【連載小説】ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい[#005]5 バジリスク狩り
ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~
5 バジリスク狩り
デニスさんが手に持った長い得物を振るって、バジリスクを威嚇している。何かと思ったら、あれはただの木の棒のようだ。まさかあれで戦うつもり?
バジリスクの噛みつき攻撃を、二度三度とかわす。焦れた様子で一度大きく首をもたげたバジリスクが、再度デニスさんに牙を剥いて襲いかかった。
デニスさんは敢えて手に持った棒をバジリスクに噛ませて受け止める。
動きが止まったその瞬間、バジリスクの口に何かが巻き付き、デニスさんが棒から手を離して跳び退くのが見えた。口を封じる何かを振り払おうとバジリスクが体を捩ると、尾が大きく振れて森の木が何本か倒れる。
マーニャさんが掌をバジリスクに向けて何かを唱えると、その瞬間、蛇の体が白い霧のようなものに薄く覆われ、動きが鈍ったように見えた。
アランさんが風魔法で飛び上がりバジリスクの眉間を目掛けて剣を突き出す。しかしそれに気付いたバジリスクは切っ先が届く前に頭を振った。
「!!」
「アランさんっ!!」
アランさんが地面に放り出されるように飛ばされたのが見えた。咄嗟に飛び出したい衝動にかられたが、アランさんが立ち上がるのと、先程のリジェネの効果が体を光らせながらまとわりついているのを確認し、ほっと息をつく。
その間に愛用の槍に持ち直したデニスさんが、バジリスクの顎を下から突いていた。
マーニャさんが杖を振り上げると、3人と1匹を包み込むように、光の壁が現れる。いや、光じゃない。あれは水だ。水の壁に阻まれて、こちらからは何も見えなくなってしまった。
何が起きたのだろう。自分はどうしたらいいのか? 一瞬、躊躇した。
でも最後に見たのはデニスさんがバジリスクの顎を突く姿だった。あれは危険だ。バジリスクの顎には毒腺がある。それを事もあろうに下から突くとは。
意を決して結界を飛び出した。
「ニール! 危ないから、あんたはそこにいて!!」
遅れて飛び出そうとするニールを制し、水の壁を目指して走る。後ろからニールの声と足音が聞こえた。ったく! 危ないからって言ったのに!
水壁に辿りつく直前に、うす緑の光が溢れ、水が霧散して壁が消えた。そこにはバジリスクの死骸と3人の無事な姿があった。
* * *
「ごめんねぇ、二人とも。このバカがバカな事するから心配かけたわねぇ」
マーニャさんがバカって2回言ったわね…… そう言われたデニスさんは、栗色の髪をかき上げながらバツが悪そうにそっぽを向いた。
バジリスクは毒ブレスを吐くので、周囲に被害を及ぼしたくない時には結界や風魔法などで壁を作る。でも今回はデニスさんが私たちにバジリスクとの戦いを見せたいから壁なしでやりたい、と言ったそうな。
ところがアランさんが吹っ飛ばされ、アランさんに追撃がいく事を危惧して焦ったデニスさんが咄嗟に槍で突いた。バジリスクの毒がこぼれるかもと思い、マーニャさんが作ったのがあの水の壁だったのだ。
「あれじゃあ下手すればモロに毒浴びるじゃない。まったく…… 可愛い後輩たちに心配かけるんじゃないわよ」
マーニャさんが呆れたように言い放った。
バジリスクは見事に眉間を割られて息絶えていた。
毒持ちはこのままでは町に持ち込めないので、外で毒抜きをする。ギルドから借りた毒抜きの魔道具をバジリスクに乗せ、その間にニールと私で周辺の浄化をした。
マーニャさんはデニスさんとアランさんの怪我をチェックしている。アランさんも大きな怪我はないそうで、それを聞いて安心した。
毒抜きをしたとはいえ、バジリスクと食料を一緒のバッグに入れるのは気分が良くない。そう思っていると、デニスさんがさっさと自分のマジックバッグにバジリスクを仕舞ってしまった。
デニスさんのマジックバッグはギルドのものほどは性能が良くないそうで、小さい個体だったとはいえあのサイズの獲物を収めれば、かなり重量があるのだろう。
デニスさんにバッグを持とうと申し出たが、いいっていいってと手を振りながらバッグをアランさんに押し付けてそのまま歩き出してしまった。
そのままの流れで王都への帰路へ着く形になった。
* * *
「なぁ、リリアン。今日は俺なんか思ってた以上に色んな経験した気がする…… まさか二人でモーアを狩るとは思ってなかったし……」
「モーア狩りについては、デニスさん主導ならああなるのは納得かなぁ。多分アランさんはそれをわかってて、デニスさんに声をかけたんだと思うわ」
アランさんの名前を出すと、ニールの眉間に皺が寄った。普段から大分絞られてるようだ。
「でも今日はかなり恵まれていると思うよ。普通はこんな風に上位冒険者が駆け出しの冒険者のスキル上げだけの為に来てくれるって、まず無いもの。しかもマーニャさんまで呼んでくれてたし」
「……さっきの水壁はマーニャさんだよな。すごいなあ」
前方を歩きながらアランさんと話しているマーニャさんに、ニールが視線を送る。
さっきまでアランさんはちょっと落ち込んで居るように見えたけれど、マーニャさんと話して少し落ち着いたようだ。
「回復魔法では骨が見えてた傷も治せるって聞いたことがある。あと中位の攻撃魔法を連発してもけろっとしてるって」
もしも怪我をしてもちゃんと対処してもらえるように、デニスさんがマーニャさんにお願いして来てもらったのだろう。
そのデニスさんは、少し先を一人でもくもくと歩いている。なんだか気になってその背中を見ていると、振り向いて私に気付いたマーニャさんが目を細めて微笑んだ。
「大丈夫よ、彼、拗ねているだけだから」
え? 拗ねている? なんで?
