【連載小説】ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい[#045]38 帰る場所
ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~
38 帰る場所
◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。前世では冒険者Sランクの人間の剣士だった。
・デニス…王都シルディスの西の冒険者ギルドに所属するAランクの先輩冒険者
・ジャスパー…デニスの後輩冒険者で、『樫の木亭』夫婦の一人息子
・ニール…冒険者見習いとして活動している自称貴族の少年
・ミリア…『樫の木亭』の給仕(ウエイトレス)をしている狐獣人の少女
・アラン…ニールのお供のBランク冒険者
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王都へ着いて早々に、ジャスパーさんを伴って3人で冒険者ギルドを訪ねた。
西の冒険者ギルドマスターのマイルズさんは、まずデニスさんの帰りを労い、そして私と、特にジャスパーさんが一緒に帰った事に驚いた。
デニスさんがジャスパーさんの父親のトムさんをギルドに呼ぶように頼み、待っている間にワーレンのギルマスから預かった報告書をギルマスに読んでもらって、簡単な情報交換を済ませた。
その間、ジャスパーさんは終始無言で、居心地が悪そうにしていた。
トムさんが来ると、ジャスパーさんはますます体を固くして、泣きそうな顔になった。
マイルズさんとデニスさんから話を聞くと、トムさんの顔がどんどんと怖くなっていく。あの様子だと帰ったら説教なんだろうな……
私はただ横で黙ってそれらを見ていた。
トムさんは、今までに見た事の無いような程の怖い顔をしながら、ジャスパーさんを連れ帰った。
応接室に残ったのが3人になると、「もう少し時間を貰えるかね?」とマイルズさんからの打診が入った。
しばらく待たされた後、マイルズさんは持ってきた2通の書簡を私とデニスさんの前に置いた。
「帰ってすぐで申し訳ないが、この事は君たちにも伝えておいた方が良いと思うのでな」
そう言いながら手を差し出して、書簡を見るように促した。
「こちらが1通目で二十日程前に届いたものだ。こちらは十日前に届いた。おそらく差出人は同じだろう」
確かに、封筒や便せんも表書きの筆跡も同じようだ。
デニスさんは中の手紙に目を通すと、どうにも苦い顔をしてそのままこちらに寄越して来た。
読んですぐにわかった。
「……なんで私?」
「わからん。そう言うからには、リリアンにも心当たりはないんだな?」
頷いてみせると、デニスさんも腕を組んで考え込んだ。
「まあ、こう言った依頼が良くない事に繋がる可能性もある。身辺には十分に気を付けてほしい。アラン君にはこの話をしたが、念の為ミリア嬢の身辺も気にしてくれているそうだ」
「獣人女性が目的だとすると、リリアンもミリアも小柄で力も無さそうだし。狙われる条件は確かに揃っているからなあ。結果論だが、お前を迎えに行って良かったな」
デニスさんはそう言って、笑いながら私の頭を撫でた。
* * *
デニスさんと、久しぶりの『樫の木亭』に帰って、まず目を疑った。
「ニール…… お前、何やってるんだ?」
店に入った私たちを迎えたのは、向日葵が大きくあしらわれた可愛いエプロンをつけて給仕をしているニールだった。
「ああ、リリアン、デニスさんも! お帰りなさい! ひとまず席に着きなよ」
あれ? なんだか随分と慣れてない?
ニールは貴族なんだから、給仕をされるならともかく、する側など経験もないだろうに……
旅の間にいったい何があったんだろうか?
