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【連載小説】ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい[#171]130 覚醒(2)

ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~

130 覚醒(2)

◆登場人物紹介
・魔王討伐隊…
 リリアン…前世(前・魔王討伐隊『英雄』のアシュリー)の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。『サポーター』
 シアン(顧問役)、ニール(英雄・リーダー)、マコト(勇者・異世界人)、デニス(英雄)、ジャスパー(サポーター)、アラン(サポーター)
・シルディス…主に人間たちが信仰している、大地と豊穣の女神
・ギヴリス…リリアンを転生させた神。『黒の森の王』と呼ばれる獣人たちの神

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 もう一度、ギヴリスに『勇者の剣』を掲げると、二人の魔力がすぅと流れ込んでいく。

 それを皆で見守る中、シアさんがマコトさんに向けて声をかけた。
「なあ、さっき神話が捻じ曲げられていると言っていたよな。本当の事を聞かせてもらえないか」

 マコトさんは、確認をするように一度私の顔を見てから、シアさんの顔を見た。
「僕の中のシルディスの記憶と、リリアンの知っている『黒の森の王』の事、それで良ければ話をしよう」

 もともと、この世界には二柱の神しかいなかった。
 『黒の森の王』――この世界の神ギヴリスと女神シルディス。この二柱は恋人同士だった。

 何かの理由で、教会は女神を殺そうとしたが、人の手では神を殺す事はできなかった。

 しかし、死なないだけで、痛みや苦しみはある。
 死ぬほどの苦しみから彼女を救う為には、神の手で殺すしかなかった……

「人間の国に伝わる神話にある、神巫女に恋慕した男。あれはギヴリスの事です。そして、恋慕の相手は神巫女ではなく女神シルディスその者です」

 私の言葉で、皆の視線はギヴリスに注がれた。
 彼は空になった白い布を抱いたまま、まるで眠っているように目を閉じていた。しかし、その身のあちこちはまだ黒い膿に侵されている。

「そして、その彼から恋人の遺骸を奪い去ったのは、教会の者たちです」
「僕は女神を返すように言ったのに…… 彼らはそれをしなかった」

 神の遺骸を手放してしまったら、もう神秘魔法が使えなくなるから。
 神が死んでいる事を知られたら、民衆の信仰を失ってしまうから。
 そしてシルディスの神力を失うと、長く生きることができなくなるから。
 だから隠して、拒んでいた。

 その頃にはもう、この世界の神はその傷を癒す事が出来なくなっていた。
 神の命が尽きる時、世界も共に滅びる。じわりじわりと、世界は終わりを迎えていた。

 魔族たちは、人間を襲おうとしていたわけじゃなかった。
 女神を取り戻して、世界を救おうとしていただけだった……

 ニホンに逃れた女神は彼を救う為に、この国に戻ろうとしていた。
 しかし死ぬほどに傷つけられた女神の神力は、自分の力でこの世界に戻る為には不足していた。

 ある時、女神がこの世界に残していた召喚システムが作動し、『勇者』が召喚された。

「以前にも言ったが、僕のなかにはシルディスの魂の一部が溶け込んでいる。この女神の魂を持つものが、『勇者』なんだ」
 そう言って、自身の胸に手を当てた。

「おそらく僕の中の女神の魂で刺激されたんだろう。僕がこの世界に来た事で、彼の中の女神を求める心だけが分かれて目覚めた。そうして彼は再び、女神の遺骸を求めてこの国を目指す」

「それが…… 『魔王』?」
「そうだね。大司教がそう名付けた。あれは人間たちの敵だと。そう人間たちに刷りこんだ」

「若干、不本意ではあったけれど、この状況はにとっても好都合だった。『魔王』という理由がある限り、この世界は『勇者』を召喚する。その度に少しずつ、この世界に女神の魂が運ばれる。

 『勇者の召喚』とは『魔王』を倒す為のシステムではないんだ。だって、おかしいだろう? 『勇者』と呼ばれながらも、僕たちは戦いに参加する必要すらない。この剣だけ手にしていればいい。実際に倒すのは君たちこの世界の者たちだ。
 本当はニホンに逃げた女神の魂を再びこの世界に戻す為のシステムなんだよ。でも、もう『勇者の召喚』は僕で終わる。女神の魂はここにあるもので最後だ。これ以上、『勇者』を呼ぶことはできない」

 マコトさんが話をしている間に、『勇者の剣』の魔力は全てギヴリスに注がれた。
 それでも彼の体のうみは癒されず、彼のまぶたもずっと塞がれたままだった。

「ギヴリスが、目を開かない…… 傷が癒えない……」
 私の声で、今までマコトさんの方を向いていた皆がこちらを見た。

「きっと、まだ魔力が足りないんです。だから……」
 シア……

 彼に『勇者の剣』を差し出した。
「これで、私を切ってください」

 私の言葉に、眼帯で覆われていない彼の左目が大きく見開いた。
「……え?? な、何を言ってるんだ? リリアン……」
「まだ彼に注ぐ為の魔力が足りないんです。だから、私の命を――」

