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【連載小説】ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい[#108]85 友達/ニール

ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~

85 友達/ニール

◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。転生前は前・魔王討伐隊、『英雄』のアシュリー
・ニール…主人公リリアンの友人で、冒険者見習いとして活動している自称貴族の少年
・アラン…ニールの「冒険者の先生」をしているBランク冒険者
・ミリア…『樫の木亭』の給仕(ウエイトレス)をしている狐獣人の少女
・デニス…西の冒険者ギルドに所属するAランクの先輩冒険者。リリアンに好意を抱いている。
・シアン…前・魔王討伐隊の一人で、デニスの兄貴分の冒険者

・カイル…リリアンの兄で、灰狼族の若き族長。銀の髪と尾を持つ。
・タングス…仙狐(3本の尾を持つ白毛の狐)の兄妹の兄。前・魔王討伐隊たちとは顔見知り
・シャーメ…仙狐の兄妹の妹。二人とも20歳程度の人狐の姿になれる。

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 冒険者見習いになって西の冒険者ギルドに活動の拠点を移して、もうすぐ半年になる。もうすっかり、皆に『西のギルドの仲間』として認められるようになったと思う。

 今日も先輩冒険者たちとクエストに行って来た。もちろん、俺は手伝いだけどな。
 だいぶ冒険者の活動にも慣れてきて、デニスさんたち以外の先輩にもよくクエストに誘ってもらっている。
 クエストの後はいつもの様に『樫の木亭』に行く。店の手伝いをしながら、合間を見て夕飯を済ませるのにも慣れてきた。

「あれ? 今日は皆は来てないの?」
 軽く店内を見回して、ミリアさんに声を掛けた。
「来てますよ、個室に居ます。リリちゃんのお兄さんが訪ねていらしてて」
 へえ! リリアンの兄貴って事は、同じ狼獣人だよな。
 男の獣人、しかも友達の家族。当然のように興味が沸いた。

「ちょっとのぞいてきてもいいかなぁ?」
「わざわざ個室を使っているという事は、訳があるのかもしれませんよ」
 俺の独り言を聞き付けたアランが、釘を刺すように言う。遠慮しろって言いたいんだろう。でも気になるよなぁ。

 興味津々の俺の様子を見てか、ミリアさんがくすりと笑った。
「聞いてみればいいんじゃないですか? さっき、デニスさんもそんな感じで気にしていましたけど、今はあの部屋に居ますし」

 そうだよな。俺たち友達だもんな。友達の兄貴に挨拶するくらいはいいよな。
 個室に向かうと、ちゃっかりアランも付いてきた。

 * * *

 個室の扉をノックすると、リリアンの声で返事があった。
「うん、ニール。どうしたの?」
「あ、いや。お前の兄貴が来てるって…… デニスさんたちもそこに居るって聞いたから」
「ああ、皆でご飯食べてたのよ。もう終わっちゃったけれど」
 確かに、リリアンの肩越しに見えるテーブルの上はほとんど片付けられている。

「俺も挨拶してもいいかな?」
「すいません、邪魔をするなとニールには言ったんですが」
 アランも気になってたクセに。俺を言い訳に使うのはズルいぞ。

「ああ、皆に紹介するね」
 笑ってそう言うと、リリアンは俺たちを部屋の中に迎え入れてくれた。

 皆の視線が俺たちに向いている。うん、なんだか緊張するな。
 リリアン、デニスさん、シアンさん。それ以外の3人全員が獣人で、皆して耳を立ててこちらに向けている。
 3人とも白っぽい毛色で、一人だけグレーがかっている。そのうち男の獣人は二人。見えてる耳だけじゃ、何の獣人かわからないな。どっちが兄貴だ?

 そう思った時に、ガタッという音とともに獣人の女の子が立ち上がった。
「リリちゃん、そいつ誰?」
 何故か俺たちの方をにらみながら言う彼女に、リリアンが優しく答える。
「うん? 誰って、友達だよ? ニールって――」

「なんでそいつから、お母さんの匂いがするの?」

 一瞬、言われた事が理解できなかった。
 お母さんって? どういう意味だ?

「お母さんの匂いだけじゃない…… サムおねえちゃんの匂いがする」
「そっちのヤツからは、メルにいちゃんの匂いも」
 半ば怒っているように言う女の子の言葉に続けて、男の獣人の片方がアランを指さした。

「え? なんの事だ? 匂いって?」
 振り向いてアランを見ると、わからないと言うように首を横に振る。

「なんで、そいつらがお母さんのアミュレットを持っているの?」

 彼女の言葉に心当たりがあった。
 ……アミュレットって、もしかして……

「ナインテールの尾の事?」
 そうだ、今日のクエストはアラクネ狩りだった。
 アラクネは女性の体を持つ大型の蜘蛛くもの魔獣だ。状態異常耐性効果があるナインテールの尾が、蜘蛛毒に対して役立つからと、こっそりと持っていった。
 クエストが終わってそのまま『樫の木亭』に来たから、そのアミュレットも持ったままだ。これの事なのか?