「ミリアちゃんは?」
「トムさんが居なかったから厨房の手伝いしてる。さっきトムさんが戻って来たから、もう出てくると思うけど」
どうやら給仕はニール一人でやっているらしい。
「忙しいんだね。私も手伝うよ」
そう言って裏手に向かおうとすると、デニスさんに腕を取られた。
「待った。お前今日もずっと走って来ただろう? 帰ったばかりで疲れてるんだから、無理をするな」
「え? 走ってって?」
横で聞いていたニールが不思議そうな顔をした。
「……こいつ、馬車酔いするんだよ。だからって、馬車に乗らずにずっと自分の足で併走して来たんだ」
「併走って言ったって、馬車だからそんなには早くないじゃないですか。全力で走ってきたわけじゃないですしー」
「お前なあ…… 休憩を挟んだとはいえ、4時間は走ってるんだぞ」
デニスさんに席に座らせられながら、二人でそんな会話をしているのを聞いて、ニールは目を丸くさせた。
「……すげえなあ。リリアン、俺がやるから大丈夫だから、美味いメシ食ってゆっくりしてろよ」
大丈夫と言うように、軽くガッツポーズをして見せて、ニールは行ってしまった。
向かいを見ると、デニスさんが頬杖を突きながらちょっとニヤニヤしていた。
「なんだかニール、以前とちょっと変わった感じがするな」
……確かに。私が旅に出る前に比べて、気が利くというか……優しく? 柔らかくなったような気がする。
給仕をしている様子を見ていると、他の席に居る常連客さんにも良く声を掛けられていて、なんだかちょっと楽しそうだった。
「あれ? ジャスパー?」
デニスさんの声に、反対側に目をやると、店の端の目立たない席にジャスパーさんが座って項垂れているのが見えた。
「なんか元気ないですね。やっぱり大分怒られたんでしょうか」
私がそう言ったのを切っ掛けに、デニスさんは席を立ってジャスパーさんの席の方に向かった。
慌てて私もデニスさんを追いかけ、ジャスパーさんの向かいの席に着いたデニスさんの、その隣に並んだ。
「どうした? ジャスパー」
デニスさんが声を掛けると、何も答えずに体を縮こまらせた。
ワーレンの町からここまでの間、一緒に居たけど、ずっと口数は少なかった。最後の方にはやっと普通に話せるくらいに馴染んでたと思ったけど、今の様子じゃあまるで元に戻ったようだ。
すっかり萎縮してしまっているジャスパーさんに、どう声をかけようかと思っていると、ミリアちゃんがジャスパーさんの夕食を持って来た。
「デニスさん、リリちゃん、お帰りなさい~」
「ただいま!」
「おう、ただいま」
「二人がジャスパーくんを連れ帰って来たんですって?」
「ああ、帰る途中に会ってな」
「……ジャスパーくん、もう冒険者やめるんですってよ」
ミリアちゃんが呆れるように言うのを聞き、二人で併せたようにジャスパーさんの方を見た。
3人分の視線を感じて、ジャスパーさんは気まずそうに顔を背けた。
「もう、僕には素質がないから…… やめようと思って……」
ミリアちゃんは、そんなジャスパーさんの前に夕食のプレートを置いて言い放った。
「こんな店の手伝いなんかできるかって言って、出て行ったんでしょ。店の事も出来ない、冒険者も出来ないで、それでいったい何なら出来るの?」
最後は少し怒っている様だった。ジャスパーさんが何も言わないのを見ると、ミリアちゃんは、二人の分を持ってくるね、と私たちに声をかけて厨房に向かった。
「……ミリアは、ジャスパーがここを出て行った時の事を知ってるからな。許せないんだろうな」
デニスさんが、ぼそっと呟くように言った。
その頃にはもうミリアちゃんはここで働いていたそうだ。それから二人で頑張って店を切り盛りしているトムさんとシェリーさんを見ていたミリアちゃんが、ジャスパーさんに怒るのも当然なのかもしれない。
その後、ミリアちゃんがいつもの笑顔と一緒に持ってきてくれたプレートが、私たちの前に並べられた。
ただ黙って項垂れていたジャスパーさんに声をかけて、一緒に夕飯を食べ始めると…… ジャスパーさんが私たちに聞かせるように話をはじめた。
彼の父親、トムさんが元Sランクの冒険者だった事もあり、人脈や環境に恵まれた彼には、冒険者デビュー当時から追い風が吹いていたそうだ。
