどを集めたと言っても、まだ完全ではありません。地方の貴族や領主たちに持たせた物がまだあるはずです。各地におもむいてみせるのなら、それでも十分ではないでしょうか?」

「民衆は飽きていると言ったが、今回の討伐隊はかなり話題性が高い。これだけの面子であれば、民衆の関心を集める事も、退屈を紛らわす事も充分じゃねえか? しかも教会はメルヴィンの偽物まで仕立ててきている」

「……ふむ」
 シアンさんが最後に言った言葉を受けて、大司教は声を上げた。

「偽物だとわかるのかね」
「元々仲間だった俺が、わからないとでも思ったか?」
 シアさんはニヤリと笑った。
「だが、今ここでその事を追究して、ケンカをするつもりはねえ。それよりも、前回倒せなかった魔王を、今度こそ倒さないといけないんだろう?」

「……それも覚えているのか」
「思い出した、ってのが正しいな」

 大司教は、マーガレットさんの方をちらりと見る。マーガレットさんがうなずくと、私たちに向かって言った。
「良かろう。集めてもらいたい神器の一覧を用意しよう」

 * * *

 その後で皆が集められたのは、先王ケヴィン様の応接室だ。
 ケヴィン様の元で食事をしながら、討伐隊の皆と改めて自己紹介と挨拶をする事になっている。本来なら王の元で行われるこの食事会を、王は放棄したのだそうだ。

「マコト様は、初代の勇者様だと聞いておりますが」
 デニスさんの質問に、マコトは目を細めて微笑んだ。
「その前にその丁寧ていねいな口調をやめないか? 僕たちは仲間なんだろう?」

 ルイと初めて会った時と勝手が違い過ぎて、少し戸惑ってしまう。ルイは全く何も知らなかったが、マコトは逆に知りすぎているように思える。

「確かに僕は、以前一度ここに来た事がある。僕が最初だったそうだから、その『初代の勇者』という事で間違いはないだろう。僕の居た場所……ニホンというのだけど、あちらとここでは時間の流れが大きく違うらしくて、ここでは何百年とたっているが、ニホンではまだ5年ほどしか経っていない」
「時間の流れが違う……?」
「恐らくシルディスの力が『時間と空間を制御する』というのにも関係あるのだろうな」
 マコトの口から、不意にシルディス神の名前が飛び出した。

「時間……? シルディスは大地と豊穣の女神だろう?」
「君たちはそう思っているらしいが、違うみたいだね。どうやら彼女にはその力はない」
「え……?」
「僕の魂には、シルディスの魂の一部が溶け込んでいる。だから、僕には一部だけど、彼女の記憶と能力がある。その力で、この世界の仕組みを作った」

 ……そうだ…… さっき覚えがあると思った、彼の魂の匂い。この匂いはシルディスのものだ……

「仕組み……? どういう事だ!?」
「申し訳ないが、今はこれ以上話す事はできない。でも――」
 マコトは私の方を向いて、言葉を続けた。
「君は何かを知っているみたいだね。この旅の間に、僕の知っている事を少しずつ話そうか」

 * * *

 翌朝、大勢の歓声に見送られて、私たちは王都を旅立った。
 まずは西に。ラントの町を目指して――

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(メモ)
 お遊びみたいな(Ep.8)
 (#32)
 大地と豊穣の神(#8)


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