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【連載小説】ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい[#121]95 飛竜

ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~

95 飛竜

◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。転生前は前・魔王討伐隊、『英雄』のアシュリー。転移魔法や姿を変える魔法を使う事が出来、人間の騎士の姿に扮する時には『リリス』と名乗っている。
・シアン…前・魔王討伐隊の一人。アシュリーとは討伐隊になる前から一緒に旅をしていた。討伐隊の時に失った右目の眼に『龍の眼』を与えられている。
・ケヴィン…人間の国シルディスの先代の王で、ウォレスの祖父。2代前の『英雄』でもある。

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 失礼しますと型通りの挨拶と、丁寧ていねいなお辞儀をして、アランさんが扉を閉めた。

 しばしの間の後で、背中に掴まっているシアさんに声を掛ける。
「話をしてはダメだと、言ったではないですか」
「いやな。ミリアが眠らされてるの見て、ついカッとなっちまった」
 飛竜の姿のままで弁解を口にするが、悪いと思っているような風ではない。バレずには済んだので、あまり気にしてはいないのだろう。

「本当にシアン殿なのだな。にわかには信じられんが」
 皆を見送ったケヴィン様が目を細めながら言った。

「獣人が獣化するように竜人も竜化します。ですが彼らは獣人の国から出てはきませんから、ご覧になられた事がないのは当然かと」
「しかし、シアン殿は竜人ではない。人間であろう?」
「はい。なので変姿かえすがたの魔法石を付けていただき、こうして触れている間には私の魔力を流し込むようにしております。元々、彼は古龍エンシェントドラゴンの力を得ていたので、そこから――」
「なあ、先に戻ってもいいか?」

 ケヴィン様との話の腰を折るように、耳元で声がした。
「こうしてお前に堂々と抱き付いていられるのは嬉しいんだが、さすがにちと魔力が無くなってきてきっついわ」
「ああ、そうですね」
 背中から床に器用に跳び降りた飛竜に手を差し伸べて、変姿の魔法を解除するイメージを送る。
「っと! ちょっと待て! リリアン!」
 制止する声がしたが、もう遅かった。

「あ……」
 私の目の前で人の姿に戻ったシアさんは、やけにさっぱりとした格好をしている。細いがしっかりとした肩と腕、厚すぎる程ではないたくましい胸板から続く引き締まった腹。そこまでは普段でもよく見る姿だ。
 ここから続く先に見慣れぬモノが視界に入り、一瞬思考が止まった。

「リリアンっ! 俺の服出してくれっ」
 シアさんの両手がを視界から隠し、我に返る。慌てて横を向いたが、すでに見てしまっていた……

 ああそういえば、彼を竜化した時に脱げた服は、私がバッグに入れてたんだ。
 顔をらせたままで、マジックバッグになっている腰のポーチからシアさんの服を取り出して差し出す。彼は服を受け取ると、慌てて私の後方に移動した。

「ケヴィン様、失礼いたしました」
 眼前の紳士にそう詫びたが、どうやらこの御方は気にするどころか面白がっておられるようだ。
「自信があるのだろうが、うら若き女性に堂々と見せるような姿ではないぞ?」
 笑いながら、おそらく私の後ろでごそごそと服を着ているシアさんに向かって声をかけると、「見せたくて見せたんじゃねぇー」と焦った声が聞こえて来た。
 それを聞いたケヴィン様が、愉快そうに声をあげて笑い、つられてくすりと笑ってしまった。

「なあ、リリアンが狼から戻る時にはこんな事にはならないだろう? なんでだ?」
 ソファーに腰掛けた私の隣に、首元のボタンを止めながらシアさんがどかっと腰を下ろした。
「着装の魔法石を使っています。魔法石や魔道具を好まない獣人たちでも、身に付けている魔法石の一つです。人前で獣化を解く時に、裸になるわけにはいきませんし」
「俺にもそれ使わせてほしかったなぁ」
「竜化するだけでもぎりぎりでしたから、流石に難しいかと」
 そう言うと、ちぇっと本当に残念そうに言った。

「この度は孫がすまなかった」
「……まあ、間に合ったんで良かったです。あの王子、ちょっと問題アリなんじゃないですか?」
 シアさんがあまりにもずけずけと言うので、少し心配してケヴィン様の顔を見た。しかし、眉一つ動かす様子もない。

「だいぶ女性と遊んでいるらしい、とは聞いていたが、まさか薬を盛るような真似をするとは……」
「おそらくですが、獣人を快く思っておられないのでしょう。『獣使い』スキルの事も知っていた様ですし……」
 私の言った後に続くように、シアさんが口を開く。
「肉食系の獣人は人間より力が強いですし、には爪を立てられるとか噛みつかれるだとかそんな話も聞きますしね。良くねえヤツに変な入れ知恵でもされたんじゃないですかね?」
 その言葉を聞くと、流石にケヴィン様は深く長いため息をかれた。

「この件に関しては、申し訳ないが任せてもらえないだろうか。悪いようにはしない」
「まあ俺は、西ギルドの仲間たちが困るような事が無ければ、それでいいです」
 私も合わせてうなずいてみせる。
「ああ、それは勿論だ」
 そう言って、ケヴィン様はまたほんの少しだけ頭を下げた。

「ところで、シアン殿と会うのは久しぶりだな。旅の方は順調かね」
「はい。記録から辿たどれるおおよその地は回りました。ただ北の方がまだ薄いんですが。あと、ある方のところでデニスと共に稽古をつけてもらってます」
「ほほう。シアン殿ほどの方が師事をうけるとは、余程の方なのだろうな」
「まあ人じゃあ、ないんですが」
 そう言うと、シアさんはちらりと私の顔を見た。言っても大丈夫か?と尋ねたいのだろう。その視線に応えるように、話を引き継いだ。
「先の魔王討伐の旅の際に、高位魔獣たちと知り合いまして、その縁で」

