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アイドルグループ「アイドリング!!!」の元メンバーでボイストレーナーの遠藤舞さんが、最近noteをはじめました。

元アイドルだからこそかけるnoteだなという感じで、アイドルオタクとしては読んでいてとても面白いのですが、そんな彼女がtwitterでこんなツイートをしていました。

文章を書くときに気を付けていることは、リズム感。このツイートを見て、わたしはとても共感しました。なぜなら、わたしがUXライティングをする上で気を付けていることのひとつが、リズム感だからです。

今回は、UXライティングにおいてとても大切なリズム感について、わたしなりの考えを書いてみたいと思います。

コピーライティングでも大切なリズム感

わたしはUXライターとしてUXライティングの仕事をする前、広告会社で10年ほどコピーライターをしていたのですが、コピーライティングでもリズム感はとても大切だと教わりました。

ある著名なコピーライターが「カラオケが上手いやつはいいコピーを書く」みたいなことを言っていた記憶があるのですが、それもコピーライターの資質のひとつにリズム感の良さがあるからなのではないかと思っています。ちなみにわたしも3歳からヤマハ音楽教室に通っていたので、リズム感はあるほうなのではないかと思います(突然の自慢)。

具体的な例を挙げると、たとえば、こちらのCM。

Here’s to the crazy ones. The misfits. The rebels. The troublemakers. The round pegs in the square holes. The ones who see things differently. They’re not fond of rules. And they have no respect for the status quo. You can quote them, disagree with them, glorify or vilify them. About the only thing you can’t do is ignore them. Because they change things. They push the human race forward. While some may see them as the crazy ones, we see genius. Because the people who are crazy enough to think they can change the world, are the ones who do.

世界で最も優れたコピーのひとつ、Appleの「Think Different.」です。

英語だし、BGMの影響ももちろんあるのですが、それでもこのコピーを聞いているだけで、なんか心地よい気持ちになってきませんか?

日本語だともっとわかりやすいでしょうか。HONDAの「負けるもんか」のコピーです。

がんばっていれば、いつか報われる。
持ち続ければ、夢はかなう。
そんなのは幻想だ。
たいてい、努力は報われない。
たいてい、正義は勝てやしない。
たいてい、夢はかなわない。
そんなこと、現実の世の中ではよくあることだ。
けれど、それがどうした?
スタートはそこからだ。
技術開発は失敗が99%。
新しいことをやれば、必ずしくじる。
腹が立つ。
だから、寝る時間、食う時間を惜しんで、何度でもやる。
さあ、きのうまでの自分を超えろ。
きのうまでのHondaを超えろ。
負けるもんか。

コピーを聞いてるだけで、魂が奮い立つような、エモーショナルな気持ちになってくると思います。

「Think Different.」も「負けるもんか」も、もちろんメッセージがそのものが心を打つような言葉になっています。

しかし、さらにその上で、単語の長さと文の長さ、息継ぎのタイミング、効果的な繰り返し、口に出した時の気持ちよさなど、音を強く意識してコピーを書くことで、より強く響くものになっているのです。

UXライティングでなぜリズム感が大切なのか

ではなぜ、CMのナレーションのように、音になることがないUXライティングにおいても、リズム感が大切なのか。

それは、人は黙読する場合も、脳内で文字を音に変換して認識しているからです。

文章の書き方の教科書として、非常に評価の高いもののひとつに「新しい文章力の教科書」という本があります。

この中でも、次のように書かれています。

実のところ世の中の多くは、黙って読んでいるように見えても、頭の中では音声に変換して再生しているものです。したがってリズムの良さは読み味に大きな影響を与えます。読み味とは食べ物におけるのどごしに相当するものと考えてください。

また、今わたしは英語を勉強しているのですが、第二言語習得理論という分野の研究でも、このことは証明されています。

たとえば、COFFEEという文字を見た場合、この文字からダイレクトにあの黒い液体の映像を思い浮かべるのではなく、一度「コーヒー」という音に変換してから、知覚するそうです(これを音韻符号化と呼ぶらしい)。

これに近いことが、日本語の文章を読むときも、人間の脳内では起こっているのではないかと思います。だからこそ、UXライティングにおいても、リズム感が悪い文章は読みにくいと感じるわけです。

古来より言葉のリズムを大切にしてきた日本人

日本語という言語は、昔からリズムが非常に重要な役割を持ってきました。象徴的なのが七五調です。和歌、俳句、短歌、川柳は、五七五七七や五七五という、七音と五音の組み合わせでできています。

声に出して読みたい日本語の著者として知られる齋藤孝さんは「日本人は何を考えてきたのか」の中で「このように言葉の数を重視するという特性は、日本の詩の発達を考えるうえで非常に重要なことです」と書いています。

「声に出して読みたい日本語」という本がベストセラーになることからもわかりますが、日本人は言葉のリズム感にとてもセンシティブな民族なのです。

文言を考えたらまず音読する

では、実際にUXライティングに取り組むうえで、文言のリズム感を良くするにはどうすればいいか。

それはとてもかんたんで、とにかく音読すればいいのです。

前述の「新しい文章力の教科書」にもこう書かれています。

書き手であるわれわれも、黙読したあと、今度は音読して語呂を確かめていく必要があります。環境的に音読が許されない場合は、読者と同じく脳内音読をすることになりますが、いずれにせよサウンドをかみしめるプロセスが重要です。

わたしも仕事中、MTGでも自分の席でも、ひとりでぶつぶつ言っていることが多いです。実際に声に出して読んでみると、ここはなんか発音しずらいなとか、息継ぎが少なくて読みにくいなとか、やわらかすぎるとか固すぎるとか、細かいニュアンスの解像度が上がるようになります。その後文言を削ったり足したり句読点を入れたりとったり改行したりして、リズム感を整えていくわけです。

特にUXライティングにおいてリズム感に大きな影響があるのが改行です。

たとえば、「キャッシュレス決済なら現金を使わずに支払いができます」という見出しがあったとします。長い文言なのでスマホのUIに入れる場合、改行が必要です。例えばこんな感じで。

キャッシュレス決済なら現金を
使わずに支払いができます。

デザインのバランス的には問題なさそうです。しかし、文言の意味を考えると

キャッシュレス決済なら
現金を使わずに支払いができます。

としたほうが、息継ぎのタイミング、つまりリズムと意味の切れ目が一致しているので、読みやすくなります。

このような違いは、文字を目で追っているだけでは、なかなか認識できないものです。しかし、音読してみることで、その違和感に気付くことができるようになるのです。

UXライティングは言葉の演奏会

前述の通りわたしは最近英語を勉強しているのですが、たまたま見た動画で、茂木健一郎さんがこんなことを言っていました。

英語は音楽なんですよ。英語が喋れるっていうことは、結局英語の演奏会になるっていうことですから。

この言葉を聞いて、UXライティングもまさに言葉の演奏会だと思いました。

リズムの良い言葉たちがひとつになって、サービス全体として素晴らしいハーモニーを奏でる。

そんなUXライティングができるように、わたしも言葉のリズム感をより研ぎ澄ましていきたいと思います。

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