見出し画像

【連載小説】ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい[#130]101 露天風呂/デニス

ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~

101 露天風呂/デニス

◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。転生前は前・魔王討伐隊、『英雄』のアシュリー
・デニス…Sランクの実力を持つAランクの先輩冒険者。リリアンに好意を抱いている。
・シアン…前・魔王討伐隊の一人。アシュリーとは討伐隊になる前からの付き合いがあり、ずっと彼女に想いを寄せていた。
・タングス…現在リリアンたちが世話になっている、仙狐(3本の尾を持つ白毛の狐)の兄妹の兄
・シャーメ…仙狐兄妹の妹。二人とも今は20歳程度の人狐の姿で過ごしている。

=================

 九尾ナインテール――つまり、仙狐せんこの親は多い時には10匹もの子どもを産むのだそうだ。その為、ここ仙狐の住処は他の高位魔獣の住処に比べると広い、らしい。

 タングスとシャーメがそう言っていたんだが、俺は高位魔獣の住処といえば、他には古龍エンシェントドラゴンの爺さんのところしか知らない。あそこもかなり広い屋敷だろうと言ったら、ここのような仙狐だけの住処とは勝手が違うのだそうだ。
 古龍は一体だけの魔獣で、他の高位魔獣のような繁殖は行わない。あの屋敷にいた竜人たちに、守り神のように崇められているのだそうだ。なのであの屋敷は竜人によって用意された神殿の様なもので、古龍の爺さんだけの家というわけではないらしい。

 ともかくそういう理由で、ここには俺たちが一人ずつ使わせてもらっても余る程に部屋があるし、毎朝トレーニングをしている庭も十分な広さがあるし、風呂なんか一時いちどきに何人も入れるほどに大きいし、しかも露天なのでとても気分がいい。
 夕食の後には、なんとなく男連中が連れ立って風呂を済ませ、その後にリリアンとシャーメが仲良く風呂へ向かう、そんなのが恒例になっていた。

 今日も夕飯の片づけを済ませてから、俺だけ少し遅れて風呂場へ向かった。
 脱衣所で服を脱いでいると、風呂の方からシアンさんとタングスの話し声が聞こえる。なんだか今日はいつもに増して盛り上がっているようだ。
 タオルを片手に脱衣所を出る。外の冷たい風に肩を震わせた。
 ただでさえ寒い季節で、山の空気はさらに冷え込んでいる。その所為せいで露天風呂から立ち上る湯気がいつもより厚く、視界をぼんやりとさえぎっていた。

 早く温かい湯につかりたくて、手早く体を流して風呂へ向かうと、シアンさんの声がした。
「おいおい、デニスが来ちまったじゃねえか」

「なんだよ、おっさん。俺が来たら何か都合が悪いのかよ」
 そう言い返しながら、湯に足を差し込む。
「いいじゃん、別に。私は気にしないよーー」

 うん??
 全く予想もしていなかった、可愛らしい高い声がした。

 咄嗟とっさに湯にどぼんと胸まで浸かって、手にしたタオルで下半身を隠す。
 湯気の所為で視界は悪いが、ここまで来れば人の顔もうっすらとわかる。シアンさんと、タングスと……シャーメ!?

「ほら見てみろ。お前が気にしなくても、デニスは気にするんだよ」
「そうなの? んーー、どれどれ……」

 見てみろと言われたからか、パシャパシャと湯の音をさせながら、嬉しそうにシャーメが近づいて来る。
 でも裸で、今シャーメは人狐の姿になっていて、全く隠す様子もなく…… 白い長髪を頭の上でまとめてあるからか、肩から下の体のラインもはっきりわかる。白い肌と、柔らかそうな二つの山が目に入って、慌てて後ろを向いた。

「な、な、な、なんでシャーメがいるんだ!?」
「えー、久しぶりに皆とお風呂に入りたくってーー」
 呑気な声で返事が返ってくる。久しぶりって、少なくとも俺はシャーメと同じ風呂に入った事は一度もないぞ!?

「あー、すまんなデニス…… こいつら、元が魔獣だからか裸に対する羞恥心が俺らよりは薄いみたいなんだ……」
「狐の姿なら服を着ていなくても気にしないクセに、人になると気にするの、変なのーー」
 そうなのか? そういう問題なのか? いや、だからって見ていい訳じゃあ無いような気もするぞ。

「シャーメが気にしなさ過ぎるんだよ。僕らにだってちゃんと羞恥心はあるんだよ」
 ため息と一緒にあきれた声でタングスが言った。
「シアン兄ちゃんは家族みたいなものだからね。小さな頃から何度も一緒にお風呂に入ってるし。でもデニスは違うんだから、シャーメは早く出ろって、僕らは言ってたんだけどね」

「……あれ?」
 後ろを向いている俺の背中を、シャーメの手が撫でる。
 っちょっ! 何をしようとしてるんだ?

