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バナー広告のコピーライティングで使える行動経済学3選

最近行動経済学の本をたくさん読んで勉強しているのですが、「これはそのままコピーライティングやUXライティングに使えるな」と思うことが本当に多いです。

ということで、その中でも特に汎用性が高そうなものを3つ選んで、まとめてみたいと思います。

題材にするのはこちらのバナー広告です。

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そうです、「うわっ…私の年収、低すぎ…?」のやつです。

日本で最も有名なバナー広告のひとつではないかと思うのですが(逆に純粋想起で思い浮かぶバナー広告なんてこれ以外にないレベル)、どちらかというとネタとしての完成度の高さがインターネットにうけた、という評価だと思います。

しかし改めてよく見てみると、バナー広告のコピーライティングで学ぶべきことが凝縮されていて、めちゃくちゃ勉強になる事例です。

なので、こちらのバナー広告を題材に解説してみようと思います。

今回取り上げる行動経済学は次の3つです。

①プロスペクト理論(損失回避バイアス)
②フォッグの消費者行動モデル(B=MAT)
③社会的証明の原理

さっそくひとつずつ見ていきましょう。

①プロスペクト理論(損失回避バイアス)

まずは何と言っても、このバナー広告で最も強く訴求されているコピー、「うわっ…私の年収、低すぎ…?」についてです。

このコピーで用いられているのがプロスペクト理論の損失回避バイアスです。

プロスペクト理論の損失回避バイアスとは、同じ価格であっても、得した時の喜びより損した時のダメージのほうが大きく感じることです。

こちらのnoteにとてもわかりやすくまとめられているのでぜひ読んでいただければと思うのですが、画像のグラフを見ていただくと、同じ1,000円なのに、損した時の悲しみが得した時の嬉しさの2倍になっています。

つまりに人間は、得することよりも損することのほうが圧倒的に感度が高いのです。

これを応用したのが「うわっ…私の年収、低すぎ…?」というコピーです。

ビジネスパーソンは転職の意思があろうがなかろうが日々無限に転職サイトのバナー広告に接触していると思うのですが、そこでよく見るのが「年収1,000万円」「土日休み」「大手優良企業」など転職のアップサイドの部分を訴求したものです。こちらは転職によって得する喜びを表現しているわけです。

しかし、「うわっ…私の年収、低すぎ…?」というコピーは、ユーザーが今まさに抱えている損失の部分を訴求しています。同じ100万円でも、年収が100万円増えることを訴求するより、100万円損していることを訴求するほうが、人間の心が動くようにできていているからです。

この事例のように、サービスの利用によって得られるベネフィットを訴求するのではなく、ユーザーが現状抱えている損失を言語化するのは、コピーライティングのテクニックとしてとても有効化のではないかと思います。

②フォッグの行動モデル(B=MAT)

次に取り上げるのは「無料5分で」という部分です。このコピーで用いられているのがフォッグの行動モデル(B=MAT)になります。

フォッグの消費者行動モデル(B=MAT)とは、人間の行動は動機と能力ときっかけの掛け算によって起こるというモデルです。

行動(behavior)=動機(motivation)×能力(ability)×きっかけ(triggr)

B=MATについては、こちらのnoteがとてもわかりやすいです。

ここで特に注目したいのが、動機×能力の部分です。上記のnoteでは能力を「容易さ」と表現していますが、この「容易さ」こそが人を動かす大きな要因になります。

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(https://localab.jp/blog/user-behavior-model/より引用)

上記の図の通り、モチベーションと容易さが反比例のような関係になっています。例えば、ユーザーが旅行に行きたいと思っていたとして、すごくモチベーションが高い場合は、どんなに金銭的コストと手間がかかったとしても、海外旅行に行くことができます。しかし、モチベーションが低い場合は、金銭的コストと手間のかからない国内旅行でいいか、となるわけです。

これだけ聞くといや当たり前やんけと思うのですが、わたしがこのモデルで学んだことは、モチベーションが一定だった場合は、かんたんにできるほうが行動する確率が高くなるということです。

実務のUXライティングでもいかにかんたんに見せるか、かんたんに伝えるかに心血を注いでいるわけですが、かんたんにするとモチベーションが低くても動くと明確な理由を理解することによって、より解像度高くUXライティングに取り組めるようになりました。

その容易さをコピーに落とし込んでいるのが、今回の事例では「無料5分で」の部分になります。

これを応用すると、次のようなコピーもとても効果が高いことがわかります。

3ステップで申し込み完了!

最短5分で発行!

また、以前noteに書いたひらがなと漢字のバランスを考えるというのも、モチベーションの低いユーザーを動かす手段のひとつだと思います。

③社会的証明の原理

最後に取り上げるのが、「40万人を突破!」というコピーです。

こちらのコピーで使われているのが社会的証明の原理です。

行動経済学のバイブル的な一冊である「影響力の武器」において、社会的証明の原理は次のように書かれています。

人がある状況で何を信じるべきか、どのように振る舞うべきかを決める時に重視するのが、ほかの人びとがそこで何を信じているか、どのように行動しているかである。他人を模倣しようとする強い作用は、子供にも大人にも見られ、また、購買における意思決定、寄付行為、恐怖心の低減など、さまざまな行動領域で見られる。

この「ほかの人びとの行動」を端的に言語化したものが、「40万人を突破!」というコピーになります。

また、旅行予約サイトなどで、次のようなコピーが使われることがあります。

昨日この宿泊施設を103名が予約しました。

これも他の人の行動を伝えることで、予約という意思決定を促すコピーになります。

この社会的証明の原理に近いものとして、税金の催促状の文言の効果を検証した有名な実験があります。

文面1:本状は、あなたが納めるべき税金5000ドルが未納であることをお知らせするものです。必ずご連絡ください。

文面2:本状は、あなたが納めるべき税金5000ドルが未納であることをお知らせするものです。あなたがお住まいの地域では、すでに10人のうち9人は納税済みです。必ずご連絡ください。

その結果、1の督促状は2よりも効果が低く、年間数千万ポンドもの政府予算が無駄になっていることが判明した。2の督促状を読んだ滞納者は態度を改め、未納分を納めるようになったのである。

効果的なコミュニケーションは、ちょっとした実験から生まれるより引用)

こちらの実験においても「すでに10人のうち9人は納税済みです」の部分で、まさに他の人の行動を伝えています。

最近の社会情勢によりSNSなどで「同調圧力」や「村八分」などのキーワードを目にすることが増えましたが、特に日本は海外に比べ、より強く社会的証明の原理の影響を受ける民族なのではないかと思っています。

人間の本質的なメカニズムを理解することが大切

今回はコピーライティングに役立つ行動経済学を3つ紹介しましたが、わたしが行動経済学を学んでよかったと思うのは、コピーの効果を人間の本質的なメカニズムで理解できるようになったことです。

例えばA/Bテストをしてどのコピーがよかったのかを検証することはできますが、そのコピーがなぜよかったのかが理解できなければ、ただの事実としての結果で終わってしまいます。

しかし、行動経済学を学ぶことで、なぜ人間がそのコピーによって行動したのか、という理由がわかるようになってきたのです。

行動経済学は多くの書籍や事例がありまだまだ学ぶことが多いですが、今後も勉強を続けて、コピーライティングやUXライティングに活かしていきたいと思います。

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