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シンプルで簡単な文章を繰り返すと、人間は「信頼できる」と判断する

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これは、わたしがNetflixのUXライティングを分析した際に、会員登録フローにおいて画面に何度も繰り返し表示されたメッセージです。その数は、なんと5回でした

Netflixの入会を検討しているユーザーが最も不安に思っていることは「自分の思うようなサービスでなかった場合に、すぐに解約できるかどうか」です。その心理的な不安を払拭するために、同じメッセージを繰り返し提示しているのです。

では、なぜ5回も同じようなメッセージを繰り返す必要があるのでしょうか。

そのヒントになるのが、行動経済学における認知容易性です。

認知容易性とは

ノーベル経済学賞受賞者であり行動経済学を専門とするダニエル・カーネマンは、著書「ファスト&スロー」で、人間が必ずしも合理的な判断をしないこと、そしてその際人間がどのようなメカニズムで非合理的ともいえる意思決定を行っているかを、さまざまな実験を元に解明していきました。

行動経済学はマーケティングやUXを考える上で非常に役に立つ概念であり、本書を読まれたことがある方も多いと思います。

その行動経済学のメカニズムのひとつとして挙げられているのが、認知容易性です。

人間には認知容易性を計測する計測器が備わっていて、その計測器の針は「容易」と「負担」の二つのどちらかに寄っています。

ユーザーが認知が容易だと感じている場合、聞いていることをもっともだと思い、直感を信用し、慣れ親しんだ心地よい状況だと判断します。

逆に認知負担を感じている場合は、慎重で疑り深く、緊張し、直感に頼らない状態になります。

つまり超平たく言うと、簡単だと感じると好きだと思い、難しいと感じると好きじゃないと思うのです

当然ながらUXライティングの場合サービスやプロダクトを好きだと思ってほしいので、簡単だと感じてもらう必要があります。

では、どうすればヒトは「認知が容易である」と感じるのか。

本書では、認知が容易であると感じさせるためのインプットとして、いくつかの要素が述べられています。その中でも、UXライティングにおいて非常に役立つと感じたのが、次の3点です。

1.シンプルである

2.簡単である

3.繰り返されている

この3点について、それぞれについて詳しく書いていきます。

1.シンプルである

本書では、説得力ある文章を書くためには、文章をシンプルにするべきであると述べられています。その根拠となっているのが、次の実験です。

参加者の半数に、あまりに見慣れない次のような格言を読ませた。

大難は敵味方を一つにする。
小さな一撃も積もれば大木を倒す。
告白した過ちは半ば正されている。

残りの半分に、この文章を普通の言葉で書いた次の文章を読ませた。

大きな災難がふりかかると、それまで争っていた敵味方も力を合わせるようになる。
小さな一撃でも、何度も加えるうちには、どんな大きな木も倒すことができる。
過ちを自ら認めた時には、その過ちの半分は正されたといってよい。

すると、格言風に仕立てた前者のシンプルな文章のほうが、普通の文章より洞察に富むと判断された、という結果が出ました。おそらく英文を翻訳したものなので若干違和感がありますが、普通の言葉でだらだら説明するよりも、短く強い言葉で端的に語られたほうが心に刺さるというのは、納得感のある結果だと思います。

この「文章がシンプルである」ことは、UXライティングにおいても非常に重要です。なぜなら、人間はWEBのテキストを20%程度しか読まないと言われているからです。

このことからも、長い文章が認知の負荷になっていることがよくわかります。

2.簡単である

皆さんの周りに、やたらと難しいマーケティング用語やIT用語を使う人はいないでしょうか?こういうタイプの人はSNSなどでも揶揄されがちですが、このことについても本書でズバリ指摘されています。

自分を信頼できる知的な人物だと考えてもらいたいなら、簡単な言葉で間に合う時に難解な言葉を使ってはいけない。

この論拠になっているのが、その名も「必要性とは無関係に衒学的な専門用語を使用することの影響すなわち無用に長い単語を使うことの弊害」という論文です。もはや論文名にすべて書かれているのですが、この論文では、ありふれた言葉をもったいぶった言葉で表現すると、知性が乏しく信憑性が低いとみなされることが示されています。

前述のやたらと難しい言葉を使う人はなんとなく信用できない、というのは、こちらも非常に納得感のあるものなのではないでしょうか。

日本語においては、漢字を多用すると文章が難しく見えるので、ひらがなとのバランスを工夫するというのも、認知を容易にする手法のひとつなのではないかと思います。

3.繰り返されている

最後が冒頭でも書いた「繰り返し」です。伝えたい内容が真実であると認識してもらうには、何度も繰り返し伝える必要があると本書で述べられています。

同じフレーズの繰り返しと聞いて思い出すのが、中学生の時に暗記したキング牧師の「I have a dream」です。数十年経った今も頭の片隅に残っているぐらいなので、直接聞いた人たちはこれまでに経験したことがないほど心が動いたのではないかと思います。

また、この繰り返しの力を悪用したのがヒトラーです。わたしはコピーライターやUXライターとして仕事をするなかで、なぜヒトラーがあれほどまでに言葉の力を使って人々の心を掴むことができたのか、ということに興味を持ったことがあります。その時に買った『ヒトラー演説』という本の中で『最も単純な概念を1000回繰り返して初めて、大衆はその概念を記憶することができる』というヒトラーの言葉が引用されています。

さらに、アメリカの大統領選においても、オバマ元大統領は「Yes We Can」を、トランプ大統領は「Make America Great Again」を繰り返し伝えていました。このことからも、繰り返しが大きな力を持っていることがわかります。

「シンプル・簡単・繰り返し」をインプットすると、「親しみ・信頼・快さ」がアウトプットされる

シンプルであること、簡単であること、繰り返されていること。この3つ満たすと、その文章の認識が容易である、と判断されます。そしてそのアウトプットとして、親しみや、信頼や、快さという感情を抱くのです。

行動経済学

(『ファスト&ロー』に掲載されている図を筆者がアレンジ)

UXライティングには、いかに認知負荷を減らし、ユーザーにスムーズな体験を提供できるかが求められていますが、それがそのまま、プロダクトやサービスの親しみやすさや信頼感につながります。

これからも自分の関わるサービスやプロダクトがより愛されるように、これらの知見を活かしていきたいです。

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