「デニス、傷だらけだね。これ、どうしたの??」

 ……あ……

 風呂にシャーメが居た事に驚いて、すっかり自分の事を失念していた。

 俺の背中の傷の事をシアンさんは既に知っているし、タングスも今までわざわざ訊こうとしてくる事もしなかった。でも、こうやってあからさまに背中を向けていれば…… そりゃ、気が付くよな……

「……昔、ダンジョンで魔獣にやられたんだ。みっともないよな」
 Sランク冒険者の癖に…… あの時、自分で自分を責めた言葉を思い出す。
「みっともないの? なんで?」
「……仲間を守れなくて。しかも逃げた時についた傷だ。相手に立ち向かって付いた傷じゃない」
 苦々しい気持ちで口にした言葉も、言い訳にすらならない。意気地なしだと、そう思われても仕方がないと、そう思った。
 でも俺の耳に飛び込んで来たのは、まったく違う言葉だった。

「そうなんだ? でもデニスはちゃんと生きてるじゃん」
 慰められているような言い方じゃあない。それが当たり前の事のように、シャーメが言った。

「私たちのお母さんも、おねーちゃんも死んじゃったんだよ。どんなに傷だらけでも、デニスは生きてるじゃん。良い事なのに、なんでそれがみっともないの?」

 あの時……俺はこの傷の癒えぬうちに王都に戻り、後輩冒険者のロディがクエスト中の事故で片足を失った事を知った。ちょっとした、油断だったそうだ。
 俺が先輩として、ちゃんと彼らに教えることが出来て居れば、防げた事故だったのかもしれない…… 俺はあのDランクだけでなく、自分の後輩も守れなかった。
 そう思って、自分の傷の事を皆から隠した。

 でも、そうだ。せめて死ななくて良かったと、命があって良かったんだと、ロディに言ったのは俺だった。

「デニス、その傷はもう治してもいいんじゃねえか?」
 ……やっぱり、シアンさんも、この傷を俺がわざと治していない事をわかってたんだ。

「私が治してもいいかな?」
「できるのか?」
「簡単だよーー」
 その言葉と一緒に、温かい何かに背中が覆われる。

「……すげえな。付いたばかりの傷ならともかく、こういう古傷は普通なら教会で金を積んで治してもらうようだぞ」
 自分から背中は見えないが、シアンさんの感心した言い方からすると、綺麗になったんだろう。
「えへへーー」
 シャーメの得意げな返事が、背中越しに聞こえた。

「なあ、シャーメ、タングス。高位魔獣って何なんだ? そんなすげえ魔法も使えるし、高位ってついてるけど、明らかに他の魔獣たちとは違うよな」
 シアンさんが二人に尋ねる声が聞こえる。
「僕らはあるじには聖獣と呼ばれている。神々に作られた種族だよ」

「作られたって…… でも、人間もそうだろう? 生きとし生けるものは全て神が……」
「少なくとも、我らが主は人間を作ってはいない。そしてシルディス様も」
 タングスがシアンさんの言葉を遮った。

「え……?」
 シルディス様は、俺たち人間が崇める神のはずだ…… なのに、人間を作ってはいないってのは…… いったいどういう事だ? 
「少なくとも人間を作ったのは、僕らが知っている神ではないよ」
「……どういう事だよ…… それは……」
 驚くシアンさんの声…… 俺も、驚きで言葉が出て来ない……

「これ以上は話せない。他の人にも言ったらだめだよ。リリアンにもね」
「……リリアンも知らないのか?」
「ううん、リリアンは知ってる。でも覚えていないだけ。まだ思い出しちゃいけないから」
 タングスが、そう言った。

「ところで、デニス。なんでまだそっちを向いてるの? こっち向きなよーー」
 また背中越しにシャーメが呑気な声をかけてくる。
 って、そんな簡単に向けるかよ!?

「シャーメ、シアン兄ちゃんとは違うんだから、デニスには気を使わないと」
 ……そうタングスに言われてしまうと、こうして俺だけが騒ぎ立てているのが申し訳ない気がしてきた。

「……あーー…… わかったよ。でもせめて、タオルを巻いてくれ…… ほっんと、目のやり場に困るから……」
「タオルを巻けばいいんだね! わかった! じゃあ、おねーちゃんも呼んでくるね!!」

 シャーメの嬉しそうな声と一緒に、バシャッと湯が跳ねる音がした。
 えっ!? おねーちゃんって!? 

「ちょ!! 待て!! シャーメ!!」
 シアンさんの止める声を聞きもせず、シャーメが尻尾を揺らしながら、脱衣所の方に駆けて行く。尻尾のついた尻を隠そうともせず……
 呆気あっけにとられて、ついその後姿を眺めてしまった……

 すぐに、タオルを巻いたシャーメは戻って来た。裸にタオルだけ巻いたリリアンを連れて……
「デニスさんとシアさんに、タオルを巻いて入って来いって言われたって、シャーメに言われて……」
 リリアンは少し恥ずかしそうな顔をしている。

 ……いや、言ってねえし……

「あはは、まあいいんじゃねえか? 俺らももうすぐ王都に戻るしな」
 仕方ねえなって感じで、シアンさんが言った。
「ちょっと寂しくなるね」
 タングスの言葉に、そうだなとうなずいた。

 タオルを巻いたリリアンの姿は、目のやり場に困るような、目の保養になるような…… まあ正直にいうと、ラッキーだなとは思った。
 この数か月、他のヤツらはしたことがないような経験を、ここでは沢山させてもらった。そしてもうすぐ王都で闘技大会がある。
 そんな話を皆でして、程よく体が温まった頃に二人は風呂を出ていった。

 その間、ずっと湯から出られなかった俺は、すっかりのぼせてしまった。

=================

※公共のお風呂では湯の中にタオルを入れてはいけません。良い子は真似しちゃいけないよ!

(メモ)
 背中の傷(#33、Ep.14)
 ロディ(#4、#26)
 聖獣(#28)


PREV ■ ■ ■ ■ ■ NEXT


<第1話はこちらから>


応援よろしくお願いいたします!!(*´▽`)