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【連載小説】ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい[#176]閑話11 ラントの夜/ある娘の体験談

ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~

閑話11 ラントの夜/ある娘の体験談

「117 ラントの町再び/シアン」の、その晩の話です。
※直接的な描写はありませんが、性的な内容を意味している表現が多くあります。ご了承ください。

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 『英雄は色を好む』という言葉を、姉様から聞いたことがある。

 酒で有名なこの町には、多くの冒険者が立ち寄る。その為、この店のような春を売る店もたくさん立ち並んでいる。
 その中でも一番人気のこの店に、ぱっとしない私が勤める事が出来たのは運が良かったのだろう。
 決して安くはないこの店にくる客は比較的行儀がよい者が多く、おかげて面倒なトラブルに巻き込まれる事もなく済んでいる。

 そんなこの町に、勇者様のご一行が訪れたらしい。
 一行の中には、第二王子のウォレス様がいらっしゃるそうだ。姉様方は一目見たいと落ち着かなく騒ぎ立てた。
 さらに今まで表舞台に全く顔を出すことのなかったニコラス様もいらっしゃると。

 私もそのお姿を一目見る為に町に出たいと思ったけれど、すでに遅い時間で店の営業は始まっている。あわよくば明日の出立時にお見掛けできればいいのだけれど。そう思って諦めた。

 町に勇者様ご一行がいらしていても、店の中ではいつも通りの日常だ。
 この仕事が好きな訳じゃない。この仕事でないと生きられなかっただけだ。
 店の客の自慢話ににこにこと笑って受け答えをし、一生懸命自分を売り込む。好きではなくても、得意でもなくても、自分を買ってもらえなければ生きていくこともできない
 酔っぱらって乱暴にする人は怖いし、とても嫌だ。それでもお金の為に、相手をするしかなかった。

 その日がいつも通りじゃなくなったのは、少し遅い時間になってからだった。
 早いうちは時間制で身を売っていた女たちは遅い時間になるほどに、一晩買ってくれる相手を探し始める。それは客の方もわかっていて、一晩を求める客たちは敢えてこの時間を選んで店に来る。

 来客のドアベルの音に応えた出迎えの挨拶が、いつもより慌てた様子なのに気付いて顔を向けた。
 まさか、本物の王子様がこんな店に、しかもこんな時間に来るなんて。つまりはそういう事が目的なのだろう。

 姉さま方は今まで相手をしていた客をほっぽって、ウォレス様の隣に座りたがった。それはそうだろう。上手く彼のお眼鏡に叶えば、こんな生活からも抜け出せるかもしれない。
 でも私にはそこまで自信はない。器量良しでもなければ、話が上手いわけでもない、もちろん人気もない。一度だけテーブルに料理を持っていき、間近で王子様のお顔を見る機会を得て、それだけで満足していた。

 しばらくすると、また店が沸き立った。
 次に来店したのは、元討伐隊のシアン様だ。王都からの広報で、今回の討伐隊に同行している事は聞いていた。おそらく先に来た王子様の護衛としてやってきたのだろう。

 その予想通り、シアン様はウォレス様と同じテーブルに着き、弱い酒を選んだ。隣に座る女性に鼻の下を伸ばすような事もしない。

 でも、シアン様には各地に『お気に入り』を作っているらしいとの噂がある。シアン様に気に入られた女性は、その店で『お墨付き』として大事にされているらしいとも聞いた。
 そんなシアン様が、この店で女性に興味を示さないのは仕事中だからだろうと、裏でそんな話をしていた。

 しばらくして、その風向きが大きく変わった。
 ウォレス様は彼がただ護衛の任として付き添うだけな事を嫌がって、彼にも女性を買って部屋に入るように言ったのだ。

 シアン様から『大人しい女性を』との要望があり、急ぎ店の奥に今晩の相手が決まってない女が集められた。
 シアン様がそう望まれても、女側はそういう訳にはいかない。なんといっても、あのシアン様の『お気に入り』になれるかもしれない、またとないチャンスなのだ。
 シアン様の要望を無視して、店のナンバーツーが彼の元へ行った。でも、すぐに返された。

