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【連載小説】ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい[#165]126 魔王城/シアン

ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~

126 魔王城/シアン

◆登場人物紹介
・魔王討伐隊…リリアン(主人公・サポーター)、シアン(顧問役)、ニール(英雄・リーダー)、マコト(勇者・異世界人)、デニス(英雄)、マーニャ(英雄)、ジャスパー(サポーター)、アラン(サポーター)
・ルシアス…魔王配下の上位魔族の一人。戦闘に長けていて、黒い鎧を着た戦士の姿をしている。16年前、九尾を殺した。

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「ご、ごめん…… 俺、リーダーなのに…… 何にもできなかった……」

 ルシアスと名乗った鎧の魔族が去った後、ニールはそう言って項垂うなだれた。
 ジャスパーは頭を抱えながら、何かをぶつぶつと呟いていた。
 マーニャはリリアンに詰め寄っていて、リリアンは首を振りながらただ謝っていて、そんなリリアンをマコトがかばった。

 俺らに回復魔法をかけてくれたのはアランだった。アラン自身も肩から血を流していた。あの魔族の斬撃ざんげきが当たったのだろう。

「なあ」
 デニスが俺に訊いた。
「あれは…… リリアンの魔法はなんだったんだ?」
「『転移の魔法』だよな。でも……」

 他のヤツらだけを転移させるだなんて、しかもあんなに大きな魔法陣は見た事がない。
 マーニャのあの様子を見る限り、おそらく教会の魔法使いでも使えないほどの魔法なんだろう。

「もう少し…… もう少し待ってください」
 悲しそうな目でマーニャにそう言っているリリアンの瞳の奥で、何かが鈍く光ったように見えた。

 * * *

 結局、魔王城へ辿り着いても尚、リリアンのマジックバッグはその効力を失う事はなかった。
 あれ以来、「何故」とマーニャがリリアンを追求する事はなくなった。でも多分皆が思っている。彼女が只ならぬ者なのだろうと。

 魔王の城は広く、深く、さらに深い。普通に進んでも魔王の玉座には辿り着けない。
 この城はそれ自体が大きなダンジョンになっており、外からの招かざる客を拒んでいる。

 これが俺が今回の討伐隊に同行した理由の一つでもある。
 でも、16年前の記憶を必死で頭の中から掘り返そうとしてみても、なかなか上手く繋がらない。

「確か…… こっちだ」
 ようやく見つけたわずかな記憶を元に、右手の道を指さした。
「あの時、最初は左の道を進んだ。ここからかなり進んだ先に、大きな部屋があって。そこで魔族と交戦した。そして……」
 ……先の道に向けている自分の指から、視線を外すことができない。俺には、彼女の顔を見ることができない。

「アッシュが死んだ」
 ニールが小さく驚いたような声を上げたのが聞こえた。
 それ以外には、誰も何も言わなかった。

「あの後ここまで退却して、今度は右の道を行った。左の道も間違いじゃなかったかもしれない。でも少なくとも右の道は確実に玉座に繋がっている。でも……」

 ふぅと、息を吐いた。

「きっと、あいつがいる」
 その名前を言う事はできなかった。

「この間の、鎧の魔族か?」
「……ああ」
 でも多分それだけじゃない。それを口にする勇気が、俺にはない。

 * * *

 時には王城のような広い廊下を。
 時には洞窟のような岩だらけの道を。
 また崩れた壁を乗り越え、瓦礫がれきの間をぬうように。

 ひたすらに進んだ先で大きな広間に出た。魔法の灯りにでも照らされているのか、広間はぼんやりと薄い明るさを保っている。

 その中央に、見た事のある少年が立っていた。
「いらっしゃい。良く来たね」
 先日、王都で会ったマルクスだ。でも今のあいつには、ルシアスと同じような黒い魔力がまとわりついている。
 マルクスの姿を認めたニールが、一歩前に出て口を開いた。

「マルクス…… やっぱりお前……」
「そうだと言ったじゃないか」
 そう言って、少年は少し寂しそうに微笑んだ。

「俺はお前と戦いたくない」
「おれだって、君たちと戦いたくないよ。でも少なくとも君たちは、ここに遊びに来たんじゃないんだろう?」
「……」
「おれたちの国を侵しているのは君たちだよ。おれたちは父様を守らなきゃいけないんだ」
「だって…… それは魔族が人間を……」

「この星のニンゲンは、全て父様のかてだ。父様に食われて当然の魂を、集めて何がいけないんだ?」
 ……そんなひどい事を当たり前の様に言う。見た目はあどけない少年でも、やっぱりあれは魔族なんだ。

「ニンゲンだって食う為に獣を狩るだろう? おれたちだって生きる為に獣を捕って食べている。父様はそれがニンゲンなだけだ。それに……」
 マルクスの人好きのしそうなその顔が、冷めた表情に変わった。

