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【連載小説】ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい[#025]21 魔獣の山/カイル

ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~

21 魔獣の山/カイル

◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。前世では冒険者Sランクの人間の剣士だった。金獅子族の城では『変姿の魔法石』を使い大人の戦士に化けている。
・カイル…リリアンの兄で、灰狼族の若き族長。銀の髪と尾を持つ。
・イリス…リリアンの姉で、三つ子の真ん中。銀の髪と尾を持つ。
・ベルトルド…金獅子族の族長。金の髪を持つ逞しい戦士。自信家
・レオーネ…金獅子族の戦士

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 窓から入り込む涼しい風に顔を撫でられて目が覚めた。
 金獅子きんじし族の長が用意してくれた部屋は、見晴らしと風通しの良い部屋だった。おそらく良い部屋なのだろう。

 朝の空気を吸おうと窓から外を覗くと、下に見える中庭で誰かが鍛錬をしている。あれは昨日戦った金獅子族の戦士だ。確かレオーネと名乗っていた。
 リリアンが使っていたような模擬剣を持って素振りをしているようだ。

 ふと彼がこちらを見上げ、隣の窓に向かって軽く手を振った。隣室りんしつの窓辺にも誰かがいるのだろう。
 こちらにも目線を動かしたので軽く手を挙げて見せると、大げさにお辞儀じぎをして見せた。

 隣はリリアンとイリスの部屋だ。そう言えば、彼は昨日イリスにだいぶ積極的だったとリリアンが言っていた。イリスが見ていたのだろうか。全く、あんな奴に愛想を使う事はないのに。

 さっさと身支度をして隣室のドアを軽く叩くと、出てきたのはイリスでなくリリアンだった。
 もう既に大人の姿に変えているので、なんだか不思議な感じがする。魔法石を使うという事は、魔力を消費するという事だ。
 獣人は他の種族に比べて魔力が少ない。長時間、魔法石を発動させていると、かなりの負担になると思うのだけど、リリアンは大丈夫なのか?

 イリスはまだベッドの中らしい。昨日は色々な人と話をして疲れたのだろう。
 リリアンと話していると、ムニャムニャとイリスが起きてきた。家にいるときは、家事も仕事もしっかりとこなす妹だけれど、旅をした事はほとんどない。どうしても疲れが溜まるだろうし寝坊しても仕方ないよな。
 反対にリリアンは旅慣れていて、僕が行く前にすっかり荷物をまとめておいていた。

 朝食の席は大人数だ。金獅子族の長ベルトルドには奥さんが4人もいるのだそう。僕ら狼獣人からすると理解しがたいが、一夫多妻の種族というのは珍しくはない。それぞれの奥さんがそれぞれ子供を1~3人連れているものだから、かなりにぎやかだ。

 おにいちゃんはまだ寝ているの? と尋ねる幼い声が聞こえた。これだけ居るのに、まだ着席していない子供がいるようだ。中には寝ぼすけな子もいるのだろう。
 今朝のイリスの寝起きを思い出して、なんだか微笑ましく思えてしまった。

「今日はどうされるのですかな?」
 朝からガッツリと肉料理の乗ったプレートを1枚空にしたところで、ベルトルドが話しかけてきた。
「一族の集落に帰ります。この度は色々とお世話になり、ありがとうございます」
「それは残念だな。もう少しゆっくりしていけば良いのに」

 ベルトルドの言葉は、建前でなく本音だろう。昨日リリアンと手合わせした後にひどく喜んでいたらしく、夕食の席でもまた是非にと懇願こんがんされていた。
 強い者と戦う事が楽しいという感覚は、僕にもあるし、まあそれはわかる。でもいい年したオッサンのそれが自分の可愛い妹に向けられていると思うと、苦い顔しかできない気分だ。

「そういえば、お帰りの時には東方面の道を使った方がよろしいかと。どうやら西の山の魔獣が騒がしいと、今朝報告がありました。まあ、貴方方の腕前であれば、問題などないとは思いますが」
 そう伝えて来たのはレオーネだ。今日の朝食の席には彼も同席しているが、普段からというわけではないそうなので、僕らの接待の一環なのだろう。

「ご忠告ありがとうございます。面倒は避けて帰りたいと思います」
 いかにも護衛役らしい雰囲気を装って、リリアンがそう言ってみせる。でもあれはきっと嘘なんだろうなぁ。

 ここに来るまでに、すでに高位魔獣の住処を二つ訪れていた。
 仙狐せんこ古龍エンシェントドラゴン。そしてリリアンによると、ここから西にある山にもが居るらしい。
 この金獅子人の城に来るまでにも、いくつか驚くような場所に立ち寄ってきたから、もうちょっとやそっとじゃ驚かないとは思うけど…… いや、やっぱり自信はない。