 次々と姉様方が何人も彼に目通しされ、また返されてくる。いい加減、彼の機嫌が悪くなってきたようだと、何人目かの姉様が言った。

 元討伐隊の一人だ。不機嫌で暴れるような事はさすがにないとは思いたいが、ないとも言いきれない。そのもしもの事があったときには、体に痣を作る程度では済まないだろう。

 そう思ったのか皆が一歩退き、それに乗り遅れた私が女主人の眼前に残された。

 これがチャンスだと思えるほどの度胸は、私にはない。粗相そそうがあってはならない。そうおびえる心を抑えながらシアン様の隣に座った。
 彼は私のぎこちない笑顔に気付いてか、一瞬不思議そうな顔をされた。

 しまった。
 本当ならば、こんな顔は見せてはいけないのだ。何があってもにっこりと笑って客をもてなし、客の気分を良くさせる。それが私たちの仕事なのに。

 でもシアン様はそんな私に怒る様子もなく、逆に私に笑いかけられ、名前を尋ねられた。
 思いがけず温かそうな笑顔に触れて、ほっとしながら名前を答える。その時、向かいから笑いを含んだような声が飛んできた。

「あんた、そういうのが好みなのか?」
 顔を向けると、ウォレス様がニヤニヤしながらこちらをご覧になられている。
「うるせーな。どうせなら大人しく俺の言うことをきく女の方がいいじゃねぇか」
「ははっ、なるほど。そういうプレイがシュミなのか」
 シアン様の言葉に、ウォレス様はそうかそうかと声をあげて笑われた。

「それに、どんな女だってあいつじゃないからな」
 ぽそりとシアン様が呟かれた声は、多分私にだけ聞こえた。

「んー、まあ大丈夫だろう」
 彼はそう仰ると、私の肩を抱いて女主人を呼んだ。

 * * *

 服を脱いだ彼の体に跨り、一生懸命に手を動かす。

「うっ…… いいぞ…… もう少し強く…… ふっ……」

 私の手の動きに反応して、シアン様が熱い息を漏らした。

 この仕事を始めてまだひと月ほどだけれど、こんな経験は初めてだ……
 性的な奉仕をさせられるのならまだわかる。でも今の私がしている、これはただのマッサージだ。しかもいやらしい要素は全くない。
 さすがに鍛えている彼の背中はとても逞しい。その背中に手を押しあて、凝りをほぐすように頼まれた。しかも私は服を着たままだし、彼も上半身を脱いでいるだけだ。

「あの…… いいんでしょうか?」
 不安になってシアン様に尋ねた。

「まあ、女を買えって約束だからな。ちゃんと支払いはするから安心してくれや。買ったんだから、その範囲であれば何をしてもらっても構わないだろう? それともこういうのはダメだったか?」
「い、いいえ! ダメではないです!」

 正直、夜のご奉仕の自信はあまりない。いつも客に言われたとおりに体を開くのが精いっぱいだ。
 むしろよく姉様方にマッサージを頼まれているから、こっちの方が得意なくらいで。

「じゃあ、もうちょい頼むわ。若い奴らと違って、疲れもたまりやすくてなぁ」
 シアン様が変な事を言った。
 若い奴らって。シアン様も見た感じではまだ20代後半に入ったくらいかそのくらいだ。
 確かに15歳で冒険者になったばかりの人たちに比べたら、ずっと年も上なんだろうけれど。

