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【連載小説】ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい[#133]102 再会

ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~

102 再会

◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…主人公。前世(前・魔王討伐隊『英雄』のアシュリー)の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。15歳。転移魔法や姿を変える魔法を使う事が出来、人間の騎士の姿に扮する時には『リリス』と名乗っている。
・シアン…前・魔王討伐隊の一人で、アシュリーの『サポーター』だった。35歳だが、見た目が若く26歳程度にしか見えない。ずっとアシュリーに想いを寄せていた。
・デニス…Sランクの実力を持つAランクの先輩冒険者。23歳。リリアンに好意を抱いている。
・ニール(ニコラス)…前『英雄』クリストファーの息子で、現国王の甥。14歳。正体を隠して冒険者をしている。
・アラン…デニスの後輩の冒険者。20歳。騎士団に所属しながら、ニールの「冒険者の先生」をしている。

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 王都シルディスの大教会の裏手には、広い公園のような場所がある。そこは墓地になっており、その一角に目指す墓石が立っていた。

 元は白い石だったのだろう。でも今は少しくすんでいるように見えた。

「15年も経ってるからな」
 シアンさんが言った。

「来た事、なかったのか?」
 そう訊かれて、黙ってうなずく。
 別に自分が死んだ事を、認めたくないとかそういうつもりではなく、ただここに来る理由がなかった。
 過去の自分を慰めるつもりはない。ましてや「安らかに」などと言うのも何かが違う。
 だって、私はここにいるんだから。

 墓石に刻まれた名を見て、目を見張った。
「……家名が……?」
「ああ、そうだ。あの時に、皆で話してたアシュリーの苗字だ」
「私は帰れなかったのに……」
「それでも、国を救った『英雄』だからな。報償金も出ていて、それはお前の望んだ通りに、寄付されている」
「……そうなんだ」
 よかった、と、音にはならない言葉が口からこぼれた。

「……それだけじゃない」
 黙って後ろからついて来ていたデニスさんが、口を開く。
「俺は…… あの時もあれからも、ずっとアシュリーさんに助けられていて ……言えないのはわかっていたけれど、でもありがとうって礼を言いたかった」

「……私は――」
「リリアンがこの間言ってた事も、わかってる…… でも正直、俺の中で色々と整理しきれない気持ちもある。少なくとも俺は、アシュリーさんのお陰でこうして一人前の冒険者になれたんだと、そう思っている。親に捨てられて上手く大人を頼れなくて、ひねくれかけていた俺を、アシュリーさんは救ってくれたんだ。それに……」

 そこまで言って、デニスさんはちょっと言い難そうに口をつぐんだ……

「なんですか?」
 尋ねると、何かを躊躇ちゅうちょするように、でも振り払うようにまた口を開いた。
「いいや。 ……感謝をしている、と……そう彼女に伝えたかったんだ」

「……うん」
 どう返事をしていいかわからなかった。だから、それだけ答えて視線をらせた。
 そのまままた墓石を見て、刻まれた名をそっと言葉にした。

「アシュリー・クロフォード」

 皆で考えてくれた、私の苗字だ。自分は一度も使う事もなく死んだのに、当たり前のように私の名前に添えられている。

「……なんだか不思議な感じです」
 そう言った私の頭に、温かい大きな手が乗せられた。

 * * *

 『樫の木亭』の木の扉を開けると、ドアベルが澄んだ音を響かせた。
 客人たちはその音にわざわざ扉の方を見るような事はしない。だから仕事中でもないニールがこっちを見たのは、偶然かそれとも給仕の手伝いをしている時の癖がでたのだろう。

「リ、リ、リ、リリアン!?」
 りーりーってベルの音じゃないんだから…… そう思ってニールを見ると、ひどく驚いた顔で立ち尽くしている。
 確かに、わざわざ帰って来る日を知らせてはいなかったから、不意打ちみたいになってるだろうけど、それにしては驚き過ぎじゃない??