 ベルトルドとレオーネに見送られて金獅子族の城を後にした。二人ともやたらと名残惜しそうだった。僕相手でなく、リリアン相手に。
 リリアンは「また是非に」とか「手合わせを」とか言う言葉に、適度に相槌あいづちを打ちつつ別れを告げていた。

 リリアンは基本的には愛想が良く、人付き合いも上手い。前世の記憶がある分、僕たちより中身はもっと大人なんだろう。
 だから先日の金狐きんこ族の集落でのあの態度には違和感を覚えた。多分、何か理由があるんだろうけど。

 * * *

 やはり向かう先は西の山だった。この山の道は勾配こうばいがきつく険しい。
 さすがに獣人の姿で抜けるのは大変なので、狼の姿で進んでいるが、慣れないイリスはそれでもちょっとつらそうだ。
 金獅子族の城に置いてくる事も少し考えたのだけど、イリス自身が他の種族との交流に不慣れな事もあるし、レオーネがイリスを気にかけているなら、兄としてはやっぱり一人にして置いては行けない。

 高位の魔獣は、獣人たちがなかなか立ち入らないような場所に住んでいる。さらに道中に目眩めくらましなどの仕掛けがしてある事も多いようだ。
 しかし、リリアンに言わせると「それは心配ない」らしい。

 リリアンは子供の頃から、実家の蔵によく入り浸り、そこにある古文書や歴史書、魔道具や魔法石などをいつも眺めていじっていた。
 基本的に獣人はあまり魔法石には興味を示さない。生活を便利にする為の魔道具は使用するが、狩りや戦闘の補助になる魔法石は使わない。
 「己の肉体ですべき」の意識が強いのだ。使っているのは着装の魔法石と収納の魔法石――獣化する時の為の魔法石くらいだ。

 実家の蔵にも、そんな感じで打ち捨てられた魔法石が沢山転がっていた。リリアンはそれらを全て確認し、必要なものはちゃっかり自分のものにしてしまった。

 あれから先にも人の町で色々と集めていたようだし、おそらくその辺りで見つけた何かを持ってきているのだろう。
 いつもながらリリアンの考え方や行動は獣人のそれとは大きく変わっていて驚かされる。人間であった前世の経験がそこに含まれているからだろう。

 山道の木々は深い。近くから、遠くから、色々な魔獣の声が聞こえてくる。
 その合間に。
 ざあっという音が遠くから聞こえた。瞬間、危険を感じ二人を連れて急いで木陰に隠れ、息をひそめる。

「……!!」

 向かうはずだった方向から、巨大な影が道沿いを撫でる様に通り過ぎていった。
 影の大きさからすると、頭上をルフか何かが行き過ぎたのだろうか…… あの巨大な魔鳥は僕ら以上の大きさの魔獣でも平気でとらえてついばんでしまう。
 でも、こんな人里に近いところを行動する魔鳥ではないはずなのに……

 この旅で古龍に出会った時と同じくらい肝を冷やした。見るとイリスは青い顔を、リリアンはやけに真剣な顔をしている。
 レオーネが言っていたように、確かに山全体がなにかざわついているようだ。

「あれ?」
 またしばらく進んだところで、ふいにリリアンが声をあげた。
「門が開いてる……」
「門?」
「ほら、ここ。目眩ましが途切れてる」

 リリアンが魔道具を使って照らす方向をみると、確かに道から左右の林の中へ続くもやのような壁がある。しかし道の部分に限り、それがぽっかりと切れて無くなっているようだ。
「これ、つまりは塀と門なのよね。で、この先はお庭で、この道の先に家があるのよ」

 ……成程。この先に住居があるから、確かに塀と門があってもおかしくない。
 結界だと思うから大袈裟おおげさに思えるが、塀とか門とか言われてしまえば、構造的には普通の家と変わらないような気がした。
 でもおそらく吃驚びっくり体験をしすぎて感覚が麻痺している。

「お出かけしてるのかな? 呼び鈴鳴らしてみようか?」
 おかしい。リリアンの言いぶりはまるで友達の家に遊びに来たみたいだ。多分何かが違う。

 「門」と言われたところより先は、今までの険しさが嘘のようななだらかな山道になっていた。
 四半しはん時ほど歩くと、森の中に突如とつじょ開けた広場があらわれ、その中心に少しだけ大きめな家が建っている。

 リリアンはすたすたと真っすぐに入口に向かい、ドアベルを鳴らした。

 ……本当にあったのか、呼び鈴……

 はーいと言う声と共に、奥からパタパタと足跡が聞こえ、出てきたのは細身の赤毛の女性だった。

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(メモ)
 金狐族(#17)


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