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【連載小説】ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい[#077]62 涙の理由と思い出と/デニス

ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~

62 涙の理由と思い出と/デニス

◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。前世では冒険者Sランクの人間の剣士だった。
・デニス…王都シルディスの西の冒険者ギルドに所属する、Aランクの先輩冒険者。リリアンに好意を抱いている。
・シアン…前・魔王討伐隊の一人で、前『英雄』アシュリーの『サポーター』。デニスの兄貴分

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 今日は朝からどうにも落ち着かなかった。

 いつもなら俺が公園に行く時間にはとっくに起きているはずのリリアンの姿が、未だに見当たらない。そして昨日の朝には俺と一緒に子供たちの朝練を見てくれていたシアンさんも、未だにここに来る様子もない。

 今朝、二人がなんで来ないのか…… その理由は考えたくもなく、ただただれていた。

 なんで昨晩はあのまま行かせちまったんだろう。シアさんがリリアンの家に泊まるだなんて。二人きりで夜を過ごさせるだなんて…… 正直止めたかったが、リリアンの前で男らしくない姿を見せたくなくて、つい口籠くちごもってしまった。
 結局、昨日の晩は二人の事が心配になって、なかなか寝付く事が出来なかった。

 子供たちの様子を見ながら、ちらちらとリリアンの家の方角を気にしていると、ようやく二人が歩いてくるのが目に入った。しかも仲が良さそうに肩を並べて……

「よー、デニスおはようー」
「おはようございますー」

「おはよー、遅かったな。どうしたんだ?」
 普段通りを装って返事をすると、いつもなら気軽に訊くだろう言葉が、自然に口から出た。

「……あ、いや。寝坊しちまってさーー」
 シアンさんが気まずそうに頭を掻く。
「珍しいな」
「あーー まあ、色々とあって……」
「私が、彼に慰めてもらってたんです」

「……は?」

 誤魔化ごまかすような言い方のシアンさんの言葉に、リリアンが被せた理由を聞いた途端に、取りつくろっていた気持ちが吹き飛んだ。

「おっさん! てめえーー!!」
「待て! 違う!! リリアン、誤解されるような事を言うんじゃねえ!!」
「へ??」

 * * *

 朝のトレーニングの後、そのままロディの店で朝食用のパンを買い、リリアンの家に邪魔させてもらう事にした。
 二人に特別な何かがあった訳じゃないという事は一応は理解したが、どうにも納得しきれていない。理由わけは教えてもらえなかったが、泣き出してしまったリリアンをおっさんが慰めたという事はわかった。それを聞いたら尚の事、二人きりにさせておくのが嫌になった。

 リリアンの家に帰ると、そのタイミングを計ったようにアニーが食事の支度をしていたところだった。
「すまないな。急に押しかけて」
 謝る俺に、リリアンは屈託くったくのない笑顔を向ける。
「大丈夫ですよ。彼も沢山食べるので、アニーには多めに準備させていますので」

 そう言われた通りに、テーブルに並べられた料理は確かに2人前というには多すぎるボリュームだった。
 大皿に盛られたハムやソーセージの横には、揚げた芋が同じように山と盛られている。瑞々みずみずしい野菜がたっぷりのサラダには、茹でてちぎったモーアの肉も混ぜ込んであるようだ。
 その隣には今朝買ってきたパンが入った籠が並び、さらにリリアンがチーズとドライフルーツを盛り付けた皿を持って来た。各自の目の前には冷たいトマトのスープの入った深皿が置かれている。
 俺らがガツガツと食う姿を、リリアンは何故かニコニコと楽しそうに眺めながら食べていた。

 今日はニールの勉強の日だそうで、付き添いのアランも出掛けられない。
 時折忘れそうになるが、ニールはあれでも貴族の坊ちゃんだ。未成年だし勉強もちゃんとしないといけない。普段からクエストに行く時間を都合する為に、学校には行かずに家庭教師をつけているそうだ。

 ならリリアンを誘って手頃なクエストにでも行こうかと思ったら、彼女も用事があるそうだ。
「夕方までには帰ります。お好きにゆっくりしていて下さい。家にはアニーが居ますから、戸締りは気にせずお出掛けしても大丈夫ですので」
 そう言いながらてきぱきとアニーに家事の指示を出し、自分はもう出掛ける支度をしている。

