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【連載小説】ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい[#011]10 ラントの町

ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~

10 ラントの町

◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。前世では冒険者Sランクの人間の剣士だった。冒険者デビューしたばかり。15歳。

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 黒狼の姿で森を駆ける。この姿で思いっきり走るのは久しぶりで気分がいい。
 まだ王都から近いので街道を行く旅人の姿も少なくはない。彼らに見つからぬよう少し迂回して森を進み、まずはラントの町を目指す。
 馬車でも丸一日かかる距離だけど、狼の足なら昼前には着くはずだ。

 皆との挨拶は昨晩、食事の席で済ませておいた。見送ってくれると言ったけど、朝が早いからと断った。
 ひと月もしないで帰ってくるって言ってるのに、皆大袈裟おおげさだ。でも見送ろうとしてくれる、その気持ちがとても嬉しかった。

 『獣人の町』は、王都から東の方向にある。今向かっているラントの町は真反対の方向だ。
 故郷に帰ると言うのは嘘じゃない。他に寄る場所が沢山あるだけ。故郷まで馬車で八日程かかると言うのも嘘じゃない。でも馬車は使わないだけ。
 色々と目立つと困るのだ。だから内緒にしているだけだ。

 途中、ワイバーンが居たのでちょっと戦闘バトルした。最初は鉤爪クローで交戦したけれど、ワイバーンの皮が思ったより固かった。
 この鉤爪クローはランクの高いものではないので、これで戦ってると爪が曲がってしまいそうだ。
 途中から手持ちの中でもランクの高いロングソードに持ち替えたら、あっという間に片が付いた。

 冒険者1年目の駆け出しが扱えるような武器じゃないから、人目のある場所ではこれは出せない。本当はそれなりに剣術スキルは高いので、大抵の刀剣類は扱えるんだけどね。
 狩りの跡を片付け、ワイバーンはマジックバッグに仕舞いこんだ。またしばらく駆けると、小さな町が見えてきた。

 門の大分手前で獣人の姿に戻り、何食わぬ顔で門番に冒険者カードを見せ、通行料を払って町に入った。町のあちこちから、いい匂いがしている。

 ここ、ラントは酒作りがさかんな町だ。果物や穀物などを使ったお酒はもとより、酒を使った加工品なども多く作られている。シルディスの王宮に納めるお酒も、ここで作られたものが多いらしい。
 お酒は得意じゃない。お酒の香りは好きなんだけどね。前世の私は大分飲めたので、ちょっと残念な気持ちもある。まだ子供だからかなぁ? ちょっとずつ飲めば慣れたりするものだろうか?

 この町には前世で何度か来ている。あの時から町並みは変わっているけど、町の雰囲気は変わらない。ちょっと昔を思い出しながら歩き、町の気配を愉しんだ。

 町の大通り沿いにある定食屋の前を通る時、お酒の香りとは違ういい匂いに心が誘われた。
 ずっと走りづめだったし、そう言えばお腹もすいている。迷わず店に入り、日替わりのランチをお願いした。

 今日の日替わりはワイルドボアとヤマキジのハンバーグだそうだ。ランチにはワインがついているけど、どうするかい?と給仕のおばちゃんに尋ねられた。
 子供がお酒を飲んではいけない規律きまりはないが、14歳以下の未成年には飲ませないのが一般的だ。私はもう15歳だけど、獣人なので人間より幼く見える。なので気にしてくれたのだろう。
 遠慮すると告げると、かわりに葡萄ジュースを出してくれた。ワインの香りとはまた違う、甘くてやさしい葡萄の香りがした。ハンバーグもジュースもとても美味しかった。

 お腹が膨れたので、今度は真っすぐに目的地に向かう。この町の中央の通りから1本奥に入った場所に、その酒屋はあった。少しきしむドアを開けると、ドアベルの軽く澄んだ音が店内に響いた。
「こんにちは、いらっしゃいませ!」
 商品棚の整理でもしていたのだろうか。優しい雰囲気を持つ、赤毛のお姉さんが振り向きながらにっこりと微笑んだ。

