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【連載小説】ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい[#154]116 旅路の始まり/デニス

ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~

116 旅路の始まり/デニス

◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…前世(前・魔王討伐隊『英雄』のアシュリー)の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。15歳。今回の討伐隊での冒険者の『サポーター』
・デニス…リリアンの先輩でSランク冒険者。24歳。今回の討伐隊での冒険者の『英雄』
・シアン…前・魔王討伐隊の一人。アシュリーとは討伐隊になる前からの仲間だった。今回の討伐隊の顧問役。36歳。
・マコト(真)…神の国(日本)から召喚された、今回の『勇者』。本人曰く、初代の勇者と同一人物らしい。
・マーガレット(マーニャ)…2代前の『英雄』で、且つ今回の討伐隊の教会の『英雄』。マーニャの名で冒険者をしていた。
・ニール(ニコラス)…リリアンの冒険者仲間の少年。15歳。実は前『英雄』クリストファーの息子で、現国王の甥。今回の討伐隊、王族の『英雄』
・ウォレス…シルディス国の第二王子で、今回の討伐隊の王族の『サポーター』。18歳。自信家で女好き。
・メルヴィン…教会の魔法使いで『サポーター』。前・魔王討伐隊『英雄』と同じ姿形で同じ名前を名乗っている。

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 馬車がガタンと大きく弾むと、それに合わせて見ている窓からの風景も大きく揺れる。
 この季節の空色は淡く、街道沿いの木々にも葉が少ないせいか、寒そうに白けて見えた。

 流石に寒風の季節に旅をする者は少ない。しかし街道沿いにある町や村を辿りながらであれば、大雪でも降らない限りはさほどの問題はない。
 流石に北の方面は避けようと、先ずは東を目指して進む事になった。

 右腕にめた『英雄』の腕輪に、左手でそっと触れる。これは、以前にアシュリーさんが着けていたものだそうだ。

 幼かった俺がとても尊敬していた人。それだけでなく子供心に憧れ以上の気持ちを向けていた彼女は、魔王を倒す旅の途中で死んでしまった。
 どうにかシアンさんが連れ帰れる事ができたのは、あの人の片腕だけだったのだと。そして、その片腕に嵌まっていたのがこの腕輪なのだと。

 俺は彼女の後を追いかけたくて、『英雄』になりたいと願っていた。でも追いかけるはずだった相手は、思いもがけないところから姿を現した。

 まさか、1年半以上もずっと同じ冒険者ギルドで活動していた後輩のリリアンが、アシュリーさんの生まれ変わりだったなんて……

 そのリリアンは今、俺たちの乗る馬車の隣を、狼の足で軽快に駆けている。

「リリアン、大丈夫かー? 疲れてないか??」
 御者の隣に座ったシアンさんが掛けた言葉に、はい大丈夫ですと可愛らしい声で答えるのが聞こえた。

 リリアンは馬車に弱く、ひどく酔ってしまうのだ。だから、こうして自分の足で走ってついてきている。
 どうやら狼獣人の彼女にとっては、走る事自体は全く苦ではないらしい。しかも今は半獣化しているから尚更だろう。

 普段は黒毛の狼の耳と尾を持つ獣人の姿だが、半獣化すると手足も狼のそれになる。
 完全獣化すると真っ黒い狼の姿になれる事も、俺は知っている。でも、今はその姿を皆に見せるつもりはないらしい。

「彼女、ずいぶんと元気な子なんだね」
 馬車の窓からリリアンを盗み見ているのに気づかれたのか、神の国から来た『勇者』のマコトが声をかけて来た。
「ええ、狼獣人なので馬車に乗るよりもああして走る方が楽なのだと――」
「デニス」
 マコトが俺の言葉を遮った。

丁寧ていねいな口調はやめようと言ったじゃないか。確かに僕はこの世界に呼ばれた、いわば客人にあたる人間だろうが、この旅では仲間同士だ。それに僕と君とじゃ、年もさほど違わないだろう?」

 マコトはそうは言うが、正直彼の年齢は見た感じだけでは全くわからない。年齢どころか、性別だって怪しい。口を開かずに黙っていれば、女だと間違われてもおかしくない容姿をしている。

「デニスは今幾つなんだ?」
「24、ですが……」
「僕は25だ。一つしか変わらない。それともこの世界では、年齢がそんなに上下関係に影響するのか? そうだとしたら、マーガレットが一番偉いって事になりそうだけど」