「ニール、久しぶり」
 笑ってそう言うと、ニールは反対に泣きそうな顔になった。
「リリアン! 良かった…… 帰って来てくれて…… 俺、リリアンたちに嫌われたと思って……」

 ……あれ??

 確かに旅に出る前にはケンカ別れの振りをしてみせたけれど、あれはアランさんに頼まれてやった事で、私たちが本当に怒っていた訳ではない。ニールたちの主張も間違っていない事はちゃんとわかっている。
 こちらはデニスさんにちゃんと説明をしておいたし、ニールの方は私たちが戻る前には、アランさんがフォローをしてくれているはず…… だよね??

 そう思いながら、ニールの後ろに立つアランさんを見ると、こちらに向かって両手を合わせて頭を下げていた。
 ……え??

「……なあ、アラン。ニールに話していないのか?」
 私の背中越しに、腑に落ちないような言い方でデニスさんが声を上げた。

「すいません…… すっかり、タイミングを逃してしまいまして……」
「へ? どういう事?」
 続くアランさんの言い訳を聞いて、泣きかけていたニールがきょとんとした顔に変わる。

「あーー、俺たちがしばらく旅に出る話をアランにしたらさ。その間にニールを鍛え直したいから、協力してほしいって言われてな」
「……へ??」

「……ニール、シアン様たちが私たちに怒って見せたのは芝居だったという事です」
「しばい??」
「うーーんとね、シャーメがニールたちに色々言ったのは、あれはちょっとしたあの子の勘違いだったんだけどね……」
「ああ、そしたらアランがやれって俺たちに合図したから……」

「ええええええーーーー!?」
 ニールが大きめの声で叫んだものだから、お客さんが皆こっちを向いた。

「ニール!!」
 アランさんが小声でたしなめる横で、慌てて周りにお詫びの礼をする。
 その間に、シアさんが店主のトムさんにも詫びながら、私たちの分の飲み物を頼み、デニスさんも席についた。

「ひっでーや…… 皆で俺をだましてたんだな……」
 ニールががっくりと項垂うなだれた。
「ごめんねぇ、ニール。元はそんなつもりじゃなかったんだけどさ。でもニールに話したら、一緒に行きたがるでしょう?」

 これは本当だ。連れて行ってもらいたがりのニールが、旅の話を聞いて黙っているわけはない。
「うーー……、そりゃあ、俺も皆と一緒に行きたい……」
 ニールは否定をせずに、ねたように唇を尖らせた。
「で、アランに相談したら、それならめいっぱい突き放してから出ていってほしいって言われたんだよ」

 シアさんが言ったのも本当だ。ただ、どのようにまでとは決めていなかったし、私たちが王都を出た後でも、三日おきに――女性騎士にふんした私――がニールの特訓を手伝うと、そこまでの話を付けた上でだった。
「でも結果的には、ちゃんと将来を見定める事ができたじゃないですか。特訓にも身が入りましたし」
「うっ…… そうだけどさ、でもなぁ……」

 そうそう簡単には機嫌の直らないニールの背中を、バンバンとシアさんが叩いた。
「ニール、特訓すげえ頑張ってたそうじゃないか!! どうだ? ちったあ強くなったか?」
「ま、まあなーー」
 人の良い笑顔を向けられて、つられるようにニールもねてた顔を緩ませた。

「俺たちもだいぶ強くなったんだぞ」
「ええーー?! そういや、今までどこで何してたのさ!? 聞かせてくれよ!!」
 ニヤリと自慢げな笑みを見せるデニスさんの言葉に、すっかり以前のニールに戻った。

「また夜にでもな。今日はまず冒険者ギルドに行って報告をしてこないと。それでアランを呼びに来たんだ。ちょっと付き合ってくれ」
 アランさんに目配せをしながら席を立つデニスさんに、合わせるようにシアさんも席を立つ。
「俺も王城に報告に行ってくるわ」
 ひらひらと手を振りながらシアさんが二人に続いて店を出ると、テーブルには私とニールだけが残された。

