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オーストリアの「ブドウ畑の村のプロジェクト」が5年越しに完成するとき(1)

私たち建築家は何のために、何を目指して、暮しやまち・地域の空間を提案・設計しているのだろう。その答えのひとつがはっきり見えるとき。

それは、完成したプロジェクトを人々が使うのを見る時。

5年越しのプロジェクトが完成する。オーストリアにある「小さなワイン村」の集う場所・未来につないでいく場所をつくるプロジェクト。

そんなプロジェクトのタウンホールでの最初の結婚式セレモニー前日。ふと、ピアノの音がした。現場の最後のチェックと、忙しく明日のセレモニーの準備が行われている中で、新郎の高校生の妹さんが結婚するお兄さんカップルのためのピアノ演奏のリハーサルを弾いていた。このシーンを見てなぜか胸がいっぱいになった。


プロジェクトが完成し、自分たちの作った空間を使ってくれる人を見る瞬間は、なぜ、自分がこの仕事をしているかをかみしめる瞬間。

ありがたくて、嬉しくて涙が出そうになる瞬間。

今までの苦労をすべて忘れてしまう瞬間。

私たちのコンセプトでもある窓から見えるこの村の素晴らしいブドウ畑の景色を見ながら、このプロジェクトを一緒に作ってくれたすべての人に感謝した。

オーストリアの人口1.500人ほどの小さなワイン村にタウンホールと広場をつくるプロジェクトはこの村にとって、そして私たちにとって、とても大きな意味を持っていた。

思えば、この5年間、オーストリアでの地域つくりプロジェクトは波乱万丈の道のりだった。今回はそんな話をしてみようと思う。

「小さな村の中心をつくる」という大切なプロジェクトの設計コンペで一等を取る

そもそもヨーロッパは教会とその広場が中心となりそこから地域が形成される特徴があるが、この村は、道路に沿って発達した村で、村の中心がなかった。

だから、これはこれから何世代にもわたって使われる「村の中心」をつくるプロジェクト。そしてそれは、「村の未来」をつくるプロジェクトでもある。

こんな大切なプロジェクトの設計コンペで私たちが1等を取ったのが5年前。

古いファームハウスの納屋をこの地域のレンガや木材を使って再生・増築して、村のタウンホールと広場をつくるというコンセプトが審査員に受け入れられた。

コンペのプレゼンテーション。

タウンホールのインテリア・パースには結婚式が行われる様子を描いた。

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なぜかって?

オーストリアは大きな街でも小さな村でも、タウンホールの一番重要な役割として結婚式がある。教会で結婚式を挙げるのは宗教的なセレモニーで、結婚で籍を入れるすべての人が必ず行うのは役所で行われる誓いのセレモニー。親族・友達などの親近者のみで行われるこの大事なセレモニーが行われるのがタウンホールである。そして、その後、村人を招待した結婚パーティーが行われるのもここ。というか、村のみんなが祝福に集まってくる。招待状はいらない。

タウンホールでは役所業務のほかにも、こうした地域の集まりやお祭りが行われるので、まさに地域の中心、集いの場所なのである。

こんな大事なプロジェクトの一等を取ったということにもまして、コンセプトが地域の人に受け入れられたということがうれしかった。

私たちは早速、地域の人とワークショップを始めた。

ーところが、そこでストップがかかったー

「秋に新村長の選挙があるからそれまでプロジェクトを進めないでほしい」

と言われたのである。まさかのプロジェクトがストップ…

10年以上務めてきた村長さんの退職に伴い、新村長さんの選挙が行われるということになった。で、もしこの新村長さんがプロジェクトに反対だったら…

政治家に左右される公共工事の運命はどこの国も同じ。汗水流した努力が報われないことも残念ながらある。

90年代、コンペで一等を取った東京万博のオーストリア館は、都知事交代後、A知事になって中止が決定され、建てられなかったこともあった。(素敵なコンセプトだったのにな…)

でもこれも、建築やまちつくりに携わっている者の運命。そんな時、建築は政治や経済と深く結びついていることを思い知らされる。ビジョンや使命に関係がないところでその見えない力はプロジェクトを左右する。

結局、新村長さんになってもプロジェクトを進めることになった。

よかった!

しかし、変更があるから、ミーティングに来てほしいという。いい予感と、いやな予感が…

いったいプロジェクトはどうなってしまうのだろう…

この村の未来へのビジョンを設計してほしい

新村長の提案は何と、隣接した敷地も買い取るので、タウンホールだけでなく、村の特産品を扱う新しい商店と小規模な集合住宅を広場を囲んで作ってほしいということだった。

この集合住宅は、補助金が下りる半公共賃貸住宅となり、4戸は社会に出たばかりの若者に、4戸はシニアに優先的に貸し出される。

ちなみにこのシステムは、オーストリア特有の素晴らしい住宅政策のひとつ。経済的に助けを必要とする人に質の良い住宅を供給する仕組み。

プロジェクトが当初より大きくなった。←ポジティブ要素

契約が先に延びた。というか、契約してもらえるのだろうか…←ネガティブ要素

こんな時は、いつもポジティブ要素とネガティブ要素のせめぎあい。

ともあれ、私たちは、すぐにプロジェクトの変更案にとりかかった。

道路を挟んで敷地の向かい側には村の小学校と幼稚園がすでにあった。私たちのコンセプトは当初から、道路も広場の一部に変えて新しいタウンホールと学校に囲まれた村の中心広場にしてしまおうというものだった。

その広場では、小学校に通う子供たちが、こに住んでいるお年寄りと触れ合ったり、子供を学校に送ってきたママやパパがカフェで交流が出来たり、スタートアップの若者たちがコーヒースタンドを出せたり、ワイン村を訪れる人たちが地元のワインを試飲できたり、様々な人たちが出会って交流できるシーンが生まれることを期待して作られたコンセプト。

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この地域で昔からつくられているレンガにスタッコ壁、そして大屋根。村役場、タウンホール、村の商店、公共住宅全部がすべて「大きな屋根の下に」ーがコンセプト。

こうして、小さなタウンホールだけだったプロジェクトが、村の皆が「集い、学び、住み、創る」未来プロジェクトの案がつくられた。

ウィーンなんかより誇りを持っている村に、ウィーンから乗り込む

でも、重要なのは、変更して大きくなったこのプロジェクトが村の人々に受け入れられるかどうかだ。というか村の人がビジョンなるものを理解してくれるかどうかだ。というか、興味も持ってくれないこともありうる。

現在の日本のように地方創生に関する情報や意識、興味がまだそれほどないオーストリアのごく普通の村。そして、もっと日本と違うところは、

彼らには自分たちの地域に対する誇りがメチャクチャあるということ。

ウィーンなんかより、自分たちの村の方がずっといいと思っている人が多い

だから、ウィーンから来た私たちは、そこからしてハンディキャップを持っていた。(ましてや、私は日本人である。もう、彼らにとっては火星人であっても不思議はない!笑)

さて、この続きは、また次回に。

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