「父様を死なせるわけにはいかないんだよ。だから、おれは君たちを止めなきゃいけない」

 マルクスがそう言うと、彼の足元から魔法陣が現れる。そこから光が湧き上がり、見上げる程の大きさの二つの石像の形をとった。
 魔力で動く石像。ダンジョンでよく見るやつだ。

「あれはゴーレムだよな。でもアニーとは全く違うな」
 わざと気楽そうな事を言ってみせると、リリアンがそれを受けて返した。
「ええ。それにアニーの方がずっと性能はいいです。あれは掃除や料理はできませんから」

 まあ、そりゃそうだろう。アニーを基準にして話すからおかしく聞こえるが、本当ならあの石像が普通のゴーレムだろう。アニーはサムが作ったんだ。そこいらのゴーレムとは別格だ。

「でもあれはおそらくパワーがあります」
 そう言って、リリアンは鉤爪クローに手をかける。他の皆も、カチャリと武器を鳴らせたのが聞こえた。

 と、俺らが見ている前で、マルクスが立つ隣にさらに新たな魔法陣が現れた。
 先ほどのゴーレムたちの時のように光が湧き上がり、その光は人の形をとる。

 現れたのは別の魔族。黒く重厚なローブに、顔を隠す禍々まがまがしい仮面。
 その体だけでなく、手にした大きな杖にまで黒い魔力を纏わせている。その魔力の強さは今までで一番だろう。

「ビフロス……」
 リリアンが小さくヤツの名を呟いた。

「マルクス、主がお呼びだ」
 仮面の奥から、静かな声が響く。
「はーい。じゃあおれは行くね」
 マルクスはまるで友だちにそうするように、バイバイと手を振る。そのまま足元に現れた魔法陣と一緒にすぅと消えた。

「我らの代わりにこいつらが相手をしよう」
 ビフロスがそう言って杖を振ると、また新しい大きな魔法陣が浮かび上がる。そこから現れた巨大な魔獣に見覚えがあった。

「シアさん……あれは」

 リリアンの言葉に無言でうなずいた。
 俺たちを見下ろす毛むくじゃらの巨体は、一見するとオーガのようだ。しかしその肩からはそれぞれ2本ずつ、二対の腕が生えており、その体に乗っている頭はまるでヒキガエルのようにも見え、とても醜い。
 魔獣が嬉しそうによだれを垂らしながら大きな口を開けると、口の中に並んだ針山のような牙が見えた。

「ああ、あれは……アッシュを食った魔獣だ」
「!!」
 俺の言葉を聞いた皆の間に、緊張が走る。
 そんな俺らを置いて、ビフロスは魔獣と入れ替わりで魔法陣に消えていった。

 一方にはマルクスが召喚した2体のゴーレム。もう一方には強大で不気味な魔獣。
 あいつら上位魔族ほどじゃなくとも、厄介な相手には違いない。

 皆に声をかけようと息を吸った瞬間に、新しい異様な気配に気が付いた。

 懐かしい様な、でも何かが歪んで濁っているような……
 この気配はあの時と同じだ。

 緊張で、心臓の音が跳ねた。

 何かの足音が響く。部屋の奥から何かが近づいてくる。
「シアさん、魔族はもう1体いると言いましたよね」
「……ああ、言った…… リリアン……すまない……」
「え……?」

 俺の言葉に、リリアンが不思議そうな顔をする。
 ああ、そうだよな。俺が何で謝ったのかがわからないんだろう。
 でももうすぐだ…… きっとすぐにわかる……

「あの時、俺が倒さないといけなかったのに……でも倒せなかったんだ……」
 靴音のする方を見つめる。あの時も『彼女』はこうして現れた……

 部屋の奥にある暗闇から現れた魔族は、長い黒い髪、赤い瞳、すらりとした女性のわりに高い背。そして手にしているのは『英雄の剣』……

「……アッシュ……」
 愛しい、その名を呼んだ。

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・マルクス…魔王配下の上位魔族の一人。10歳程度の少年の姿をしていて、ダンジョンなど物を作る力に長けている。戦闘は苦手。王都で薬売りをしているときにニールと親しくなった。
・ビフロス…魔王配下の上位魔族の一人。黒いローブ姿に禍々しい仮面をつけており、魔法に長けているだけでなく魔獣を召喚して操る。16年前にアシュリーが捕らわれた時に戦っていた相手。
・アシュリー(アッシュ)…リリアンの前世で、前・魔王討伐隊の『英雄』。長い黒髪で深紅の瞳を持つ、女性剣士。魔王との戦いの前に魔獣に食われて命を落とした、と思われていた。


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