【連載小説】ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい[#026]22 魔獣の住処/カイル
ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~
22 魔獣の住処/カイル
◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。前世では冒険者Sランクの人間の剣士だった。
・カイル…リリアンの兄で、灰狼族の若き族長。銀の髪と尾を持つ。
・イリス…リリアンの姉で、三つ子の真ん中。銀の髪と尾を持つ。
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この旅で、最初に訪問した古龍の長の住処では、かなり手荒く出迎えられた。
だが、ギヴリスの名を出すと大人しくなり話を聞いてくれた。
古龍の噂は聞いた事があったが、実際に見るのは初めてだった。見上げる程のその大きさに圧倒されたが、話をする段になるとしゅるしゅると身が縮み、竜の翼と尾を持つ竜人の姿に変わった。
高位の魔獣は人語を話すとは知っていたが、まさか人型になれるとは思いもしなかった……
その姿でなら、獣人の中央都市や人間の町に行っても全くバレないそうだ。実際に町に住んでいる者もいるらしい。
人の姿になった古龍は先ほどの荒れっぷりからは想像できないような好々爺だった。リリアンの差し入れた古酒と豚の塩漬けを喜び、酒や料理の話を聞きたがった。
仙狐の長の住処に居たのはそれぞれ3本の尾を持つ2頭の狐だった。
古龍の時のような荒い出迎えを覚悟していたが、彼らはリリアンの匂いを嗅ぎ前世の名を聞くと、喜んでくるくると彼女にまとわりついてきた。
どうやら彼らともリリアンは前世で知っていたらしく、しかもただの知り合いという雰囲気ではなさそうだ。何やら訳ありそうだったので詳しくは訊かなかった。
彼らも人型になると狐の耳と尾を持つ狐獣人の姿で、僕らより五つ程年上に見える青年だった。リリアンは彼らの為に紅茶と焼き菓子を用意していて、人の町や流行の話で盛り上がった。
どちらの高位魔獣も、暮らしぶりは普通の獣人とさほど変わらなかった。
住処にはちゃんとした家が建っているし、家具も揃っている。出された食事も僕たちのものと変わらない。
そしてここでも僕らは普通に応接間に通され、お茶を頂いている。
今までと違うのは、彼女が最初から背中に翼を持つ鳥人の姿で現れた事だ。流石に3度目ともなれば危険を覚悟する事もなかったが、ここまで平和的な展開とも思わず、なんだか拍子抜けをした。
「ごめんなさいねぇ。せっかく来てくれたのに、主人が出掛けてて」
「さっきすれ違いましたよ。急いでる様子でしたけど、何かあったんですか?」
さっき……? リリアンの言葉を聞き、考えを巡らせる。
もしかして僕らの上を過ぎていったあの鳥か?
どうやら昨晩から娘さんが帰らないらしい。それで旦那さんが探し回っているそうだ。
「多分、目立つように大きめになって飛んでるんだと思うのだけど、あの人、ほら、圧がすごいから…… 下手に刺激するとあの子はますます出てこないと思うのよね」
はぁーと母親の顔をしてため息をついた。リリアンはうんうんと頷いて見せている。
えっと…… 今の話のどこの部分に頷いてるんだろう? リリアンは……
「私たちも探すの手伝いましょうか? 鼻ききますよ」
リリアンがニコニコして自分の鼻を指さした。
うん、困っているのなら手を貸すのはやぶさかではない。
イリスは危なっかしいので、鳥人の奥さん――シュティスさんと留守番する事になった。
「気を付けて行ってきてね~~」
ひらひらと手を振りながらそう言うイリスも、やけに順応が早い気がするよ。さっきはしっかりお茶のお代わりを頂いていたし。
旦那さんと娘さんに会った時に僕らの事がわかるように、シュティスさんのスカーフをお借りしてそれぞれの首に巻く。さらに娘さんの匂いを辿る為に、彼女のハンカチをお借りした。
* * *
来る時通って来た『門』の所から獣化した。匂いを辿るにはこの姿の方が都合が良い。
道を辿りながら匂いを探すと、そう時間をかけずにそれらしい跡を見つけることができた。が……
「あれ?」
リリアンも気づいた様だ。
「これ娘さんの匂いだけじゃない。誰か一緒にいるね」
そう話していると、来る時に聞いたあのざぁっという羽ばたく音が遠くから聞こえてきた。
「あ、バスクさんだ」
リリアンは獣化を解き、開けた所でシュティスさんのスカーフを持って大きく手を振った。
上空を巨大な鳥が羽ばたいて降りてくる。
来る時には影しか見なかったからどんな姿かわからなかったけど、今ならしっかりと見える。
「……あれが、鳳凰か……」
その5色に光る羽根を広げた姿は、本当に美しかった……
その鳳凰は僕らの目の前に降り立つと同時に、壮年の逞しい男性の姿に変わった。
その前の鳥の姿とはちょっと……いや、かなりギャップがある。
「お久しぶりです、バスクさん」
「……君は??」
リリアンが前世の名を名乗ると、バスクさんはああと言って軽く笑って見せた。
「成程。主から聞いた事がある…… 確かに匂いが同じだな」
「先ほどお宅にお伺いしました。それでシュティスさんから聞いたのですが娘さんが居なくなったそうで。私たちが探すのをお手伝いします。もう娘さんの匂いは見つけてあるので、辿るだけです」
リリアンが娘さんのハンカチを手にしてみせると、バスクさんは少しバツが悪そうな顔になった。
「いや…… 身内の事なのに、申し訳ない……」
「早く見つけて、お昼ご飯にしましょう」
リリアンはそう言ってニッコリ笑って見せた。
娘さんの匂いは道を逸れて、森の奥の方へ続いている。リリアンはバスクさんと話をしているので、僕だけが獣化して匂いを辿る事にした。
「娘さん、誰かと一緒みたいですね。詳しい話は聞いていないのですが、何かあったんですか??」
「ああ。昨日あの子が動物の仔を連れて来てな。また飼いたいとか言うんだろうと思って、親に返して来いと言ったのだ。そのまま出ていったから返しに行ったのかと思ったのだが、それきり帰ってこない」
え? 魔獣がペットを飼うって話なのか?