「確かにそれはうちに置いてるけれど、大分強いお酒よ? 大丈夫?」
「あぁ、私が飲むんじゃないんです。お酒好きな方に、手土産にしたいので」
 目当ての酒の名前をいくつか挙げると、とても驚かれてしまった。まぁ、こんな小娘が酒精の強い酒をたしなむとは思えないのはわかる。実際に強い酒は飲めないし。

「あら? もしかして、持っていく先はドワーフさん?」
 ドワーフは酒好きな種族だ。そして鍛冶上手なドワーフの所へ武器制作を頼みに行くときには、好みそうな酒を見繕って持っていくのは珍しい事ではない。
「なら、これもおススメだけど、どうかしら?」
 お姉さんの出してきた酒は、旅のドワーフに評判を聞いて揃えた品だそうだ。せっかくなのでそれも頂く事にした。

「あと、もう一つ用事がありまして……」
 マジックバッグから大きめのバスケットを取り出して見せる。
「ヤマモモを採ってきたんです。これでヤマモモ酒とシロップ漬けを仕込んでほしいのですが、こういった事はお願いできますか? もしくは頼める店か調合師さんを紹介していただけないでしょうか?」
 バスケットを開けると、中にはいっぱいのヤマモモ。先日クエストの途中で収穫してきたものだ。他の人には見つかっていない穴場だったらしく、良く熟した綺麗な実が沢山収穫できた。

 ヤマモモは蒸留酒と砂糖で漬け込むと、1か月程で甘くて香りの良い酒になる。前世の私はこのお酒が好きだった。ヤマモモを見つけて、またあの酒の香りが恋しくなった。
 この町でなら雑味の無いとても良い蒸留酒が手に入る。蒸留酒を持ち帰って漬けるより、ここで漬けてもらって出来上がる頃まで預かってもらえればその方が都合が良い。
 そう話をすると、「いいわ、うちでやったげる」と快諾かいだくしてくれた。

 このヤマモモの量なら、それぞれ大瓶で一瓶ずつ漬けられるそうだ。告げられた金額にちょっと色をつけて、バスケットと共に手渡した。
「楽しみにしています」
 お姉さんに引き受けてくれたお礼を告げて、店を後にした。

 故郷からまた王都に帰る頃には出来上がっているだろう。今の自分はヤマモモ酒は飲めないかもしれないが、せめてあの香りは楽しめるし、薄目に割ればどうだろうか? ダメでもシロップ漬けもあるし。
 ニールはまだお子ちゃまだから、シロップ漬けがいいかもね。甘いお酒ならミリアちゃんでも飲めるだろう。デニスさんやアランさんはどうだろうか? マーニャさんには甘すぎて逆にダメかも。

 そうやって、皆の事を考えている自分に気付いた。ソロで冒険者をやっていくつもりだったけど、こうして一人で旅に出るとちょっと寂しいのかもしれない。
 そういえばデニスさんにも、ソロでやるからマスターは要らないって言ったんだよね。そう言った事を、ちょっと後悔してるかもしれない……

 そんな事を考えているうちに、この町の冒険者ギルドに着いた。何はなくとも、町に立ち寄ったらギルドも必ず覗くことにしている。
 依頼ボードを覗くと、ある依頼に目が留まった。

 〔ワイバーンの討伐依頼 Cランク〕

 ……あ――…… あれか……

 多分私のバッグに入っているのが、このワイバーンだろう。私はDランクだから、Cランクのクエストを受けることも一応可能だ。だから、このクエストを受ければ、そのまま完了報告することもできる。
 が、ソロでやったとなれば目立ちすぎる…… このくらいの依頼はパーティーでこなすのが普通なのだ。まだ王都からそんなに離れていないので、目立つのは避けたい。

 確かにこの辺りに居るにしては大きめのワイバーンだとは思ったのよね。素材が欲しいから丁度いい、くらいにしか思わなかった……
 うん、このクエストは見なかった。そういう事にしよう。

 お昼に飲んだ葡萄ジュースが美味しかったので、おばちゃんに教えてもらった店で少し買い求めた。旅の間のお楽しみができた。目当てのものは手に入ったし、まだ日は高いので先に進もう。
 ラントの町を後にして、街道を今度は南に向かった。


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