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【連載小説】ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい[#012]11 ドワーフの国

ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~

11 ドワーフの国

◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。前世では冒険者Sランクの人間の剣士だった。冒険者デビューしたばかり。完全獣化で黒狼の姿になれる。

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 ラントの町から南の国境までは、狼の足で丸二日かかった。馬車なら六日はかかる距離だから、時間はだいぶ短縮できている。こういう場合には獣人で良かったと思う。

 この国境の先はドワーフの国だ。ドワーフは鍛冶にけた種族なので、私の様に装備を求めて訪れる他種族も多い。その為、国境近くの町ミーテは多くの鍛冶職人が集まる、職人の町になっていた。

 国境に近い門の脇には見張り台のついた大きな塔が建っている。その塔からの視線を感じながら、町の中央に向かう大きな通りを進む。通りに面した表には国境を越えてきた冒険者の為の定食屋や酒場、宿屋などが並んでいる。
 その建物の間にアーチ状の入口があり、さらに奥に進める道がある。その先が職人通りだ。

 通りを進んで少し奥まった所にある武器屋に入った。店と言うよりは、ほぼ工房そのままの作りになっている。ここの主人はあまり自分で売る気はなく、作るだけ作ったら他の店に卸してしまう。どうやらこの様子だと、そのやり方は昔から変わらぬようだ。
「こんにちは」
 声をあげると、店の奥手で作業をしていた銀鼠ぎんねず色の髪を束ねた壮年のドワーフがこちらを振り返った。

「武器を作っていただきたいのです」
 そう言うと、そのドワーフ、ゴードンさんは渋面じゅうめんを作った
「……俺はオーダーメイドは受け付けてないんだがな」
 この人には一筋縄では仕事を受けてもらえない事は、前世の時に知っている。

「お土産も用意してあります」
 そう言って、ラントの町で買ってきたお酒を並べた。ここまでは冒険者とのやりとりでは良くある流れなのだろう。ゴードンさんは、やれやれと言った感じで並べられた酒瓶をちらと見たが、ラインナップを見て表情が変わった。

「……嬢ちゃん。この酒の事は誰から聞いた??」
 前世の私はここに来る時には、いつも決まった酒を用意していた。今回もそれと同じ銘柄の酒を買い求めておいた。私が前世の名前を出すと、ゴードンさんはまたいぶかしげな表情になった。
「ヤツは大分前に死んだはずだ。嬢ちゃんはヤツとどんな関係だ??」
「……同じ流派の剣術を使っています」
 そう伝え、バッグから出したロングソードと腰のショートソードを一緒に手渡した。
 剣の減り方で使い手の技量や癖がわかる。そう言っていたゴードンさんなら、これを見ればわかるはずだ。

 ゴードンさんはひとしきり二振りの剣を眺めて、今度は厳しい表情で真っすぐにこちらに向いた。
「……嬢ちゃん、なんか訳ありだな??」
「はい」
 にっこりと笑って答えると、ゴードンさんの厳しい表情の緊張が解けて少し緩んだ。二つの剣を持ち作業台に向かう。
「このロングソードが扱えるスキルを持ちながら、使い込まれているのはショートソードの方だ。普段から力をセーブして使っている事もわかる。スキルがある事を隠しているな?」

 剣を手に取り、刃を磨き、油を差す。
「しかもこれは俺の打った剣だ。それをわかっていて見せたんだろう? なら欲しいのは剣じゃないな。何が欲しいんだ??」
鉤爪クローです」
「……そうか、嬢ちゃん、獣戦士か」
 勿体ねぇなと、ゴードンさんが小さく呟いた。
「わかった。鉤爪クローは作ってやる」
「ありがとうございます!」

 さらに請われて鉤爪クローを見せる。いつぞやのモーア狩りでも、先日のワイバーン狩りでも使っていたものだ。
わずかだが、爪が欠けちまってるな」
「……先日、ワイバーンを狩る時に使ったんです。でも思ったより硬かったので、ロングソードに持ち替えたんですけど……」
「ワイバーンが狩れるような代物じゃねぇな、これは。持ち替えて正解だ」
 ゴードンさんは鉤爪クローを手に取り、色々な角度から確認しながら、こちらを見ずに言った。

「で、そのワイバーンは持ってきているのか?」
「皮が使えると思ったので、解体はしましたが持ってきています。解体バラしただけで、まだなめしていないですが」
「鞣しは俺に当てがあるから大丈夫だ。それともし肉が余るようなら少し置いていってくれないか。あれには竜の肉が良く合うんだ」
 少しだけ目尻を下げたゴードンさんが指さす先には、今日持ってきた酒瓶があった。
「半分、置いて行きますね」
「それは有り難い。代わりと言っちゃなんだが、こいつも手入れしておいてやる」
 ようやく上機嫌になったゴードンさんが、表情を緩ませたのを見て、ちょっとほっとした。

「ちょっと腕を触らせてくれ」
 鉤爪クロー作りの参考にするからと、職人らしい節ぶった手で、腕の太さや筋肉の付き方などを確認された。言われたとおりに、腕に力を入れたり、曲げ伸ばしたりして見てもらう。

「嬢ちゃん、冒険者ランクはいくつだ??」
「今はDランクです」
「……思ったより低いな」
「まだ冒険者になったばかりですから」
「て、ことは15歳か」
「はい」
「そうか。他種族の事はよくわからんから、すまないな」

 そう言うゴードンさんたちドワーフの年齢も、見た目じゃ私にはわからない。ドワーフは成人するまでは人間とあまり変わらないが、壮年期が格別に長い。
 ゴードンさんも前世で会っていた頃と見た目が全く変わらないので、正直ちょっと驚いた。いったい幾つなんだろう……

 帰りしな、ワイバーンの皮と肉を渡す。大きめの個体だったので、肉は半分でもかなりの量だ。しばらく楽しめると、ゴードンさんは喜んだ。

「完成までひと月かかる。その頃に取りに来い」
 そん時にはまた手土産を忘れずになと、念を押された。
「最初、そっけない態度ですまんかったな…… ヤツは俺の武器を持って行って、でもそれでも死んだんだ。ヤツの強さを俺は知っていた。簡単に死ぬようなヤツじゃなかったんだ。俺の武器は……ヤツを守れなかったんだ。その事を思い出しちまった……」

 ……その言葉が、胸に刺さった。

「でも嬢ちゃんは俺を信用してくれたからな。それには俺は鍛冶師として応えなきゃいけない。いい武器を作ると約束しよう」
「よろしくお願いします」
 胸の痛みに、他に何も告げられず。なんとか作った笑顔を貼りつけて、店を後にした。

 職人通りを抜け、大通りに出た。気づけばもうすぐ夕暮れだ。この町で宿をとっても良かったが、なんとなく立ち止まってはいけない気がして町を出た。
 国境が閉まる時間にはまだ間に合うはずだ。シルディス王国に一度戻って、今度こそ故郷を目指そう。


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