「まだそんな風に言うお歳にはみえませんよ」
 そう伝えると、見た目だけはなーと笑って応えた。

 和やかに話をしながらも、彼はたまに壁の方に視線を向けている。あの壁の向こうはウォレス様のお部屋だ。壁の奥から漏れてくる音に耳を澄ませて警戒しているらしい。

 一通りマッサージを済ませると、シアン様は大きく伸びをしてソファーに腰かけた。
 彼の頼みで、お茶を淹れて菓子を並べ、私も彼の隣に腰かける。

 この部屋に入ってからは、彼は私の肩すら抱かない。隣に座っても、必要以上に寄り添うことを望んではこない。
 茶を飲み、菓子をつまみながら、彼は私の身の上話を求めた。

 ここよりももっと外れの、田舎町の生まれな事。
 物心ついた時には母と二人で父は居なかった事。
 その母を病で亡くし、一人で生きる為に仕事を求めて町を出た事。
 王都を目指す途中のこの町でお金が尽きて、この仕事に就いた事。
 ……本当は、この仕事は苦手な事。

 そんな私の話を聞き、彼も自分の話を少しだけ聞かせてくれた。
 もうずっとずっと前、討伐隊になる前から想っている女性がいる事。
 何度気持ちを伝えても、その想いが通じなかった事。
 そしてまだその女性の事が忘れられず、他の女性に気持ちを向けられない事。

 だから、女性を部屋に入れた時にはいつもこんな過ごし方をしているのだそうだ。そしてそれでも構わないような、大人しい女性を求められているのだそうだ。
 不甲斐ふがいないよなと、苦い笑い顔を私に向けた。

「俺はお前を一晩買った。だからどんな形であれ、お前の一晩は俺のものだと、そう思ってくれるのなら、俺がこんな不甲斐ないヤツだった事は内緒にしてくれねえか?」
 そして、どうせなら激しい夜だったとでも言っておいてくれやと、そう言ってお道化どけて笑う彼に、笑いながら頷き返した。

「俺はここで休むから、お前はベッドで休んでくれ」
 シアン様はそう言うと、ウォレス様の部屋に面した壁に背を向けて腰を下した。

「で、でも……」
「ベッドを使わなくてきれいなままだと、余計な事を心配されるだろう? ああ、なんなら乱しておいた方がいいのか?」

 そう言われてしまうと、断ることはできない。
 彼にブランケットを渡し、言われた通りにベッドに入る。慣れぬ仕事で疲れが溜まっていたのか、すぐに意識は不覚に沈んでいった。

 * * *

 朝、目が覚めるとシアン様はもう部屋にはいなかった。
 本当なら見送りをしないといけないのに。慌てて部屋から飛び出し、階下に降りると女主人に見つかってしまった。

 怒られると思い首を竦めた私に、彼女の大きな声が降ってきた。

「よくやったね!」
「……え?」

 シアン様はお帰りの際、とても上機嫌だったそうだ。
 昨晩はとても良かったと。女には無理をさせてしまったから、朝はしばらくゆっくり休ませてやってほしいと。
 そう言って、追加料金もしっかり払ってくださって。そしてまたこの店に来た際には必ず私をつけるように。だから私の事は大切にしてやってほしいと。

 つまり私はシアン様の『お気に入り』になれたらしい。

 でも私は知っている。あの人にはずっと昔から本当に心から想う方がいる事を。
 きっと旅先でも同じような事をされているのだろう。それは彼の『お気に入り』たちだけが知っているのだろう。

 部屋に戻ると、テーブルの上に手紙とチップが置いてあった。手紙には短く、がんばれよとだけ書いてあった。

 お姉様方は私に、シアン様にどんな事をされたのかと、根ほり葉ほり聞き出そうと躍起やっきになった。
 私はそのたびに、顔を赤らめて見せて『とてもじゃないけれど言えません』『あんな事初めてで……とても素敵でした』『私とあの方だけの秘密なのです』などとはぐらかす事を覚えた。
 以前よりは、したたかになれているだろうか。

 彼が置いて行ってくれたチップと手紙。これを心の支えにしよう、そしてお金を貯められたらこの仕事をやめて王都に行こうと、そう思った。


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