招かれざる獣たち 第3話「旅の冒険者たちと出会う」
皆の視線が冒険者ギルドの入り口に向けられていて、つられて自分の視線もそちらに向いた。
二人組の冒険者がギルドの扉をくぐって来たところだった。注目を集めているのは見慣れない顔だからというだけではない。片方の男がでっかいボーボー鳥を抱えているからだ。しかも1羽どころじゃない。5羽……いやもっとかもしれない。
獲物を担いだ赤毛の男がそこで立ち止まると、もう一人の薄茶の髪の男がカウンターに向かって声を張り上げた。
「こいつを買い取ってほしい。並んでるところをすまねえが、先に獲物だけでもどっかに置かせてもらえねえか?」
その声でカウンターの奥から係員らしい女性が出てくる。獲物を抱えた男が導かれて受付横の別室に向かうと、声をあげたもう一人の男は列の最後尾に並んだ。
「さっきのボーボー鳥が大した事のないように見えますね」
カウンターの受付嬢はくすりと笑って僕に言うと、次の順番の者を笑顔で呼んだ。そのまま僕はカウンターの前から追い出された。
用事が終わってもまだ帰る気にはなれなかった。もしかしたら……と、虫の良い期待が沸いてくる。一休みでもするような顔をして、依頼掲示板のすぐそばのテーブル席につき、先ほどの二人を横目で見た。
別の部屋に獲物を預けてきた赤毛の男が戻って来て、今は二人で列に並んでいる。係員に言われた言葉を伝えているのか、何やら話をしている。
二人とも、二十歳をいくらか過ぎたくらいだろうか。旅の冒険者、しかもランクも高そうだ。
赤毛の男は背に大剣と盾を背負っている。その上でさらに獲物を抱えていたのに何ともないような顔をしていた。背も高いし、体つきもいい。きっと腕っぷしも強いのだろう。
対して、薄茶の髪の男はやややせ型で、装備も身軽そうだ。目つきも悪いしガラも悪そうだし…… なんだか怖そうだ。
順が回って来て買取を済ませたらしい二人組は、予想通りその足で依頼掲示板の前にやって来た。
二人は貼りだしてある依頼票を眺め、そのうちの一枚に目を留める。あれは、僕の依頼票だ。
「ふむ…… でもこの条件じゃあ、俺たちが受けるにしても割にあわねえな」
薄茶の髪の男の言葉に、あわよくばと期待した気持ちが崩れ去った。
そうだよな…… あの依頼票の条件だと報酬も一人分しか用意していない。二人には安すぎるだろうし、それ以上を支払う余裕は僕にはない。
でも、それでも自分にできる事をコツコツと進めて、ようやく貯めたお金なんだ。家にあるものだって、売れるものは何でも売った。
きっと彼らみたいに強ければ、僕みたいに毎日地味な薬草採集を引き受けてこつこつと稼ぐような真似をしなくても、そのくらいのお金はすぐに手に入るんだろうな……
ちょっとだけ、彼らをやっかむ気持ちが沸いた。
いやいや、自分の弱さを棚に上げても、それで強くなれるわけでもないし、お金が稼げるようになるわけではない。こんなところでくすぶっていても仕方ない。
席を立ち、掲示板の脇を通り抜けて出口に向かう。
あの二人の後ろを通り抜けようとする時、相手は自分よりも上級の冒険者サマだからと、自然に体が彼らを避けた。
と、代わりに反対側にあるテーブルに体が当たった。
「おい!!」
テーブルが揺れ、席についていた男の荒っぽい声が僕に投げつけられる。しまった…… 条件反射のようにすぐに頭を下げる。
「す、すみません!」
「ああ、すまない」
謝る僕の声に合わせ、頭の上から少し低い声がした。振り向くと、赤毛の男がこちらを向いている。
「俺の剣が通行の邪魔をしたな。すまなかった」
テーブルの男と僕との二人に向けられた謝罪の言葉に、怒っていたはずの男はバツが悪そうに黙った。
「ったく、ジャウは図体がでかいんだから、気をつけろよ」
薄茶の髪の男が赤毛の男の肩を叩く。そのまま僕の方をみて、ニカっと笑った。
「すまなかったな、坊主」
え……? 上位ランクの冒険者だろうし、怖そうな人だと思ったのに……
唖然としたまま、連れ立ってギルドを出ていく二人を見送った。
我に返り、彼らの見ていた依頼票に目を向ける。
受付嬢が言うようにこの町にはこの依頼を引き受けられるような冒険者は居ない。そして旅の冒険者でもダメだった。やっぱりこの依頼は一度取り下げよう。
掲示板から依頼票をはがして、懐に捻じ込んだ。
* * *
「あ、ラウルおにいちゃん!!」
冒険者ギルドから一番近い、飲み屋も兼ねた食堂で、聞き覚えのある可愛らしい声が僕の名を呼んだ。見覚えのある二つ結びの金髪と黒い垂れ耳が、跳ねながら僕のテーブルに寄ってくる。
「アリアちゃんもご飯を食べにきたの?」
「うん! パパたちも一緒だよ!」
パパたち? ……って事は、セリオンさんとその仲間って事だろう。そう思って、アリアちゃんが手を振る方を見ると、セリオンさんと一緒に、先ほどギルドで見かけた冒険者二人組が立っている。なるほど、二人組ではなく四人組だったのか。
「やあ、また会ったな!」
薄茶の髪の男が、僕に気さくな笑顔を向けながら手を挙げる。赤毛の大柄な男も同じように軽く手を挙げてみせた。
「パパー」
アリアちゃんはそう言って駆け寄ると、何故かセリオンさんではなく赤毛の男の手に掴まった。
あれ……? パパ??
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