 いや、それは違うな。
 確かに、教会の魔法使いで『英雄』のマーガレットは長命の種族エルフで、俺たちが生まれる以前から魔法使いをしていたそうだから、少なくともこのメンバーの中では一番年上って事になる。
 じゃあ、だから彼女が偉いのかというとそうではない。
 彼女はずっと『マーニャ』という名で冒険者をしていた。その時には仲間として、どっちが上だとかそういう事は取り払った付き合いをしていた。だから彼女の正体が元神巫女様だったとわかっても、今更態度を変える気にはならなかった。

「ああ、そうだな。すまない……」
「別に謝るような事じゃないだろう?」
 マコトはおかしそうに微笑みながら言った。

「なあー、神の国の話を聞かせてくれないか?」
 ニールが随分と馴れ馴れしい様子でマコトに話しかける。
「ああ、いいよ。どんな話が聞きたい?」
 聞きたがりのニールの言葉に、マコトは人の良さそうな笑顔で応えた。

 年齢で言えば、この中ではニールが一番年下だ。でも、王族の『英雄』である彼は、立場上は一行のリーダーという事になっている。
 そんな肩書を持っていても、本人は偉ぶるつもりは全くないようだ。それどころか自分の知識不足をしっかりと理解していて、俺たちを遠慮なく頼ってくる。

 彼も本当の名は『ニコラス』と言って、前・魔王討伐隊の『英雄』だったクリストファー様の一人息子だ。
 マーガレットとはまた違う理由で、彼も冒険者活動をしていた。まだ冒険者見習いだと言うのに、先輩の俺にしょっちゅうクエストに連れて行けとせがんでいたものだ。
 そのころには田舎貴族のお坊ちゃんだと自称していたし、まさか王族だなんて思いもしていなかったが。

「チッ」
 ニールとマコトが楽しそうに話す姿を見て、ウォレスが舌打ちをしたのが耳に届いた。
 ニールの従兄弟で、この国の第二王子であるウォレスは、ニールの事を嫌っているそうだ。どうやらそれを隠すつもりはないらしい。
 彼はニールの『サポーター』としてここにいるはずなのに…… これじゃあ先が思いやられるな。

 馬車の中、反対側の窓際では黒髪の男が無表情で窓の外を眺めている。
 教会の『サポーター』のメルヴィンだ。彼は前・討伐隊では『英雄』をしていた、と、表向きはそういう事になっている。
 でも、シアンさんとリリアンによると、彼はメルヴィン様の『偽物』なんだそうだ。

「そろそろ町に着くぞー」
 シアンさんが、こちらに向かって声をかけてきた。

 本来なら7名で編成される魔王討伐隊に、今回は顧問役がついた。
 それが前・討伐隊『サポーター』だったシアンさん。俺の兄貴分でもある人だ。

「この町からラントの町までは、馬車を降りて歩いていくからな」
 シアンさんの言葉に、ニールがえーーと不満そうな声を上げた。

 * * *

「どうせなら馬車でラントまで行けばいいのに。なんでわざわざ降りて歩かなきゃいけないんだ」

 ウォレスはあからさまに不満げな口調で言うと、いらだったように足元の石を蹴飛ばした。その言葉に続くのは、俺は王子なんだぞとか、なんで俺がこんな事をとか、その辺りだ。

「ウォレス様は鍛えてらっしゃいますし、このくらいは何て事はないですよね」
 リリアンがそう言った事で一度は止んだが、しばらくするとまた同じ事を言い始める。

 ラントの一つ手前の町からは馬車を降りて徒歩に切り替えるのには、一応理由があるのだとシアンさんが言っていた。
 まずは互いにいろんな話をする機会を持ちたい。でも町では他のヤツに聞かれる心配があるから、思い切りは話せない。
 馬車を貸し切りにしたって御者は外せない。そいつがいくら口の堅いやつだったとしても、やっぱり聞いてるヤツがいないに越したことはないだろうと。

「まあ、これから旅をする仲間なんだ。ぼちぼち歩きながら、まずは腹を割って話でもしようや」
 シアンさんが、皆に向けてそう言った。

「腹を割ってって事は、隠さずに正直に言えって事だよな? なあ、ニコラス。あの時、お前ズルをしただろう?」
 開口一番にウォレスがそんな事を言い出した。

「あの時って?」
「俺との試合の時だよ。とぼけるんじゃねえ」

 王族の代表を決める為の試合で、ニールはウォレスを見事に打ち負かしたのだそうだ。
 俺は見ていなかったが、顧問役として観戦していたシアンさんからは、ニールがかなりいい動きをしていたと聞いている。

「あの試合なら、俺も見ていた。あの結果はニールの実力だろう。諦めろ」
 シアンさんがそう言うと、ウォレスはまた面白くなさそうに舌打ちをした。
「本当なら俺が『英雄』になるハズだったのに……」