「アランも気にしてたのよ。バジリスク狩りで自分がミスをしたから、デニスが怒ってるんじゃないかって」
アランさんはまた申し訳なさそうな顔になって言った。
「まだ冒険者になりたてだった頃、何度かデニスさんにクエストに連れていってもらいました。私がミスをして頭を下げると、デニスさんは『ミスは誰にもある。自分のミスって事がちゃんとわかってるのなら、謝る必要はない』って言うんです。それで『謝るくらいならお前が荷物持ちな』って。だからこれは」
そういう事なんですよねと、バジリスクの入ったバッグを見た。謝る必要はないと、そういう意味なのだと。
「でもアランが跳ね飛ばされて怪我をしたり、悪い手本をあなたたちに見せちゃったりで、自分が失敗したって事もわかってるのよ。それで凹んでるんでしょうねぇ」
マーニャさんがデニスさんの背中を見やって言った。
「でもあの子は昔から、強く強く前を見ている子だったから。この程度の事じゃ、拗ねてるのも長くは持たないわよ。町に着く前にはいつも通りになってるわね」
まるで遠くをみるようなマーニャさんの紫水晶の瞳に、私の知らないデニスさんが映っているような、そんな気がした。
街道を渡る風が、草の香りと夕方の気配を乗せてくる。
「くしゅんっ!!」
ニールのくしゃみが普段以上に響いて、皆の視線がニールに集まった。
「ハハッ」
笑い声にデニスさんを見ると、こっちを振り向いてニヤニヤと笑っている。
「さっさと帰って、メシにしよーぜー。しっかり食って、しっかり寝れば風邪なんかひかねぇよ」
これはいつものデニスさんだ。
ほうらね、とマーニャさんが小声で言った。マーニャさんに視線で返事をして、デニスさんの隣に駆け寄る。
「今晩は焼き鳥ですよね!! タレと塩、どっちにしますかー?」
「両方に決まってんだろ」
いつもの、デニスさんの明るい声が返ってきた。
その後は歩きながら皆でタレ派か塩派かの話が始まったが、なんとニールが焼き鳥を食べた事がないと告白し、いつもの調子のデニスさんがニールに焼き鳥の素晴らしさをアツく語る流れになった。
デニスさんが盛り上がりすぎて、エールと焼き鳥の親和性を語り始めたところで、「子供にお酒勧めちゃだめでしょ!」とマーニャさんの盛大なツッコミ(物理)が入り、それを見て皆で笑った。
<おまけ>
焼き鳥はタレ派?塩派?
デニス&アラン…タレ派。やっぱり男子はしっかり味がお好き。
リリアン&マーニャ…塩派。「ワインには塩の方が合うのよね」byマーニャ
ニール… 「俺、焼き鳥食ったことなかった……」王都に来てからのご飯はメイドが作ってたので、庶民の店には行く機会がなかったそうだ。
デニス「うーん、2対2で決着がつかねぇ…… お、お疲れさんー(と、西門の門番に声をかける) なぁ、焼き鳥ならタレと塩どっちだ??」
門番「お疲れさまです。って、何ですか??急に焼き鳥って……」
デニス「いや、今日モーア狩ってきたからさ。それで焼き鳥の話になってな」
門番「いいですね! ヤマキジの焼き鳥は良く食べますが、モーアの焼き鳥はしばらく食べてないですよ」
リリアン「良かったら、今日『樫の木亭』にモーア肉持って帰りますから、焼き鳥食べられますよー♪」
門番「おお! 今日は夕方までなので、仕事が終わったら行きますね」
リリアン「はいっ! お待ちしていますねー」
(互いに手を振って門を通り過ぎる)
デニス「……あれ?? タレか塩か聞いてねぇ……」
マーニャ「もういいわよっ(ツッコミ)」
<第1話はこちらから>
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