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遠い記憶  十八話

その頃から、だった様に思う。
私の中に、もう一人の私が語り出す様になったのは。

何時まで、あの人の事、親だと思ってるの?
あんなの、親じゃ無いよ。

おまえは、みにくいアヒルの子なんだよ。
ここの子じゃ無いんだよ。

じゃあ、本当の、お母さんは?
本当の、お父さんは?

何処にいるの?
フゥーと、歩き出す。

あても無いのに。
よその家の、入り口に立って。

中から、お母さんらしい人の、笑い声がする。
思い切って、すいません、ここの子供にして貰いませんか?

と、言いかけるが、言えない。
その内、何処の家も、扉が閉まり。

中から、灯りがともる。
はっと、我に変える。

私、何してるんだろう?
お風呂沸かさなきゃ。

家に戻ると、何時もの、母の怒鳴る声。
夜は、酒に酔って騒ぐ父の声。

何時しか、そんな母が、憎いと思う様になって来た。
酒を浴びる、父が臭くて、汚いと思う様になって来た。

しかし、そう思う直ぐ後には、お母さんも、疲れてるんだよ。
私も、もう少し我慢しなきゃ。

そう、全く違う、考え方をしてしまう。
自分でも、本当の自分の感情が、判らなくなって行った。

しかし、少しつづだが、
自分の感情を、ぶつける様になった。

それは、弟であった。
母が、私を怒る度に、その鉾先は弟へ、

馬鹿がー おまえのせいで、姉ちゃんが怒られるっと。
パチリ。

いつの間にか、私は、弟に手を挙げていた。
勉強教えろと、母は、私へ、

私は、弟に読んで見ろと言う。
いくら、読んでもちっとも、内容つかめない。

馬鹿かーと
パチリ。

笛のテストが、あると言う。
母が、私に教えろと言う。

ミは?
ファは?

馬鹿かー
パチリ。

朝の出かける前5分で、出来る訳無いだろう?
弟の、いくら言っても、のんびりさ加減には、腹が立つ。

私は、学校行く前に、新聞配らなきゃいけない。
やってられない。

馬鹿かーと、
又、パチリ。

不思議と、弟に手を挙げた、瞬間だけ、
心が、ㇲゥーとするのを感じた。

母は、私相手に、愚痴を溢す様になった。
お前達が、いるから、

私は、我慢してると言う。
お前達が、いるから、逃げられ無い。

お前達が、いなかったら、
あんな、お父さんから、逃げられたのにと言う。

毎度、毎度
聞いてる、こっちも、たまったもんじゃ無い。

あんたを、苦しめてるのは、お父さんじゃ無くて。
私達かい。

心の中で、叫ぶ。

それは、違うだろう。
それを、言うなら、どうして、一緒になったの。

誰が、生んでくれと、頼んだよ。
少しつづだが、母に対する、反抗心が芽生えて来た。

それでも、よその子には、なれない。
それでも、環境を変える事は、出来ない。

どうしたら、いいんだろう?
そればかりを考えていた様に思う。

見る物、触る物、何って訳など無いが、何故か気に入らない。
ドアを見れば、バタンと閉める。

洗濯しても、何で私ばっかりと、乱暴に当たる。

歩いていても、畳が気に障る。
ドン、ドンと、歩いて見せる。

私の精一杯の、反抗だった。


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