「それはサムおねえちゃんとメルにいちゃんにあげた物なのに」

 サム、メル…… 聞いた事がある名前だ。それは……
「サ、サマンサ様とメルヴィン様……?」
 斜め後ろから、アランの震えるような声がした。
 そうだ。前回の魔王討伐隊の一員で、母様と父様のかつての仲間の…… そして、シアンさんの……

 彼女の隣にいるシアンさんに視線を移す。シアンさんは俺たちの方を向いたまま右目の眼帯を外した。
 こないだ皆の前で眼帯をずらした時には、その下が見えない様に手で隠していた。今は、全く隠すつもりはないようだ。
 眼帯の下からギョロリとした目と鱗状の肌が現れ、一瞬驚きで身が固まる。そんな俺たちを気にする様子もなく、シアンさんは俺たちを凝視した。

 目をらせずにいると、シアンさんが口を開いた。
「……アラン、ニール。どういう事だ? なんでお前たちがを持っている?」
「こ、これは……マー――」
「ニール!」
 アランが叱咤しったするように、俺の言葉を止めた。
(これの入手経路については、誰にも言わないと約束したはずです)
 こっそりと耳打ちされた言葉にはっとした。ああ、そうだ、言っちゃいけないんだ。でも……

「二人にあげた尻尾を……あんたたちが奪ったの? ひどい!」
 女の子は獣のうなり声を上げながら、まるで今にも噛みついてきそうな様子で言い放った。

「ち、違う……!!」

「お母さんが魔族に殺されたのも、あんたたち人間の所為せいじゃない! それでも皆は人間を恨んだりはしなかったし、私たちだってそんな事思いもしなかった。でもあんたたちはそうやって、平気で仲間同士で殺し合うんだ!! しかも私たちの大好きなおねえちゃんたちまで!! なんの為に私たちがいのち――」

「シャーメ!!」

 不意に、リリアンが叫んだ。
「止めなさい。キンキニフレル」
 リリアンの言った事の後半はよくわからなかったけれど、それを聞いて獣人の女の子はハッと気が付いたように言葉を止めた。

 代わりに言葉を発したのはシアンさんだった。
「……お前らが…… サムを殺したのか?」
 え? ころ……?

 シアさんの体から何かがにじみ出ている気がして、肌がぴりぴりとしびれた。
 怒っている……
 俺なんかでもすぐにわかる程に、殺気を放っている。

「サマンサ様は……亡くなられたのですか?」
 アランが静かに驚いた様な声を上げる。

「亡くなっています。先日シアさんと、彼女の最期を知る者に会ってきました。彼女の物は全てが持ち去られたそうです。その中には彼女のアミュレットと、メルのアミュレットも含まれていました」
 淡々と話しながら俺たちを見るリリアンの黒い瞳が、中で赤く燃えている様にも見えた。

「いったい、サムに何をしたの?」
「俺たちは、何もしていないっ」
「なら、それをどこで手に入れたの?」
「言えません」
 アランが強い口調で答えた。
 確かに言わない約束だけど。でも、このままじゃ……

「何で言えないの? 後ろめたい事があるんじゃないの?」
 リリアンまで、俺たちを憎むようににらみ付ける。
 違う。信じてくれ…… 俺たちは友だ――

「ニール。見損なったわ」
 気分が悪い。横を向いて、そう吐き捨てるように言ったのが聞こえた。

 あ――

「帰る。カイル、タングス、シャーメ、行きましょう」
 そう言って、もう俺の顔を見もせずに、リリアンは部屋を出て行った。

 続いて獣人たちが俺たちを睨んで出て行くと、その後にシアンさんも黙って付いて行く。
「お、おい! 皆、待てよ!!」
 デニスさんがそう叫んで後を追うと、部屋には俺とアランだけが残された。

 アランがふぅーと長く息を吐いたのが聞こえて、我に返った。

「あ…… 俺たちは…… 違う。そんな事はしていない……」
「……ですね。しかしリリアンさんとシアンさんは……かなりご立腹のようです……」

 なんでこんな事に……
 すがるようにアランの方を見た。

「……変な勘ぐりをしたくはないのですが…… マーニャさんはこれをどこで手に入れたのでしょうか?」
「あ――」

「これの入手経路は、私たちではわかりません。でも、もしもリリアンさんの言う事が本当ならば、これを持っている私たちも共犯なのかもしれませんね……」

 * * *

 部屋のベッドに体を預けて、天井を見上げた。
 何もない空間のはずなのに、今はそこに何かが見える。
 皆で笑ったり、しゃべったり、クエストに行ったり、美味いもん食ったり。そんな光景が浮かんでは消える。

 さっきの…… あんなリリアンは初めて見た。
 いつもいつも笑ってた彼女が、俺を憎むような目で睨んでて。あの目が、脳裏に焼き付いて離れない。思い出すとまたつらい気持ちが奥から沸いてくる。

「違うんだ……」

 そんな事、くうに向かって呟いたって、誰にも届かない。明日、ちゃんとリリアンたちに言わないと。

 なあ、俺たち友だちだよな?
 ちゃんと話せばわかってくれるよな?
 そうしたらまた、一緒にクエストとかに行けるよな?

 それでまたあの『樫の木亭』で、皆で焼き鳥とか食べながらさ。
 あーでもないこーでもないって、他愛のない話なんてしてさ……

 見上げている天井に描かれた文様が、溢れた何かで滲んで揺らいだ。

 * * *

 次の日から、まるで避けられているかの様に、ぱたりとリリアンに会わなくなった。
 リリアンだけじゃない。デニスさんにも、シアンさんにも。

 3人が旅に出たのだと知ったのは、十日も過ぎてからの事だった。

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<おまけ・席順について(散々もめた)>

タ シ シャ  □
[テーブル]  扉
カ リ デ   □

 仙狐二人を、シアが収めて自分の両隣に座らせました。
「ったく、おめーらは。大人しく俺の隣に座ってろって!(保護者風)」

 二人はシアも好きですが、リリ(アッシュ)の方がもっと好きでとても懐いてます。
 シャーメがそれを正直に言うもんだから、シアがちぇって舌打ちしてました。

(メモ)
 ナインテールの尾(#19)
 ナインテール(Ep.10)
 サムの最期(#23)


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<第1話はこちらから>


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