でもその環境に甘えてしまっていたのだろう。
周りの人々のお陰でそれなりの活躍が出来てしまっていた事を、彼はそれを自分の力と過信してしまった。
「自分には実力がある」そう思い込んだ彼は、常に上のランクの冒険者と組みたがった。
しかし慢心から努力を怠った彼に、それほどの実力は付いてはいなかった。
一度組んだ者たちは、彼に「この程度か」という評価をし、もう彼とは組もうとしなくなる。やむなく彼はまた他の冒険者に声をかけるようになる。
そんな事を繰り返すうちに、ここ王都に居場所は無くなっていた。
王都の外に出ても相も変わらずで、出来上がったのは「冒険者ランクの割に使えないやつ」だった。
「俺も先輩としてちゃんと見てやればよかったな……」
デニスさんが、頭を掻きながら呟いた。
後輩の事であれば、こういう話がデニスさんの耳に入らないはずはない。おそらく、ジャスパーさんが『樫の木亭』の一人息子だったからだ。
デニスさんが、『樫の木亭』を贔屓にしている事も周囲は良く知っている。なので、ジャスパーさんの悪評をデニスさんの耳に入れる事は、憚られたのだろう……
でも、やはり努力をしなかったジャスパーさんの自業自得じゃないか。何故だか理由はわからないけれど、ミリアちゃんとは多分違う怒りのようなものがふつふつと湧いていた。
そんな自分を見せたくなくて、食事も終わったしと、店の手伝いを理由に席を立った。
デニスさんとニールには口々に座ってろと窘められたが、少し体を動かしたいと言って押し通した。
私が給仕に回った常連さんたちからは、お帰りって言って迎えてもらえてとても嬉しかった。
しばらくして見ると、ジャスパーさんは居なくなっていて、デニスさんはアランさんと何やら話をしていた。
難しい顔をしているから、さっきの手紙の話じゃないのかな? ちょっと物騒な話だけど…… 多分私は大丈夫だろう。ミリアちゃんの事は気にしてあげないとね。
* * *
旅の疲れと仕事の満足感でか、風呂から上がって部屋に戻ると途端に眠気が襲ってきた。
久しぶりの自分のベッドだ。そういえば、ここ数日は狼の姿で寝ていたし、ベッドで寝るの自体が久しぶりだ。
ワーレンの町ぶりだっけ? あの時はデニスさんが一緒だったし…… あんな話を聞いてしまったので、なんだか心が落ち着かなかった。
その前は…… ああ、仙狐たちとドリーさんの所に泊まった時だ。
それで思い出して、ドリーさんから貰った魔道具を取り出した。寝る前に王都に戻った報告をしておかないとね。
この魔道具は、遠くに居る者と手紙――メールと呼ぶらしい――のやり取りや会話が出来るもので、かなり貴重で珍しい物らしい。あまり人前で使わないようにと釘をさされた。もし見られても表示は神代文字なので、殆どの人は読むことができないそうだけど。
あと、この魔道具を持っている相手としかやり取りができない。そして持っているのは、高位魔獣――聖獣たちとドリーさんだけだそうだ。
皆宛に王都に着いた報告のメールを送ると、仙狐たちからはすぐに返事が来た。遅れて、鳳凰とドリーさん。古龍の爺様からはあまり返事は来ないけど、ちゃんと読んではいるみたいだよと、タングスが言っていた。
シャーメが王都の事を聞きたがって色々メールをくれるのだけど、今日は疲れてるからまた後日ねと返事をしておいた。
ベッドに入ると、すぐに瞼が重くなった。
でもちょっとだけ、一人で眠るのが寂しい気がした。
……夢の中か、現実か…… かすかに足音を聞いた気がした……
ここは王都なんだから。旅の途中じゃない。こんなに警戒しなくても大丈夫。そう自分に言い聞かせて、また夢の中深くに落ちていく……
ベッドの中に何かが潜りこんで……
「!!」
完全に目が醒めて、咄嗟に叫んだ。
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(メモ)
書簡(#16、26)
「良くない事」(#16)
魔道具(#29)
<第1話はこちらから>
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