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望月峯太郎 (ドラゴンヘッド)

これはいい。とってもいい。
読後感がいい。心地好い読後感に暫し身を浸す快感。

まず、本の装丁がいい。表紙のデザイン、内表紙のデザイン、目次のデザイン、どれも素敵だ。

絵は、ちょっと好き嫌いが分かれるかもしれないが、妙に「力」とか「重量感」「存在感」のある、いい絵だと思う。

1巻の冒頭部分。
黒ベタのみが1・2ページ。3ページ目に黒ベタに左側、白い文字…パラッ パラ パラ 。ページをめくると一面、顔(目と鼻)のアップ。
いい作品は冒頭部分がいい。この作品もとってもいい。
今から始まる作品への導入がいい。これで、読者は完璧に作品世界にどっぷり浸かることが出来る。

ストーリに関して、最初はよくある「サバイバルもの」というか、「パニックもの」というか、ま、そういう類だな。と思っていた。
…が、読んでいくうちに、これはちょっと違うぞ!という感じがしてきた。
サバイバルものでは「漂流教室」(楳図かずお)、「サバイバル」(さいとうたかを)等、名作があるのだが、ある意味では、それらを超えたものがあるように感じた。
何がそれらを超えているのか?

「心の暗闇」部分の追求。

勿論、他の作品にそういったものがないとは言わない。…が、この作品はテーマそのものが「心」だという事だ。「困難な現状からの脱出」よりも、そちらの方に重みを置いているように思える。

出てくるキャラが、どれもいい。
(高橋ノブオ)
いじめられっこだったという設定。「闇」を異常なまでに畏れる。どんどん、精神が壊れていって、異様な化粧を自らの体中に施す。…この表現が凄い。どこから見ても精神に異常を来たしているという事がわかる。
(岩田)
いい人だったんだけどなー。死んじゃったのは哀しい。
(仁村)
あまり、いい人じゃないけど、根っからの悪人でもない。いやなヤツだけど、案外こういうヤツっているかもね。という気になってくる。
(おばさん)
最初、登場した時の印象は、もしかして悪い人?と思ったがとーってもいい人だった。少しつりあがった目。にこりともしない顔。どうしてなんだろうなー。と思いつつ読んだが、2度目、読み直していて、フト、気が付いた。あぁ、この「おばさん」は「菩薩」なんだ。…って。
あの表情は「慈悲の心」を持った「菩薩」の表情なんだ。と感じた。
テルの身体の傷を治し、アコの心の傷を癒す。自分で率先して行動はしないが、回りの人間に深い安らぎを与える。
「おばさん」は名前を名乗っていない。あくまでも「おばさん」…つまり単なる「成人女性」なのである。「個人」としてではなく、人々に安らぎを与える「存在」として、描かれているのだ。
(傷頭)
要するにロボトミー手術を受けて、「恐怖」を感じなくなった者たち。
彼らは幸福なのか??いや、辛くても「恐怖」を感じなくなるのは幸福ではない。と思う。
(都心の地下にいた坊主頭でメガネをかけた太った男)
彼は何者か?
「おまえたちが我々をテロリストと思う限り…我々はテロリストなんだよ…」
うーーん。何者だろう?
それより、彼は例の食べ物を食べていたのか?それにしては、他の者たちとは違うし…何を食べていたのか??

ラスト。
新しく出来た山の姿から、どんどん視点が上空に移り、光の筋が見えてくる。
この光は何か?荒廃した日本が新たに立ち直ったことを示すのか?

「おわり」と書かれた1ページ、黒ベタ。
その後、5ページに渡って黒ベタが続き、
「ドラゴンヘッド 完」の文字。
この黒ベタは、読者が「新世界」を想像するためのページなのだろうか??

ラスト、テルの想い。
「人間は頭の中に恐ろしい力を持っている
闇の中に悪魔の顔を見れば世の中はそういう世界に変貌する
ノブオやカッターで自分の腹を切った奴らや
そして僕も・・・・
おばさんが言ってた・・・・
敵は他人や世の中とは限らないんだ
人間の心の闇に潜む怪物・・・・
それを克服しなければ
人間はいくら長く生きれたって悲劇だ
でもその一方で人間の想像力は世界を発展させて来たものでもあるんだ
そうだ世の中はどのようにでも存在することができる
そうだ僕ら・・・・想像できるはずだ
未来を・・・・
それがどういうものかはわからないけど
新世界を・・・・・・」

この言葉にこの作品の全てが詰まっている。
いい言葉だ。


最後、ちょっと思ったのだが、主人公たちの名前。
普段はテル君、瀬戸さん、と呼んでいて気付き難いが「青木照」と「瀬戸憧子」
「憧れを照らす」・・・・希望に満ちた名前だ。
「青木」=山 「瀬戸」=海 自然あふれたイメージか?

アコは「テル君」と名前を呼んでるのに、テルは最後まで「瀬戸さん」と姓で呼んでいる。
これは何を示すのか??
それは読者が勝手に「想像」すればいいのかな?

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