「気になっておったのだが、先程の話に出た古龍も高位魔獣だな。高位の魔獣は人語を解するとの噂もあるが……」
「どうぞ内密にお願いいたします」
 えて否定をせずに願った事で、ケヴィン様もお察しになられたのだろう。黙って軽く頷いた。

「我らは……もっと国の外にも目を向けるべきではないのだろうか。獣人の事などもそうだが、我らにはどうにもそういった知識がなさすぎる」
 それはおそらく魔王の所為せいだろう。
 20年に一度の魔王の復活。この国ではそれに対抗する事が最優先事項とされている。そして皮肉な事に魔王という敵の存在により、この国自身の結束が保たれているのだ。

 先王との会見を終え、ケヴィン様の部屋を後にした。
 騎士の姿をしている私ならともかく、本当はこの町に居ないはずのシアンさんの姿を人目に晒すわけにはいかない。物陰からこっそりと仙狐せんこの住処への転移魔法を使った。

 仙狐の住処の前に着くと、すでに辺りは薄暗くなり始めていた。
「なあ、リリアン」
 入口の扉へ足をむけた私へ、シアさんが声を掛けた。

「さっきの話でさ…… 俺、前から少し気になっていたんだが…… 俺らが知る高位魔獣は3種だ。古龍エンシェントドラゴン九尾ナインテール鳳凰ほうおう。どれもここ獣人の国の三方に散っている」
「はい」
「この仙狐の住処は獣人の国の西の端で、古龍の爺様の家は東にある。鳳凰のおっさんのところは南の方だ」
「はい」

「北には、何もいねえんだな」
 シアさんの言葉で、頭の中で何かがちくりと響いた。

「……おそらくですが、今はそこに居ないだけではないかと……」
「お前は何か知ってるのか?」

「いいえ、知りません。でも……それに繋がる何かがあるような、そんな気がするんです。でも、これ以上は触れてはいけない事、のようです……」

 情報制御―― 物心が付いた時から、その存在は薄々とだが感じていた。
 自分に何かがある事がはっきりとわかったのは、故郷に帰ってギヴリスに会った時だ。聞きたい事も色々とあったはずなのに、その事には触れてはいけないのだと何故かそう思い、口に出すことができなかった。
 そしてルイの死を知っても…… でもそれが『最善』なんだとわかってしまった自分が居た。

「自分の中で、触れてはいけない情報とそうでない事を、区別しているようなのです」
「そういやアッシュの時の事も、全部を覚えている訳じゃないって、そう言っていたな。それもそうなのか?」
「はい、あるじによる記憶のロックと、自分のロックがかかっていると、そう聞いています」
「自分のってのは、どういう意味だ?」
「主の制御とは別に…… 自分で思い出したくないほどのつらい記憶があるのだろうと、そう言われました」

 私の話を聞くと、シアさんは少しだけ眉間に皺をよせながら、言い難そうに口を開いた。
「……俺の事は、こうしてちゃんと覚えてくれているんだろう?」

 * * *

 旅の途中で突然足を止めたリリアンが、王都に帰ると言い出した時には驚いた。
 訊くと、アニーとは魔力の遠隔供給で微細ながら繋がっており、そこから逆に異常を察知したのだと。
 一人王都に跳んだリリアンが戻ってくると、王城でちょっとした騒ぎがあったので一緒に行こうと言う。デニスを仙狐の住処に帰し、二人で王都へ跳んだ。

 アニーにその事を伝えたのはアランだそうだ。というか、アニーにそんな機能がある事にも驚いた。リリアンがこの家を買った時に、色々と機能を付け加えていて、その一つなんだそうだ。

 ミリアの一大事、おそらく犯人はあの王子だろうという事で、王城のケヴィン様を訪ねた。
 リリアンが仔犬に化けて様子を見に行くというのを止めて…… でもまさか自分が飛竜の姿になれるとは思ってもいなかった。

 今日はいつもの様にただの旅の移動の日だったはずが、えらい騒ぎになった。本当に色々とあったな。まあ、大事がなくて良かったが……

 仙狐の住処にある広めの野外風呂に漬かりながら、ふぅーーと胸から大きく息を吐いた。

 ──アシュリーだった頃のことを、全て覚えている訳じゃないんだ。幼い頃の記憶は私の中には全くない。ほとんどが皆との旅の思い出だ──

 アッシュ──いや、リリアンが言った事を思い出す。

 ──お前と二人で旅をしていた時の事は覚えている、でも、お前と出会った時の事を覚えていないんだ──

 すまない、と、彼女は俺に頭を下げた。
 何故かはわからない、と。そして、きっかけがあるなら思い出せるからと、お前さえ良ければ教えてほしい、と……

 話せる、わけが、ない……

 申し訳なさそうに言うリリアンにむけて、何ともないような顔をして首を横に振ってみせた。

 ああ、そうだよな……
 思い出したくもない程の、つらい思いをさせたのは、俺だ。俺の所為だ。
 ごめん……アッシュ、ごめんな……
 どんなに謝っても、俺には償いきれない……

 見上げた夜の空に、星々の輝きがにじんで歪んで見えた。

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(メモ)
 変姿の魔法石(#25)
 古龍の力(#72)
 着装の魔法石(#21)
 魔王の復活(#32)
 情報制御(#29)
 記憶(#74、#83)
 シアンとの出会い(Ep.12)


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