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【連載小説】ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい[#102]80 空き部屋

ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~

80 空き部屋

◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。転生前は前・魔王討伐隊、『英雄』のアシュリー(アッシュ)。完全獣化で黒狼の姿に、神秘魔法で大黒狼の姿などになれる。
・シアン…前・魔王討伐隊の一人。アシュリーとは討伐隊になる前からの付き合いがあり、ずっと彼女に想いを寄せていた。
・デニス…西の冒険者ギルドに所属するAランクの先輩冒険者。リリアンに好意を抱いている。
・ケヴィン…人間の国シルディスの先代の王で、2代前の『英雄』

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 魔法使いのサムの隠れ家から帰ってきて、何日かが過ぎた。
 今朝もデニスさんは、私の家で朝ごはんを食べている。

 旅の最中もそうだった。いつもの朝の鍛錬が終わると、デニスさんはパンを買って私の家に来ていた。朝食が済むと、私とシアさんは旅の続きへ、デニスさんは冒険者ギルドへ出掛けた。

 あの旅が終わった後でも、私とシアさんとデニスさんの3人でパンを抱えて、この家に帰って来る。
 特に理由が無ければ、昼食もやっぱり私の家で食べる。
 夕食は大抵『樫の木亭』に行く。でもその後はこの家のソファーでお茶を飲みながらおしゃべりをして、ついでにお風呂も済ませてから、デニスさんだけ自分の部屋に寝に帰る。

 うーーん…… やっぱり私は余計な事をしてしまったのかもしれない。
 前世からの、悪い癖……いや、癖なんて軽い言葉じゃ済ませられないな。悪いところだ。

「ねえ、デニスさん」
「んむ?」
「どうせなら、ここで一緒に住みますか?」
「んぐ!!! げほっ! げほっ!!」
 デニスさんは食べかけてたパンで、思いっきりむせた。
 急いでお茶を注いで手渡すと、一気に飲み干して、はーーっと大きく息をついた。

「あーー……と。リリアン、急にどうしたんだ?」
 向かいに座るシアさんが変な顔をして尋ねてくる。
「だってデニスさん、毎日ここに来ていますし。どうせ部屋も空いていますし」
「いや、まあそりゃそうだけどさ。リリアン、俺と二人きりじゃ嫌か?」
「そうじゃなくて。デニスさんは、やっぱりシアさんと一緒に居たいんじゃないですか?」

「「は??」」
 何故か二人の声がハモった。相変わらず仲が良いよね。

「私がシアさんをこの家に泊めたから、よくなかったのかなと思って」
「いや、俺はすげえ助かってるが……」
「でもデニスさんが寂しいんだろうなと思って」
「へ??」
 何故かデニスさんが変な声を出し、こんどはシアさんが咽込むせこんだ。

「あーっと、そうそう、それと。以前デニスさんとダンジョンに行く約束をしてたじゃないですか」
「あ、ああ。してたな」
「旅に出たらしばらく帰って来れませんから、ここに荷物を置けば勿体なくないかなーって」
「ああ俺の部屋はしばらく使わなくなるのか」
「うん? 旅に出るって、俺は聞いてないぞ?」
 旅の話に、シアさんが口を挟んだ。

「はい、だから今言いました」
「今度はデニスと二人か?」
 大狼の姿になった私の背には、大人は一人しか乗せられない事を、二人とも知っている。だから私とデニスさんだけだと、そう思ったんだろう。でも、
「出来ればシアさんも一緒に来てほしいんですけど……」
 そう言うと、また二人で揃えたように首を傾げた。

「いや…… 俺は行けるなら一緒に行きたいが……」
「お願いします」
 身を乗り出して改めて乞うと、シアさんは驚いた様に目を少し見開いた。
「お前の頼みなら、何でも聞くぜ? ってか、こういうのもいいな……」
 何故か口元を手で隠しながら、後半はごそごそと聞き取りにくい声で言った。

「おい、おっさん! 何調子にのってるんだよ!」
「へへっ。二人きりでなくて残念だったな、デニス」
 こんな風な、仲の良いじゃれ合いみたいな言い合いは、いつもの事だ。

 結局、デニスさんは今日のうちに、荷物の運び込みや部屋の解約などを済ませておく事になった。私とシアさんは用があって出かける予定がある。

「えー? またどっか行くのかよ?」
「今回はすぐに帰ってきますよー」
 そう言ったのに、デニスさんは理由を求めるように、シアさんに視線を投げかけた。

「ああ、俺がケヴィン様から内密に使いを頼まれたんだ。内緒だから、他のヤツには言うなよ?」
「あ、ああ…… それなら仕方ねえな。でも、なんでリリアンも一緒なんだ?」
「転移の魔法が使えるし、それ以外にもしてもらえれば早く着けるからな」

 シアさんの言い分を聞いて、デニスさんが顔をしかめる。
「協力って…… そんなのは馬を使えばいいじゃねえか」
「ギルドで馬を借りたら、記録が残っちまうだろう? なんの為にケヴィン様が冒険者ギルドを通さないで俺に頼んだのかわからねえのか?」
「ぐ……」
 デニスさんは口をつぐんだが、かなり不満そうだ。やっぱり私にシアさんを取られるとか、思っていそうな気がするんだけどな。

「リリアンは、それでいいのか?」
「まあ、今日中に帰れますし。お手伝いで行くだけですから」
 シアさんの話に合わせてそう言うと、彼はぽんぽんと私の肩を叩いた。
「ああ、助かるよ。悪いなあ…… よし、リリアン。今度お礼にカフェでおごるからな。俺とデートしよう」
「ほえ?」
「待て! おっさん、ずりいぞ!」

 デニスさんが身を乗り出して来た。ほら、シアさんがそんな事言うからだ。
「ああ、ならデニスさんと3人で行きましょうー」
「「は??」」
 また二人の声がハモった。やっぱり仲が良い。

 そんな感じでおしゃべりしながらの楽しい朝食時間は過ぎて行った。


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