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『燕は戻ってこない』ーサスペンスよりゾワゾワする

『燕は戻ってこない』NHK火曜夜10時
(第1話、第2話)

タイトルだけ見てもピンとこないのですが、ドラマ中で燕(つばめ)の話に触れる場面がありました。

本ドラマの脚本は長田育恵さん(テレビドラマ過去作品は『らんまん』『群青領域』、ほか舞台、ミュージカル作品多数)。原作は桐野夏生さんの小説。
出演は、主人公・リキ (石橋静河さん)、元バレエダンサー・基(稲垣吾郎さん)、基樹の妻・悠子(内田有紀さん)ほか。

サスペンスドラマより怖いのでは、と思うほど何かぞわぞわするような、でも引き込まれる物語。派遣社員で働くリキはボロアパートでぎりぎりの生活をしている。ある時同僚のテル(伊藤万理華さん)から卵子提供をして金を稼ごうと誘われる⋯

主人公を演じる石橋静河さんは俳優の石橋凌さんと原田美枝子さん夫婦の二女。石橋凌さんはその昔「ARB」というロックバンドのボーカリストでもありました。今では俳優業がすっかり板について渋いイケオジです。

ちなみに、石橋静河さんの姉優河さんはシンガーソングライター。TBS系 金曜ドラマ『妻、小学生になる。』の主題歌「灯火」は、メロウな曲調と優しい歌声が魅力的だった覚えがあります。

話がそれましたが・・・

ストーリーの本筋とはズレますが、まずインパクトがありすぎたのは、1話で、同じアパートに住む男 (酒向芳さん)がリキに「俺の自転車、蹴っただろう!」と難癖をつけてくる場面。
リアルで怖かった。
リキが謝っても男は怒ったまましつこくネチネチ「自転車を起こせ」「泥がついているから拭け」とか迫ってくる。

難癖オヤジを演じる酒向さんは、月10のフジテレビドラマ『アンメット』では西島医療グループの最高権力者・西島秀雄役(かつ生田絵梨花さん演じる麻衣の祖父役)で出演していて、ここでは裕福な権力者という立場だけど、ステーキ肉をくちゃくちゃと嫌な咀嚼音をたてて食べる姿が同じく変態風・・・。

『燕は戻ってこない』ではアパートのリキの部屋のドアの向こうから「あんたのタラコ入れてよ~」と再びあの男(酒向さん)が脅かすシーンもあったりして本当にゾッとしましたけど、底辺の暮らしぶりが真に迫っていた演出でした。

リキを演じる石橋静河さん、美しい顔立ちだけど派手顔じゃないのでこういう役はリアル感があっていいですね。
代理母を依頼することになる基・悠子夫妻も身なり・生活のセレブぶりが、29歳でギリギリの生活をしているリキとは対照的な雰囲気を醸し出しています。

内田有紀さんもさまざまな役をこなせるいい女優さんだと思います。

2話で、自分の遺伝子にこだわる基が推し進めた代理母 (サロゲートマザー)による出産を、悠子は自分が子供を産める体ではないからという負い目もあるため受け入れるも、やはり賛同しきれない複雑な思いに耐え切れず、友人で春画画家の寺尾りりこ(中村優子さん)の前で涙する・・・。

その泣き方から悠子の苦悩がすごく伝わってきました。内田有紀さん素晴らしいし、とにかく美しい。

生殖医療エージェント「ブランテ」日本支社長・青沼薫役の朴璐美さんも、〝いかにもいそうな〟という妖美な役どころで素敵でした。

ワーキングプアのリキが報酬のために登録した「ブランテ」に行ったときの、妖しくまぶしいラグジュアリーな空間が、反対にリキの貧乏くさい出で立ちを際立たせます。
また、その雰囲気に緊張するリキと同じ感覚になるような、いわゆる疑似体験をリキの視点で味わえました。

朴璐美さんはあまり知らなかったのですが、話し方のトーンに抑揚があり流暢で活舌も良くて声優さんみたいだな~と思っていたら、ホントに声優さんだったのですね。納得。

あと印象深いのはことある毎に差し込まれる「卵」関連の映像。玉子焼き、目玉焼き、ゆで玉子、タラコ⋯。「卵子」を効果的に掛け合わせているのでしょう。

「命」「生殖」「血の繋がり」というテーマと、現代の貧困、少子化などの社会問題とを絡ませている、深く考えさせられるドラマです。


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