【連載小説】ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい[#177]後日談2 花束/ミリア
ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~
後日談2 花束/ミリア
討伐隊の皆が旅から帰って来た。でも無事に、とは言い難い帰還だった。
マーニャさんは帰ってこなかった。
あの優しいマーニャさんが。
クエストを手伝ってほしいと頼まれると、「まったく、しょうがないわね」なんて言いながらも、美しい金の髪をかきあげて笑っていたマーニャさんが。
落ち込んでいると、あの透き通る紫水晶の瞳を細めながら、じっと話を聞いてくれたマーニャさんが。
皆と笑いながら、めいっぱい食べて、飲んで。お酒には強くて、いっくら飲んでも顔色のひとつも変えなくて。まるで皆のお姉さんみたいで…… それで……
約20年おきに復活していた魔王は、もう二度と復活しないのだそうだ。
その為に、勇者のマコト様が魔王を倒すだけではなく、大司教様と元神巫女であるマーニャさんの御力も必要だったのだと、前討伐隊のサマンサ様がお話をされた。
討伐隊のメルヴィン様はまた教会の奥に籠られたという。次の大司教になる為の準備をしているんじゃないかと、専らの噂だ。
教会と言えば、しばらく出かけると言って家を出て行ったジャスパーくんが、いつの間にやら教会でそこそこの地位についているそうだ。
今は討伐隊の後処理があるのだとかで、やっぱりあまり家に帰らないのよとシェリーさんが寂しそうに笑って言った。
私が『樫の木亭』で、いつもと変わらぬ毎日を過ごしている間に、いつもと変わらぬままに平和は訪れていた。
* * *
「「「お帰りなさいー!!」」」
皆の声に合わせてジョッキを掲げる。
今日の『樫の木亭』は、身内と常連さんだけの貸し切りだ。そうでもしないと、次から次へと人が押し寄せてしまう。
皆で囲むテーブルにはたくさんのご馳走が並べられた。色々な魔獣の串焼き肉に、もちろん焼き鳥も。シチューにグラタン、チーズにドライフルーツやナッツ、燻製肉、ソーセージ、サンドイッチには具材がこぼれそうな程に挟んである。
そんな料理に舌鼓を打ちながら、皆の旅の話を聞かせてもらう。皆とこんな時間を過ごすのは本当に久しぶりで、たくさんしゃべってたくさん笑った。
ふと見ると、相変わらず皆は肉ばかり食べて、サラダがなかなか進んでいない。
「まったく、世話がやけるんだから」
そんな言葉を零しながらサラダを皆に取り分けていると、ジャスパーくんが注文を取りに来た。
「ジャスパーくん、ごめんね。もう少ししたら私も手伝うからね」
そう言った私に、彼は苦笑いだけで応える。
「いいのよ。そいつはまた家出してどこかをほっつき歩いていてたんだから。ほらほら、その分しっかり働きなさいな」
カウンターからシェリーさんの声が飛んでくると、ジャスパーくんは慌てて厨房に戻っていった。
その後姿を見送って視線を戻すと、同じようにジャスパーくんを視線で追っていたリリちゃんと目が合った。
なんとなく可笑しくなって、ふふっと二人で笑った。
――皆が帰ってきたその日の晩に、リリちゃんの家に招待された。
そこでリリちゃん、シアンさん、デニスさんから、皆には内緒だとの前置きで話があった。
リリちゃんは、本当は獣人ではないのだそうだ。魔王に封じられていた神様に仕えている、聖獣の一人(人と言うのか疑問だけれど)なんだそうだ。
シアンさんもとっくに普通の人ではなくなっていたそうだ。彼もやはり聖獣から力を貰っていて…… だから歳もとらなかったのだと。
そしてデニスさん。彼も聖獣からスカウトされているそうで、将来的にはシアンさんと同じ様に聖獣の力を得る事になるらしい。
「まあ、そうは言っても、俺らは今まで通りで何も変わらないけどな。でも」
そこまで話すと、シアンさんは私の頭に手を載せて、ごめんなと言った。
「何がごめんなの? 別に謝る事ではないじゃない」
私がそう言うと、そっかそっかと笑いながら、まだ私の頭を撫でてくれる。
謝られるような事じゃあないのはわかっている。
でも、そうか…… うん……
3人はこの先、ずっとずっと歳をとらずに、ずっと長生きをするんだろう。
私だけ一人で歳をとって…… なんだか置いて行かれてしまうような気がして、ちょっと寂しい気持ちになっていた。
「ねえ、君は巫女の力を強く持っているようだね」
「え……?」
ふいに話しかけられて、自分がぼーっと思い出し事をしていた事に気が付いた。
見ると、リリちゃんが連れてきたお友達の一人、ギルさんがにこにこと微笑みながらこちらを見ている。