「それ、ちゃんと話を聞いてあげた方が良いんじゃないですか? 早く見つけてあげないとですね」
リリアンがそう言うと、バスクさんはああと気まずそうに答えた。
もうしばらく匂いを辿ると、周りはさらに大きな古い木々がそびえている光景に変わって来た。
木々の間から差す日が広く当たる場所近くに立派な老樹があり、その洞で翼を持つ赤毛の少女と金の耳を尾を持つ獣人の子供が眠っていた。あれは……
「金獅子族……」
僕の後ろでそう呟くリリアンの声に振り向くと、彼女はなぜか寂しそうな顔をした。
* * *
鳳凰の娘さんのティルダちゃんと獅子人の子供を連れて家に戻ると、シュティスさんとイリスはお昼御飯を作って待っていてくれた。
イリスはシュティスさんとかなり仲良くしてもらったそうで、今着けている可愛いエプロンもお借りしたらしい。
目を覚ました二人は昨日から何も食べていなかったようだ。シチューとパンをガツガツと音のしそうな勢いで食べ始めた。
ティルダちゃんは見た感じは僕らより五つ程年下くらいか。獅子人の子はまだ5歳にも満たないくらいに幼い。
僕らも昼食を頂いた。柔らかく煮込まれたシチューも、木の実が練り込んであるまだ温かいパンもとても美味しかった。
二人ともひとしきり腹が膨れると少しほっとした表情に変わっていた。
シュティスさんが入れてくれたお茶を飲み、一息ついたところで話を聞く事にした。バスクさんは、またティルダちゃんに圧をかけてしまいそうなので、一歩後ろに下がって話を聞いてもらう。
こういうのはイリスが得意だ。隣に座って優しく話しかけると、ティルダちゃんはぽつりぽつりと話し始めた。
普段からティルダちゃんは小鳥の姿になって山の周りで遊んでいるそうだ。
昨日もそんな感じでうろうろとしていると、偉そうな服を着た獣人たちが子供を抱えて山の麓に入るのを見かけた。様子を窺いながら後をついて行くと、その子供を放り出して剣で切りつけようとしていて、ティルダちゃんは咄嗟に大きな鳥の姿になって子供を拐って逃げてきたんだそうだ。
その子供が獅子人の仔、コニーくんだったという話だ。
「でも家に帰ったら、おとーさんは何も聞かないで親に返せって言うんだもん! でも返したらまたこの子どうなるかわからないじゃん!」
それでコニー君を連れて家出した。
うん、やっぱりそれは……バスクさんがいけないね……
皆の視線がバスクさんに集中すると、バスクさんは腕を組んだまま気まずそうに目線を逸らせた。
「う、うむ…… すまん……」
喧嘩相手のお父さんが探し回ってても、そりゃあ出て来るわけないよね。
次にコニー君の事情を聞く事になった。
やっぱり彼はあの金獅子城の子らしい。そして……
「僕が……『獣使い』を持って産まれなかったから…… 長の子供にふさわしくないって……」
コニー君がそう言うと、ティルダちゃんは彼の手をぎゅっと握った。
「……金獅子の長の一族は、特にプライドを重んじると聞いた事がある。それがこういう事か……」
大きなため息が出た。他の種族の事情だと頭ではわかってはいる。でも気分の良い話と思えないのは、リリアンの影響があるのだろう……
「たかがそんな事で主に頂いた命を無駄にしようとするとは……」
バスクさんは呆れ顔をしてそう吐き出すように言った。
そして、コニー君に向けて手をかざすと、その手から放たれた光は一瞬コニー君を包み込み、砕け散るように消えていった。
「これで良いだろう。もう君は家に帰れるはずだ」
「いったい何をしたんですか?」
「『獣使い』を与えた。我は主に仕える身だからな。このくらいの事は出来る」
……内心、ひどく驚いた。
『獣使い』の力は、神殿で『黒の森の王』から頂く事も出来るとは知っていたけど、まさか鳳凰の長にもそれを与える力があるとは……
リリアンの方をみると、彼女は別段驚いた様子はない。むしろさっきの話にまだ怒っているようだった。
「でも、一度自分を殺そうとした家族の元に帰れるの?」
そうリリアンにしては珍しく冷たい目をして、強く言い放った。
話し合いはなかなか纏まらなかった。
夫妻はそれでも一族の元に帰すべきだと言う。
ティルダちゃんは一緒に居たいと主張した。
そしてリリアンは、金獅子族の元に帰すのを強固に反対した。
当のコニー君は、「お母さんの所に帰りたい……」と、力なく言ってうな垂れた。
まだ独りで生きる道を決めるには幼すぎるのだろう。
城に戻るのは茨の道だと、リリアンは言う。確かに『獣使い』を得た事で、またすぐに殺される事はないだろう。
でも、長の一族としての居場所もないかもしれない。
でも本人が望むのなら、そうしてあげるのが一番だろうと思う。その結果が喜ばしい物ではなかったとしても。
「リリアン…… 僕に提案があるんだけど……」
そう話しかけると、リリアンの耳がぴくりと動いた。
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