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ロールズの正義原理について

 ロールズの正義原理は、多様な人々が集まって、ゼロの状態から今後自分たちが安心して暮らせる社会を作るための話し合いをさせる。それも、あらかじめ、議論の参加者にはそれに無知のベールをかぶせ、個人の具体的属性を失った状態で議論を始めれば、誰も有利にも不利にもならないような公共的な提案がなされると考えた。

 またロールズは、人は誰でも悲観的である。誰もが自分が将来病や怪我を負ったり、失業したり被害者になるなどの憂き目に遭わされるかもしれないと心配する傾向がある。しかも誰もが生涯にわたって絶対に損をしたくないと考えるとも想定する。だから、議論は、自分が最悪な状況に陥ったとしても、「人間らしくプライドを持って生活できる」ような社会制度を求めるだろうという。そこで全員一致で合意できるのは次のような正義の二原理だという。

 第一原理。誰もが、最も広範にわたる基本的諸自由に対する、他者の同様な自由と両立する平等な権利を持つべきである。
 第二原理。以下の二つの目的を満たす場合にのみ、社会的・経済的不平等が設けられる。
 最も不遇な人々にとって最大限の利益となり、結果として、全員の利益となることが合理的に期待される場合。
 公正な機会の平等が成立しているという条件のもとで、すべての人に諸々の職務や地位へのアクセスが可能となる場合。
 第一原理は、思想信仰、言論集会結社、所有権保持、居住移動などの自由権が、社会の全ての人々に平等に保障されることを求めている。第二原理は、第一原理の内容を実現すべく、既にある貧富の差や就職・進学における不平等などを修正するための不平等政策が認められる条件を示している。

 第一原理は、社会の中で最悪の境遇に陥っている人々が優先的に利益を与えられ、その上で、余裕のある人々の利益の増加が許されるというルール。つまり裕福な人々は、自分の生活が脅かされない程度の高額な税金を徴収され、それがまず、最悪の境遇で暮らしている人々の生活支援と立ち直りのために使われる。裕福な人は、その上で、自分の能力でさらに稼ぐべきだということ。こうして累進課税と貧困層への支援政策が正当化される。これを「格差原理」という。第二原理を「公正な機会均等原理」という。

 第二原理の誰もが将来に対して悲観的だから保険をかけたがるという人間観ははマキシミン原理と呼ばれる。起こるかもしれない損失をできるだけ最小に止めようという考え方。
 しかし、これは博打打ちには通用しない。

 ノージックは、「人はみな異なる。全員が住むべき最善の社会が一つしかないという考えは、私には信じられない」マキシミン原理だけが人間の考え方ではないから、それに基づく正義の二原理だけが正義ではないという。

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