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【連載小説】ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい[#076]61 朝

ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~

61 朝

「ごめん…… アシュリーさん。体の汗、拭くだけだから……」

 体を起こされて気がついた。ぼんやりと目を開けるとシアンが私の服を脱がそうとしているところだった。

「……シアン?」

 声をかけると、驚きと気まずさが混ざった表情でこちらを見る。

「……いや、これは、体を拭こうと…… 決して、変な……っ!」

 確かに、着ている服がじっとりと湿っている。だいぶ汗をかいたようだ。自分で拭ければ良いのだが、気怠けだるさでやけに体が重い。

「……ああ、すまない、頼む……」

 私がそう言うと、彼はほっと息を吐いた。そして大袈裟おおげさに顔を背けて、躊躇とまどいながらまた服に手をかける。妙な体勢でこちらも見ずに脱がそうとするものだから、その手探りの様子が逆にもどかしい。
余所見よそみをしなくてもいい」
 その言葉で、こちらに向けられた彼の顔は耳まで赤くなっていた。
 別に裸を見られる事など、慣――

 ――――――――

 替えてくれた服は自分の物ではない。私の荷物をあさるのは流石に気が引けたらしい。代わりに彼が着せてくれたシャツからは、自分のでは無い匂いがした。

 私はどれだけ眠っていたんだろう。枕元に水差しと水の入った桶とタオルが置いてある。彼が用意してくれたのだろうか。

 あのまま、私を置いては行かなかったんだな……
 そう思っても口には出せない。それを言ってしまったら、そのまま彼は居なくなってしまうかもしれない。

 戻って来たシアンは、深めの木皿に入ったスープを手にしていた。
「宿のおかみさんが作ってくれたから……」
 彼が一口ずつ匙でスープを飲ませてくれる。こんな優しい時間は生まれて初めてだ。
 昔は怪我をしても熱をだしても、殴――

 ――――――――

「すいません、俺何にも出来なくて…… まだ熱があるから、せめてしっかり寝て体を休めて下さい」

 そうか。バッグ一つだけで故郷から連れ出してしまったから、金もほとんど持ってないはずだ。回復師も調合師も呼べないのだろう。私の荷物を解けば金も入っていただろうに……

 金のありかを伝えようと思い、口を開こうとすると歯がガチガチと震え出した。

「……?! アシュリーさん?」

 寒い…… 全身が震え出す。また熱が上がって来たのだろう。
 慌ててシアンが布団を掛けてくれるが、震えはまだまだ収まらない。

「……ああ、どうすれば……」
 彼が困っている。大丈夫だ、寝ていればきっと治る。今まではずっと一人で、そうして来たんだから……
 朦朧もうろうとする頭でそう思っても、声にならなければ彼には届かない。

「あ…… へ、変な事はしないから……」

 その言葉とごそごそという物音の後に、少し涼しい風が体に当たり、続けて何かが寝具の中に入ってきた。腕や足に何かが触れ、そのまま私に覆いかぶさってくる。

「体はこんなに熱いのに……」

 そう呟く声が、吐く息と一緒に耳に触れた。

 彼の肌の感触に包まれると、張っていた気持ちが緩やかに解け、意識は深い所にすぅと沈んでいった。

 * * *

 ……朝の空気を吸いこもうとすると、シアの匂いがした。
 ずっと昔の、懐かしい夢を見たのはこの所為せいだろう。うっすらと目を開けると、寄り添っているのはシアのシャツだけでなくシア自身だ。どうやら彼はまだ眠っているらしい。

 何があったのか、全く覚えていない…… 記憶が混濁こんだくしているようだ。また何かヘマをしてしまったのだろうか? わからないが…… でもきっとまた、シアに気を遣わせてしまったのだろう。
 普段はふざけて調子の良い事ばかり言っていても、理由なくシアが私と同じ寝具で添って寝る事などない。

「すまない、シア…… また迷惑をかけてしまったようだな」

 まだ少し、頭が痛む。
 頭を抑えた手を離し、何気にその手に目をやると、なんだか違和感を覚えた。

「……リリアン?」
 シアが私を呼ぶ声が聞こえた。

 ……私は……?

「あ…… ご、ごめんなさい!! なんだか私寝ぼけてて……」
 慌てて取りつくろおうと言い訳をしながら視線を上げると、見下ろす様に私を見ている彼と目が合った。
 驚いて肩がすくんだのを、警戒しているとでも思われたのだろうか。
「ああ、大丈夫だ、心配するな。変な事は何もしてねえよ」
 私を安心させようと言い含める様に、でも少し困った顔を見せた。

「お前が、服の端を掴んで眠っちまったからさ。驚かせてすまねえな……」
「す…… すいません……」
 視線を下げてもう一度謝ると、彼がほっと息をついたのが聞こえ、次いで頭に温かい手を感じた。
「眠って、少しは落ち着いたか?」
 その声が、優しい。
 もう一度彼の目を見ると、安心しろと訴えるように笑ってみせる。
 いでいく心に、横になったままでそっと目を閉じると、彼はしばらく頭を撫でていてくれた。

「……昨日話していたのは、本当か?」
 ぽつりと、彼が言った。
「どの話ですか?」
「……魔法使いたちが…… 死んだって……」
「そうだと思います…… その場を見たわけではないので、思う、としか言えませんが……」
 でも、あの時のギヴリスの口ぶりからすると、おそらく……

「お願いがあります」
 自分で、知らなければいけない。
「魔法使いの居た場所に、一緒に行ってもらえませんか?」
 そう言う私の目を見た彼は、少し淋しそうな目をしていた。

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(メモ)
 (#47)
 (Ep.4)


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