「私も見ていたわ。ニール、随分と立派になったわね。特別な訓練でもしていたの?」

 まさかこんなところで、マーガレット……いや、マーニャが話に加わってくるとは思わなかった。
 元々、彼女は仲間だったが、今の俺たちはマーニャが何かを企んでいるんじゃないかとにらんでいる。
 が、こんな風に以前の様に当たり前に話しかけてきて、ちょっと拍子抜けした。

「あ…… うん、アランがいい先生を紹介してくれてさ。強いだけじゃなく、美人で……」
「それってもしかして、第二騎士団の女性騎士か?」

 ニールが少し戸惑いながら話した内容に、ウォレスが反応した。
「ああ、リリスさんって言うんだけど…… って、なんでお前が知っているんだよ」
「えらい美人で腕もたつ騎士がいるって、第一騎士団にまで噂が聞こえてた。俺が『英雄』になったら、『サポーター』にスカウトしようかと思っていたんだ」

 ウォレスが言うように、今までも王族代表の『英雄』には大抵騎士が『サポーター』として付いていた。今回のように『英雄』『サポーター』ともに、王族から選出される事はあまり前例がない。

「それに、どうせなら女の方がいい。しかも美人なら尚更だろう」

 ウォレスが下心を含んだ笑みを見せる。そういう言い方をするのも、あわよくばを狙っての事だろう。
 眉目秀麗びもくしゅうれいで国中の女性からの人気を集めている王子だ。黙っていても女が寄ってくるだろうに。

 まあ、男として女に興味を持つのは当然だが、手あたり次第みたいなのはそりゃあ良くは思われない。
 それにそのリリスという女性騎士は、リリアンが魔道具で大人に化けた姿で、つまり俺の好きな女だ。
 横で聞いていて、なんだか面白くない気分になってきた。

 こちら側でそんな話をしている間に、前を歩いていたシアンさんが歩調を少し緩めて、メルヴィンの隣に並んだ。

「なあ、メルヴィン。お前は何者だ?」
「何者って…… 昔の仲間相手にひどい言いようだな、
 シアンさんの言葉に、少し首を傾げるようにして答える。
 そのメルヴィンに向けて、細い目を少し吊り上げながらシアンさんが言葉を刺した。

「お前はメルヴィンじゃない」

「……大司教の前でも言っていたな。なんでお前はそう思うんだ? 俺があれから年を重ねていないように見えるからか?」
 メルヴィンはふっと笑って言った。
 
 それは、確かにそう思う。
 前・魔王討伐隊の『英雄』だったメルヴィン様は、当時24歳。あれから16年たっているのだから、もう40歳近くになっているはずだ。しかし今俺たちと連れ立って歩く彼の容姿は、俺と大して変わらぬ年頃に見える。
 ただ、本物のメルヴィン様はハーフエルフだ。ハーフエルフは純粋なエルフ程ではないが、長命な事が多い。そう思えば、さほど不思議ではない。
 むしろ、当時20歳で今は36歳のシアンさんが、28歳くらいにしか見えない方がよっぽどおかしい。俺たちと同じ、ただの人間のはずなのに。

「いや、本物のメルヴィンとお前では魔力が違う」
「……ほう」
「俺は右目に『龍の眼』を持っている。この目で見れば魔力の匂いを感じる事ができる」
 シアンさんは、右目を覆う眼帯に手を触れながら、言葉を続けた。
「お前がメルヴィンであれば知っているはずだ。あの爺様にもらった」

 シアンさんが言っているのは、高位魔獣の一体、古龍エンシェントドラゴンの事だ。
 人に化けると、面倒みが良くて人のいい爺さんで、めっぽう強い。俺たちもこの間まで、その爺さんに鍛えてもらっていた。

「知らないな」
 メルヴィンは素直にそれを否定した。
「お前がどう思ったとしても、俺はメルヴィンだ。お前の知っているメルヴィンとは違うだけなんだろう」
「……なるほど、な」
 ただ、同じ名前で似ているだけなんだと、そう言われてしまえばそれ以上に言える事はない。

 街道を渡る風は、せかすように俺たちを後ろからあおっている。
 その風と同じ行く先へ、シアンさんは細めた目を向けた。

 気付くと、マコトの隣にリリアンが並んで歩いている。
 何か話をしているようだが、小声でぼそぼそとしか聞こえない。
 いや、盗み聞きをするつもりは全くないんだが。でもリリアンが真面目な顔で話をしているのが少し気になった。

 そのうちに、ラントの町が遠くに見えてきた。

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(メモ)
 腕輪(Ep.17)
 幼いデニス(Ep.1)
 馬車酔い(#35)
 半獣化(#4)
 エルフ、長命(#19)
 ニールを嫌っている(#37)
 古龍(Ep.10、#87)


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