 言い終える前に、駆け寄ってきたデニスさんに両の肩を掴まれていた。
「待て、リリアン! なんでお前がそんな事を……」

「私が適任なんです。この世界の人間には、そこまでの魔力はない」
 デニスさんが真剣な目で私をにらむ。そこから視線をずらすと、シアさんも怒ったような顔をしてこちらを見ていた。

「ダメだ。俺に……そんな事ができるわけがない…… またお前を……」
 ……私の前世アシュリーの事を気にしているのか…… でもあれはシアさんの所為せいじゃない。

「シアさん…… これは、貴方にしか出来ないんです。『勇者の剣』は使う者の命をも吸ってしまう」

「でも、それはマコトだって同じだったろう?」
 ニールが言うと、マコトさんがそれに応えた。

「同じだよ。でもこの世界と僕たちとは時間の流れ方が違う。僕たちには大した時間ではないんだよ」
「私たちの1年は、マコトさんたち『神の国』の者たちには、二日程にしかならないそうです」

 そう言ってから、再びシアさんに向かって話しかけた。
古龍エンシェントドラゴンの力を得ているシアさんにならできます。人間でありながら聖獣の力を得て、人よりも長い寿命と強い生命力を持つ貴方になら」

 だから、彼の姿は実際の年齢より若いのだ。彼は古龍の力を得た時から、年をとっていない。

「たかが私一人の命と、この世界と…… どちらをとるべきかは、分かっているのでしょう?」
「……それでも、もう俺はお前の居ない世界は嫌だ……」
 ……彼は相変わらず、優しいのだ…… でも……

「今更、マコトさんにこんなことをさせられません。この世界の事は私たちだけで始末をつけなくてはいけない。貴方に古龍の力が与えられたのは、この為なのでしょう」
「でも俺は……」
 私の言葉に、シアさんは目を見開いて、自身の右目の眼帯に手を触れた。

「小娘が、そんなわけがあるか」
 不意に、上から聞き覚えのあるしわがれ声がして、何者かが降ってきた。

「爺様!?」
 竜の角と竜の翼、竜の尾を持つご老人――さっき話に出たばかりの、古龍の爺様だ。
 急に現れたのは、転移魔法を使ったからだろう。爺様は驚く私を軽く睨みつけてから、言葉を続けた。

「シアンに儂の力を与えたのはそんな事の為じゃない、お前の為だ。ギヴリス様の御力で聖獣となったお前にはつがいが必要だろうに。そしてそれが、お前の本当の望みであろうに」
「え……?? つ、つが……って!?」
 不意に出てきた言葉に頭が追いつかない。今、なんて……?

「儂は唯一の聖獣だから代替わりしかできんが、お前らは沢山子を産めるじゃろう? 人間たちの為にも、この世界をもっと魔力で満たさにゃならん。その為の一つとして、聖獣は数を増やさにゃいかんじゃろうて」
 混乱する私をよそに、爺様はギヴリスに近寄ると、すんすんと何かを確認するように匂いを嗅いだ。

「これなら、主はひとまず大丈夫じゃろう。そんなに焦らなくとも、今すぐにこの世界が滅びるわけじゃない。その間にもまだやれる事はある。それに――」
 そう言って、今度は私に向けて指を差した。
をやるとしたら、次は儂の番じゃ。お前の番はまだ先じゃろう。新入り」

 * * *

 古龍の爺様が『気付け』と言って、自身の魔力を流すとようやくギヴリスは目を覚ました。
 聖獣の中で爺様だけは女神の魔力も持ち合わせているのだそうだ。

 爺様はギヴリスが体を起こすところを見届けると、さっさと転移魔法で帰っていってしまった。
 老人の突然の乱入と帰還に、皆は呆気あっけにとられたままだった。

「ありがとう、皆。リリアン、色々とごめんね」
 立ち上がったギヴリスが声をかけると、私以外の皆は慌てて床に膝をつく。
 その様子をみて、ギヴリスは困ったように眉尻を下げた。

「ああ、そんな事しなくていいよ。僕はそんなに偉くもないし。 ……えーっと、リリアン。彼らも君の友達なのかい?」
「うん、そうだよ」

「じゃあ、僕も友達に混ぜてもらえないかな?」
 ギヴリスは、少し恥ずかしそうに微笑んで、そう言った。

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(メモ)
 神話(#32)
 (Ep.5)
 (#46)
 (Ep.13)
 若く見える(#54)
 聖獣の力(『龍の眼』)(#69)
 古龍(#87)


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