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大友克洋 (童夢)

いやもう、素晴らしい!…と言うしかない作品。

この作品が発表された当時、
画力の無い漫画家は、ただただ、脱帽するしかなかっただろうし、
(自分で)画力がある(と思っていた)漫画家は、悔しくて悔しくてたまらなかっただろうと、
私は(勝手に)思っている。

まず、タイトルページ。
子供が6人描かれている。
斜め上から見た構図。しゃがみこんで何かをしている4人。
右下には上半身しか描かれていないが、どこかへ歩いて行こうとしている少年。
タイトル文字「童夢」の下に帽子を被って、ランドセルを背負った少年が歩いている姿。
背景はない。少年たちの表情もわからない。

読者はある種の不安感と共に今から始まるであろう物語の世界に期待を感じつつ次のページに進むのだ。
「背景が白っぽい」という人がいるかもしれない。しかし、これは決して手抜きではない。計算された空白なのだ。子供たちにはそれぞれちゃんと「影」が、ついている。一見手抜きにも見えつつ、妙に「存在感」があるのは、この「影」が効果的に描かれているからに違いない。

2ページ。
1コマ目。雑然とガラクタのような物がある部屋を中から窓に向かって描いている。部屋の中は真っ黒。窓から入ってくる光と窓の外は、白。
2コマ目。男の足の先のみ。
3コマ目。雑然と置かれたガラクタの山。

3ページ。
1コマ目。前ページの男の方から上。斜め上からの構図だから、顔は見えない。
2コマ目。扉の前に立つ男の全身の後姿。張り紙から、この扉は屋上に出る扉だとわかる。
(2・3ページのふきだしのセリフは、読者には、まだそれがなにを意味するのか、わからない。…が、何か、この作品の世界にぐいぐい引き込んでいくのに非常に効果的に使われている。)

4・5ページ。
見開きいっぱいに巨大な高層団地群らしき建物を上から見下ろした構図。
屋上に出る扉が開いている。一つだけあるふきだしは「どさッ」。(重量感のあるものが落ちたと推測出来る。何だか本当に耳に聞こえるような錯覚さえ感じる、ふきだしだ。)

以上がこの作品の導入部分。
たった5枚の原稿だが、ここまで計算され尽くされた事に感嘆するしかない。

詳しく見ていったら、素晴らしい所はいっぱいありすぎて、書ききれないので、主要部分のみにするが、とにかく、最高の「画力」があって、はじめてこの素晴らしい作品が出来上がったということは間違いないだろう。


高層団地群の素晴らしさ!どの角度からも描けるというのが「感動」さえ覚えてしまう!
30ページの建物など、よく見ると、真っ直ぐじゃなくて、斜めに立ってる。普通の凡人が考えると垂直に描いてしまうだろうに敢えてそうしないのは、その方が巨大な物を下から見上げたとき人間がそう感じるからだろうか?

38・39ページ。チョウさんが浮かんでいる。この描写。本当にふわっと浮かんでいる。ピストルを紐で縛って下に垂らしているのが、非常に効果的で、浮かんでいる、というのをより際立たせるものになっている。

70・71ページ。男のアップで異様さを表現し、靴を履いていない足。カッターナイフの音。(チキチキチキ)二人を下から見上げた構図。普通の凡人には、なかなか描けない構図だ。

チョウさんと、女の子(悦子)の超能力戦の画面は、もうその素晴らしさを敢えて説明する必要はないだろう。
この作品が発表されて、何十年も経ってしまったがいまだにその凄さは全く色褪せてないと思う。

ストーリー面でも、非常によく纏まっていると思う。
団地で何人もの変死者が出る謎。それをつきとめようとする刑事たち。団地の住人たち。
物語の三分の一を占める超能力戦の凄さもさることながら、そこへ行くまでの盛り上がり方、戦い終了後のまとめ方、どれをとっても文句のつけようが無い。

キャラも、それぞれ個性的で、とくに岡村部長などは、名俳優が演技しているかのような重厚感だ。

たったひとつ、ケチを付けるとしたら、悦子ちゃん、もうちょっと可愛く描けないものかと・・・。
いや、あれが好きという人もいらっしゃるのでしょうが・・・。
でもまあ、この作品だと、ああいう顔が一番似合っているのかもしれないですね。


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