「リリアンはどうするんだ?」
 ニールがテーブルに身を乗り出す様にして、こちらに話し掛けてきた。

 本当にさっき王都に帰って来たばかりの身だけれど、家の事はメイドゴーレムのアニーがしっかりとこなしてくれているので、別に片付ける物もなければ、洗濯をする必要もない。
 今朝まで仙狐せんこの住処でゆっくりとしていて、転移で跳んで帰って来ただけだから、疲れなども全くない。
 先王ケヴィン様へは、むしろリリスの姿で三日おきにお会いしていたので、わざわざ今日報告するような事もないし、シアさんに任せておけばいいだろう。

「今日は特に用事はないかな」
 そう答えると、ニールがいつものキラキラしたような目になった。
「じゃあ、ちょっとクエストにでも行かないか?」
「今から? そんなに時間あるかなぁ?」
「近場の簡単なクエストだったらいいだろう?」

 首をひねる私に、ニールがさらに食い込んでくる。いつもはデニスさんたちと、高ランクのクエストに行きたがるのに、どうしたんだろう?
 そう思いながらも、首を縦に振った。

 ニールと冒険者ギルドに行ったけど、近場で簡単に出来そうなクエストはグース狩りくらいだった。
 寒くなるこの季節に受けられる依頼はとても少ない。野原で採取できる薬草などは育ちが悪いし、虫や小動物たちも大抵は身を潜めてしまっているからだ。
 だから、グース狩りでも受けられるクエストがあったのは運が良かったのかもしれない。

 でもグース狩りのランクはFで、見習いのニールでも一人で受けられるような簡単な依頼だ。
 だから、わざわざ私と一緒に受けなくてもいいのだけれど、どうやらニールにとってはそこが問題ではないらしい。

 「リリアンたちが居ない間にさ。俺もたっくさん練習したんだ。剣もだけどさ、弓もだいぶ上手くなったんだぜ」

 そういえば、いつだかモーア狩りに行った時には、ニールはまだ弓の練習をはじめたばかりで、アランさんにもさんざん怒られていた。
 そうか、上達した様子を私に見せたいんだ。なんだかニールらしいなと思ってくすりと笑うと、なんだよーと不満げな口調で、でも嬉しそうな顔でニールが言った。

 王都からさほど歩かぬ距離にある大きな湖が、目的の狩り場だ。
 このクエストは、半獣化すれば私一人でも簡単に終える事ができる。でも、えてそうはせずに私も弓を持った。

 リリスとして教えた、一度に何本も矢をつがえる射法も、飛び上がったグース動く的を射るコツも、見事にこなして見せたニールは、私に向かって得意げに笑ってみせる。
 クエストに必要な10羽と別に、お土産にとさらに3羽狩った。こうしてお土産を獲って帰る事も、言わなくてももうわかっている。あの頃のニールとは全然違う。

 ここしばらくの間はリリスとしてニールをずっと見ていたはずなのに、こうしてリリアンとして彼の横に立って初めて彼のもう一つの変化に気が付いた。

「そういえば、ニール、背が伸びた?」
 そう訊くと、まあなと嬉しそうに言った。
「俺も、もうすぐ15歳になるからさ」
 うん、知っている。そしてニールの誕生日の数日後には、次の闘技大会が開かれる。私たちは、それに間に合うように王都に戻って来たんだから。

「誕生日のお祝いしないとね」
 そう言うと、ニールの顔がパーーッと明るくなった。
「ホント!? 俺、友達に誕生日祝ってもらった事ないんだよ。楽しみだな」
「ケーキも用意しないとね」
「3段に重ねたでっかいケーキがいいな!」
「そんなに食べきれるの??」
「デニスさんとマーニャさんが居ればあっという間だろう?」
 ニールがお道化どけたように言ってみせるもんだから、それもそうだねと一緒に声を上げて笑った。

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(メモ)
 デニスの子ども時代(Ep.1、#56)
 ケンカ別れ(#85、#91)
 モーア狩り(#3)


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