「ほら、今度王都に新しい神様の神殿を作るだろう? 良かったらそこの巫女をやってもらえないかな?」
どうやらギルさんは、その神殿の関係者らしい。
詳しい話を聞かせてもらうと、ここの給仕の仕事と兼業して構わないだとか、あまつさえ空いた時間だけでいいだとか、なんだか破格の条件だ。
しかも私一人でなく、ギルさんと一緒のお仕事なんだそうで。それなら私にでもできるだろう。
私には皆のような戦える力はない。
皆が魔王を倒すために旅をしている間にも、私はいつも通りに過ごしていただけで、何もできることはなかった。
でも平和になってからも、まだやることはある。私も皆のように何かできるのなら……
そう思って、その話を受ける事にした。
でもまさか、私に話をしてくれたギルさん本人が、その新しい神様だとは思わなかったけれど。
* * *
「うわあ、すごいね。君たち、器用なんだねぇ」
ギルさんが、私たちの手元を見ながら嬉しそうに笑う。
今日は神殿の部屋を使わせていただいて、リリちゃんとロッテさんと一緒にバザーで売るためのアクセサリーを作っている。引き受けたのはいいけれど、その数が半端ない。
このところ先王ケヴィン様が中心となって、王都で開くイベントを色々と企画しているらしい。なんでも民衆を飽きさせないようにとか、そんな事を仰っているそうだ。
このバザーも良い企画だと褒められたんだそうで、そんな話も含めてニールくんが嬉しそうに教えてくれた。
「リリアンはこういうの苦手なの?」
リボンを手に苦戦しているリリちゃんに向かって、ギルさんが話しかける。
「あーー、うん。お菓子を作ったり料理したりはできるんだけど、縫い物はちょっと……」
「あとリリちゃんはセンスがないのよね」
「あー、ミリアちゃん、ひっどいーー」
リリちゃんが私に向かって、ぷっくりと頬を膨らせてみせると、それを見て皆で笑った。
「こりゃ孤児院の皆にも手伝ってもらったらいいんじゃねえか」
後から私たちの様子を見に来たシアンさんが、せっせと手伝いながらそう言った。
「それはいいですね。売り上げの一部を孤児院にも渡せますし」
シアンさんはさっそくリボンをひっくり返しながら、どういう作業をしてもらうかの検証を始めている。
シアンさんも手先は器用なのだ。彼が来てからは、リリちゃんはちゃっかり完成品の袋詰めや片づけに回って、作業をする役をシアンさんに任せていた。
新しい神様――ギヴリス様――つまり、ギルさんの巫女になって、半年が経つ。この巫女としての生活は、思ったよりもずっと楽チンで平和だった。
基本的には町の皆からの御祈りやお供えを受ける役をすればいいだけで、しかも一日中でなくても構わない。
だから今まで通り『樫の木亭』で給仕の仕事をさせてもらっている。そして空いた時間だけ神殿を開けている。でも誰も来ない時間には今までみたいに本を読んだり、お裁縫をしたり、そんな風に自由に過ごしてよかった。
あとギルさんご本人も手伝ってくれる。今日は僕がやるからいいよなんて言って、リリちゃんとお茶をしにお出掛けさせてくれたりもする。
ちなみにギルさんが神殿に立つときにも、私とおなじような神殿衣を着ているものだから、まさか神様ご本人だとは、皆には全くばれていない。
「嬉しいなぁ。こんなに沢山の人が僕に会いに来てくれる」
リリちゃんによると、ギルさんはお菓子が大好きなんだそうだ。いつもそんな風に言いながら、お供えのお菓子を見て嬉しそうに笑う。
今日も『樫の木亭』のランチ営業が終わり、一旦神殿に仕事の為に戻った。
「ミリアちゃん、ニールが来ているよ」
ギルさんは何故か私をミリアちゃんと呼ぶ。
ギルさんは神様で、私なんかよりずっとずーっと偉い。だから私の事なんて呼び捨てでいいのに。そう言ったけれど、この方が友達みたいだからって言って譲らない。
「奥にお茶を用意してあるから。じゃあ、僕は帰るね」
「えっ?」
まだ時間は早いし、一緒にお茶をしていけばいいのに。でもギルさんは、お供えのお菓子をいくつか持って、さっさと転移の魔法で帰ってしまった。
最近ニールくんは王城での用事が忙しいらしい。日中はずっとお城に篭りきりだ。
夜になれば、今日も疲れたーなんて言いながら『樫の木亭』に夕飯を食べにくる。だから、いつも顔は合わせているし、元気なのはわかっているけれど。
「いらっしゃい、ニールくん。今日はお休みだったの?」
そう言いながら奥の部屋の扉を開ける。
そこには何故か顔を真っ赤にしたニールくんが、花束を持って立っていた。
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