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SlackのUXライティングが名文だったので写経した

先日twitterでSlackのUXライティングが話題になっていました。

わたしもこちらのツイートでこのコピーのことを知ったのですが、これはマジで名文だと思ったので写経しました。

写経とは

そもそも写経ってなんやねんという話なのですが、写経とはコピーライティングのトレーニングのひとつです。別に出家するわけではありません。好きなコピーや気になったコピーを、ノートに書き写していくのです。

わたしがよく写経していたのは、その年の優れたコピーを集めた『コピー年鑑』という本に掲載されているコピーです。馬鹿デカくてめちゃくちゃ重くて墓石みたいな本なのですが、値段も張って2万ぐらいします。

コピーライターになったばかりの頃は、自分にプレッシャーをかける意味もあり3年分ぐらい自腹で購入していましたが、広告会社で働いていた頃は会社で読むことができましたし、大学生の頃は大学の図書館で読んでいました。

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こちらの画像は過去のわたしのノートから発掘したもので、ブレーンという広告クリエイティブの雑誌から、世界最高のコピーのひとつであるAppleの「Think different」の部分を切り抜き、その下に日本語訳を写経したものです。わたしにもこういう涙ぐましい努力をしていた時代があったんですね(遠い目)。

写経をすると何がいいのかというと、よく言われるのが優れたコピーのリズム感を身体で覚えることができる、というものです。

こちらのnoteでコピーにおけるリズム感の重要性みたいなものを書いたのですが、どちらかというとこれは頭で理屈を考えるよりも、生理的に気持ちのいいリズム感を身体で覚える的なフィジカルな要素が大きい気がしています。そのトレーニングとして写経がとても役に立つのです。

そしてもうひとつが、自分が好きなコピーを選び、何が好きかを分析することで、センスを磨くことができます。

こちらのnoteで紹介した「センスはジャッジの連続から生まれる」という言葉があるように、とにかく自分が何を好きなのかを明確にしないと、自分が好きと思えるコピーも書けません。なので、上記のノートのように、よくコピー年鑑をコピー(複写のほう)して、ノートにぺたぺた貼っていました。

写経をやってほんとにコピーが上手くなるのかよ的な話も聞いたり聞かなかったりするのですが、個人的にはそれなりの効果があったのではないかと思っています。

Slackのコピーを写経して気付いた3つのこと

実際にSlackのコピーを写経したのがこちらです。特に名文だと思った最後の部分を写経しました。

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UI上のコピーを手書きでノートに写経するというのはわたしも人生で初めてやりましたが、もしかしてこれは人類で初めてUI上の名コピーをノートに写経した事例かもしれません(わたし調べ)。

最後に。皆さんには、今回の大幅なアップデートによって、違和感を感じられたり、せっかく覚えた操作をまた覚え直したりと、ご不便をおかけすることになるかと思います。申しわけありません!ですが、これまで継ぎ接ぎのように改善や機能の追加を繰り返した結果、使いにくくなってきていた点があり、それを思い切って改善する必要があったことをご理解いただけたらと思います。

こちらが写経した部分です。幸か不幸かコピペができなかったので、これも手打ちしました。ノートに書き写すのではなく手打ちすると、またコピーの違った味わいに気付いたりします。

今回写経してみてわたしが気付いたのは次の3点です。

1.共感
2.理由
3.人格

この3つについて書いていきます。

1.共感

ひとつめのキーワードは「共感」です。コピーで言うとこの部分。

皆さんには、今回の大幅なアップデートによって、違和感を感じられたり、せっかく覚えた操作をまた覚え直したりと、ご不便をおかけすることになるかと思います。

幸運にも、わたしは以前SlackのUXライターであるアンドリュー・シュミットさんのセミナーに参加したことがあります。

そこで語られていたことのひとつが、ユーザーが感じている感情を探り、一緒に共感することでした。

「違和感を感じられたり、せっかく覚えた操作をまた覚え直したりと」とありますが、まさにユーザーが今回のアップデートで抱くであろう感情を言い当て、共感しています。これを読むことで、ユーザーは「あぁ、Slackの中の人は、わたしたちの気持ちを理解してくれているんだなあ」と思うのではないでしょうか。

わたしなんかは心が動くハードルがめちゃくちゃ低いタイプなので(意外とこれがUXライターに向いている資質な気がする)、「なんでわたしの気持ちがわかるの!?」みたいな気持ちになるのではないかと思います。

2.理由

ユーザーの気持ちに共感したあとは何をするかというと、ちゃんと理由を説明するわけです。

これまで継ぎ接ぎのように改善や機能の追加を繰り返した結果、使いにくくなってきていた点があり、それを思い切って改善する必要があったことをご理解いただけたらと思います。

この部分ですね。どのような意図があって、使い慣れたユーザーのUXを毀損してまでアップデートする必要があったのか、それをちゃんと説明しているわけです。

わたしも、いちユーザーとしてプロダクトを使用していて、なんでこんな改悪するんだよ、とよく思うことがあります。もちろんいろんな理由があってアップデートされるのではないかと思うのですが、アップデートというのは十中八九不満が出るものです。その不満を軽減する要素の一つとして、なぜそのアップデートが必要だったか、理由をちゃんと説明する、というのはすごく効果的なのではないかと思いました。

「アップデートしたよ!便利になったよ!使ってね!」だけではダメなんだな、というのが今回とても勉強になりました。

3.人格

そして最後はUXライティングの真骨頂ともいえるプロダクトの人格形成です。わたしが今回のコピーを読んでいちばん衝撃を受けたのがこの部分です。

申しわけありません!

この「申しわけありません!」を読んで、わたしは度肝を抜かれました。

ちょうど先週末、システムメンテナンスの告知をするテキストを考えていたのですが、一般的な日本企業の場合、どうしても「お客様にはご不便とご迷惑をおかけし誠に申し訳ございませんが、何卒ご理解とご協力の程、よろしくお願い申し上げます」みたいなことになります(さすがにちょっと誇張していますが)。

それを「申しわけありません!」という一言で表現できるのは、やはりSlackがUXライティングによるプロダクトの人格形成に徹底的にこだわって、身近で親しみのあるコミュニケーションを追求し、ユーザーとの素敵な関係を丁寧に構築してきた結果なのではないかと思いました。

よくUXライティングはプロダクトを擬人化してから言葉を考えるといいと言われますが、わたしは逆に今回のSlackのコピーを読んで、すごく頭が良くてユーモアのある外国人が、少し片言の日本語で一生懸命話をしているようなイメージが頭に思い浮かびました(もちろん先入観も多分にあるのですが)。

UXコピーは身体的な表現でもある

今回改めてSlackのUXライティングのすごさを肌で感じることができたのと、写経することでいつもとはまた違った、フィジカルな学びがあったように思います。

わたしはUXコピーを書く時もなるべくノートに書いてからPCでテキストに打つようにしているのですが、UXライティングは体験を設計するものなので、身体的な感覚に近い部分も多くあると思います。

今後も素敵なUXコピーに出会ったら、また写経をしていきたいです。

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