サードドア

わたしはサードドアをひらいてコピーライターになった

夢を抱け 誰にも言うな 口にすれば 叶わぬらしい それが夢なんだ

これは、2004年12月にリリースされたH.P. オールスターズ(ハロー!プロジェクトオールスターズ)の「ALL FOR ONE & ONE FOR ALL!」という曲の一節だ。当時敬虔なハロオタ(ハロー!プロジェクトのオタク)だったわたしは、つんく(神)が書いたこの歌詞の意味についてよく考えていた。

この曲をよく聴いていた頃、わたしはちょうど就職活動をはじめたばかりで、なんとなく広告会社でクリエイターとして働きたいと思い始めた時期だった。少し大げさに言うと、自分の夢が広告クリエイターになったのだ。そんな状況だから、この歌詞がとても胸に響いたことをよく覚えている。「この夢は、誰にも言わないほうがいいのか?」と。

あれから15年がたち、なんとか当時の夢であった広告クリエイターになった今、確実に言えることがある。それは、「夢は口に出さないと叶わない」ということだ。少なくともビジネスの世界では。

サードドア

2020年を迎え、今年はインプットに力を入れようと思ったわたしは、一冊の本を手に取った。「サードドア 精神的資産のふやし方」だ。この本は、アメリカの大学生だった著者が、クイズ番組で手に入れた資金を元手に、ビル・ゲイツ、レディー・ガガ、スティーブン・スピルバーグなどの著名人に突撃インタビューする物語だ。そんな彼らがブレイスクルーするきっかけとなった「成功への抜け道」を、本書ではサードドアと呼んでいる。そして著者自身がサードドアをあけることで、夢のような人物との出会いを次々に叶えていくという物語だ。

例えば、スティーブン・スピルバーグは、映画学校にすら合格できない若者だった。しかし、ユニバーサル・スタジオ・ハリウッドのツアーバスからこっそり飛び降りて、ユニバーサルに忍び込むことで最初のチャンスを掴んだそうだ。このような著名人の抜け道エピソードが、サードドアにはたくさん書かれている。その中で、わたしの心を鷲掴みにしたエピソードがあった。本書の著者アレックスが、ザッポスのCEO、トニー・シェイの付き人になった時の話だ。

「でも誰も頼んでこないんだ」

とあるパーティでトニーに知り合ったアレックスは、勇気を出してトニーにこうお願いした。

「1日だけザッポスのCEOになりたいです。というか、あなたにくっついて行って、あなたの生活がどんなものか見てみたいです」

トニーは「わかった…いいだろう」と答え、アレックスはトニーの生活のお伴をすることになる。まさにアレックスがサードドアをひらいた瞬間である。すると、アレックスは、ザッポスの社員から羨望の眼差しを浴びることになる。ザッポスにはCEOのトニーの影となってお伴をすることが夢という社員がたくさんいて、自分もアレックスのようにトニーのそばにいたいと思っていたからだ。

アレックスはトニーに別れを告げる日、「どうして他の社員の人に影の役をやらせてあげないんですか?」と質問した。すると、トニーはこう答えた。

「喜んでやらせたいよ。でも誰も頼んでこないんだ」

この一文を読んで、わたしは自分の身体に電流が流れるような感覚を味わった。自分にも同じような経験があったことを思い出したからだ。

コピーライターになりたいです

就職活動で広告会社を中心に受けたわたしは、本当にぎりぎりのところで、とある広告会社から内定をもらうことができた。しかし、その時の職種は、コピーライターではなく、営業だった。ただ、これは、自分でも納得した上での選択だった。わたしが新卒で入った会社は、当時は新卒はすべて営業配属(美大卒のデザイナーを除く)だったのだ。コピーライターになるよりも、まずは広告業界に入るほうが大事だと思っていたわたしは、何の迷いもなく営業として入社した。しかし、ただ営業として入社しただけではコピーライターになれないと思っていたので、とにかくコピーライターになりたいということをアピールしまくったのだった。今思うと、これもサードドアだったのかな、という気がするが、具体的には、上司や先輩にコピーライターになりたいとしつこく言ったり、かんたんなコピーは営業なのに書かせてもらったり、コピーライターの登竜門と言われる宣伝会議賞に応募したりした。そして年に一度、自分の希望を申告する機会があったので、そこでもどうしてもコピーライターになりたいという想いを綴った。その甲斐あってか、とにかく周りの方に恵まれて、運がよかったこともあり、1年後には本当にコピーライターになれたのだ。

「だって誰も言ってこないんだもん」

コピーライターになることが決まった時、わたしは当時の社長に質問をしたことがあった。自分以外にも、同期や先輩で、コピーライターになりたいと思っていた人を何人か知っていたからだ。だからわたしは「なんで自分だけコピーライターになれたんですか?」と質問したのだ。すると、社長の答えはこうだった。

「だって誰も言ってこないんだもん」

そう、アレックスと同じ経験を、実はわたしもしていたのだ。そしてわたしも、サードドアをひらいて、コピーライターになっていたのだった。

サードドアは誰にでもすぐそばにある

この本を読むまでは「サードドア」と聞くと、それこそスピルバーグがハリウッドに忍び込んだような、人生を変えるような大きな経験をしなければならない、というようなイメージだった。しかし今は、それとは少し違っている。日々のちょっとしたことの積み重ねも、意外とサードドアになるのかもしれない、ということだ。改めて自分のこれまでの社会人人生を振り返ってみると、あれはもしかするとサードドアだったのかもしれない、というような出来事がいくつか思い浮かぶのだ。あの時あの飲み会に行ってなかったらあの人と仕事ができなかったかもしれない、とか、あのメールを読んであの社内セミナーにいかなかったらあのチャンスは手に入らなかったかもしれない、とか。

これからは何か迷ったときには「これはもしかしたらサードドアなのでは?」と考えることで、次の一歩を踏み出せるかもしれないし、これからの人生も、わたしはばんばんサードドアをひらいていきたい。

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