師匠のドキュメンタリーを読んで感じたこと。

詳細は伏せるが、とある昭和の時代を生きた人物の自伝を読む機会があった。

その人は私の祖母の師匠筋にあたる人で、文化人らしく、家事手伝いのいる裕福な家に生まれ育ち、軍隊入りを経験し……と、私の世代からは想像できないノスタルジックな昭和の人生を歩んだ人だ。

本には、その人を文化の道に引き入れた両親の存在や、様々な縁に恵まれて大成していく半生が、淡々とした筆致で書かれていた。だがそれがかえって、ドラマチックに感じられた。
特に、私のような世代の人間にとっては、ひとつひとつの描写が物珍しく、当時の生活の質感がまざまざと浮かび上がってきた。


その本を読んでいて一番思ったのは、こういう人生があったのだなあ、ということだ。良くも悪くも、昭和初期の空気感と今とでは、まったく違うのだと感じた。

たとえば、自伝の著者には従軍の経験がある。
第二次世界大戦において、出兵して帰ってきた人たちは、皆口をそろえて、生き残ったのは「運が良かったから」と言う。たとえば、ひとつ前の艦の作戦が失敗していたら、自分たちも突入するところだったとか、自分の班ではなく隣が戦闘になった、とかだ。そして、人間の死体が「数」として処理され、猥雑に捨てられていく様も目撃している。
こんな経験をすると、人間の命に対する価値観が、私とは大きく異なってくるのだと思った。
今までも知識としては持っていたが、実際に関わりのある人の「自伝」と思って読むと(知り合いの知り合い、くらいの距離いだが…)重みが全然違った。

また、当時の空気には羨ましい部分もあった。
自分達で何かをつくっていこう、という使命感、自己効力感がすさまじいのだ。こういう気風は、私はなんとなく明治維新後に特有のものと思っていたが、上流市民の間では昭和に入ってからも続いていたらしい。
自伝の著者も例にもれず、自らが関わった文化世界で改革をもたらし、大きな功績を残しているが、そういった行動が必要とされる空気は今にはないものだと感じた。
「自分らしさ」という言葉に翻弄され、何か爪痕を残したくて必死になっている私(のような世代)にとっては、この時代の空気はある意味とても羨ましいものに感じた。


つらつらとここまで描いてきたが、取り急ぎのまとめとする。
歴史の教科書程度の知識しかなかった時代と、実際の知り合い(の知り合い)という人物の質感が重なったことで、今までにないリアリティを感じた。
それは私には羨ましく感じる面もあったが、そのように思うこと自体も、平和な時代に生きて日曜の午後にのんびりと読書することができる者の特権かもしれない。


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久々の更新は読書感想文でした。

普段、自伝とかは読まないのですが、たまたま知人に本を貰ったので読んでみたら、その人が生きた時代の息吹というか空気感が凄かったです。
ヘタな知識本よりもその時代のことが分かった気になれるかもしれない。
今後、興味を持った時代を調べる時は、その時代を生きた人の自伝を読んでみるというのもアリかもしれないです。

身バレを恐れて詳細を伏せてしまい、申し訳ないです。

それではまた、このへんで。


時人

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