「そうそ、また地下室に行きますよね? デニスさんも一緒でも大丈夫ですので」
 彼女に言われて、シアンさんが迷うように尋ねた。
「デニスに話しちまっても大丈夫か?」
「お任せします」
 リリアンはにっこり笑って言うと、軽く手を挙げて出掛けて行った。

 この家は主が不在になったと言うのに、変わらず客人の俺たちにも居心地の良さを提供してくれている。しばらく居間でシアンさんと茶を飲みながら話をしていたが、話に切れ目が見えたところで「さて」とシアンさんが立ち上がった。
「アニー」
『はい、ご主人様マスター
 シアンさんの呼び掛けに、アニーが「ご主人様マスター」と答えた。どういう事だ? このゴーレムの主人はリリアンのはずなのに。
「少し下にいるから、何かあったら声を掛けてくれ」
『わかりました』

 シアンさんにうながされて付いて行くと、廊下の突き当りにある目立たぬ小さな扉の前に着いた。きしんだ音をさせて扉を開き、中に進む。勾配がキツイ古びた階段をやや危なげに降りきると、そこは地下室だった。
 ギルドで見せられた間取り図にはこんな部屋はなかったのに……

 天井が低いその部屋には幾つかのマジックボックスらしき箱が並んでいた。箱の一つ一つには名前が刻まれている。一つはシアンさんの名前だ。
 すぐにわかった…… これらに刻まれているのは全て、先の魔王討伐隊の人たちの名前だ。

「この家はさ…… 昔、俺たちが過ごした家なんだ」
 シアンさんが言葉をこぼす様に語り始めた。

 旅の後半には、王都に戻るとこの家で皆で過ごしていた事。
 魔族領に入る前に、持っては行けない物をここに残した事。
 そして、この家の元の所有者はアシュリーさんなのだと……

「リリアンはその事をわかっていたようだ。昨晩はこの部屋に案内してくれて、皆の箱の中身を確認しながら話をしていたんだ。仲間の…… 死んだヤツの話になったら、彼女が泣いちまってな……」

 そう言いながら、シアンさんも泣きそうな顔になったのが見えた。
 あの日、アシュリーさんの棺の前で、ただ座り込んでいたこの人の姿を思い出す。あれがどんなにつらい出来事だったか、俺は良く知っている。

 優しい子だな……と、ため息を吐き出す様に言いながら、シアンさんは『ルイ』と名前が刻まれた箱を開けた。
 ルイ様…… 先代の勇者様だ。

 箱の中はいかにも女性が好むような雑貨で埋め尽くされていた。
「これは…… 皆で町に行った時に買った物だな」
 シアンさんは懐かしそうに一つ一つを取り出しながら、誰に聞かせるでもなく呟いている。
 可愛らしいクセ字で書かれたメッセージカード。小花柄の表紙の手帳。レース模様の描かれた洒落た封筒。他にも小さな鳥の絵が描かれている小物入れやバラの細工のついた手鏡やら、見栄えのする雑貨がいくつか。

 そして最後に取り出したのは、見た事のない変わったデザインの服と、どこかで見た事のあるような手のひらサイズの板の形の魔道具だった。

 シアンさんはその魔道具を手に取り、驚いた様に目を見張った。
「なんで…… これがここにあるんだ?」

 * * *

 この日、リリアンは帰って来なかった。

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(メモ)
 (Ep.1)

 今回の話にも合間に小ネタをちらちら挟んであります。
 ・「彼も沢山食べる」と、シアンの事を当たり前の様に言うリリアン。前世で彼を知ってるから出て来るセリフです。
 ・朝食の支度で、リリアンが後から持ってきたチーズとドライフルーツの盛り合わせは、デニスが増えたので作り足した分です。切って盛るだけの物をささっと用意したんですね。
 ・「リリアンを誘って」と、ちゃっかりシアンを除外しているデニス。まあそれでもシアンは付いて来るでしょうけど。
 ちなみにデニスがシアンを「おっさん」呼ばわりするのも、デニスの気持ち的な理由があります。でなきゃ、35歳はまだまだおっさんではないかと。

 こういった、本編に影響しない小ネタを挟むのは大好きだったりします♪


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