『小売りの未来』前編
こんにちは。STANDの宮原です。
今回は、コロナ下を経ての小売業のあり方について語られている『小売りの未来 新しい時代を 生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』という本を読んでのまとめと個人の感想を 述べていきます。
この本では、前半にコロナが小売りに限らず世の中にもたらした影響や、そこから見えてきた未 来について主に語られています。そして第5章に、タイトルにもある、新しい時代を生き残るリテー ルタイプ、つまり今後小売で戦っていくための10種類の型が登場するのです。そのそれぞれの型 でヒットを生み出した企業を挙げ、詳しく掘り下げられます。
この章を読むだけで、これから小売 業に参入しようとする企業にとっては、どの型で進めていくかを決定する指標となるでしょう。ま た、私たちが普段する買い物の中で何気なく選んでいるモノ、足を運んでいる店を見つめなおす きっかけにもなると思います。
筆者はパンデミック後も消費者が抱いている10の問いかけは変わらない、そしてその問いかけ に明確に答えを出せることこそが、他社との差別化につながり、収益力も発揮させると言います。 その問いかけと、答えとなる型を以下でまとめました。
1.「自分を奮い立たせてくれるブランドはどれ?」→「ストーリーテラー」型 2.「自分の価値観と一致するブランドは?」→「活動家」型
3.「新しくてクールなものは、どこにいけば手に入る?」→「流行仕掛人」型 4.「一番充実した体験が味わえるのはどこ?」→「アーティスト」型
5.「自分のことを一番理解してくれるのは誰?」→「透視能力者」型
6.「最高水準のサービスはどこで受けられるの?」「コンシェルジュ」型
7.「一番いい助言がもらえるのはどこ?」→「賢者」型
8.「最高に作り込まれた商品はどこで手に入るの?」→「エンジニア」型
9.「必要な商品はどこで手に入るの?」→「門番」型
10.「この商品がほしいけれど、もっと買いやすくしてくれるのは誰?」→「背教者」型
今回はまず前半の5つについて言及していきます。
1.「自分を奮い立たせてくれるブランドはどれ?」→「ストーリーテラー」型
ここで例に挙げあれるのが、ナイキです。
ナイキといえば、いつも胸が熱くなるようなストーリーと、力強いメッセージ性のある言葉を巧みに 使ったCMを打ち出します。また、広告に起用する人にストーリーを託すこともあります。アメリカン フットボールのスターであったコリンキャパニック選手は、2016年に黒人に対する警察の暴力に 抗議し、国歌斉唱中に膝をつき起立拒否をしたことで物議をかました。その後、ナイキは彼を広 告に起用したのです。このことで、人々はさらに批判をし論争や討論を繰り広げることとなりま す。しかし、最終的にはナイキというブランドに対するファンの忠誠が一層高まるきっかけになり ました。
ナイキは商品を動かすために小手先のマーケティング活動に精を出すのではなく、私たちの心を 動かすストーリーを紡ぎだすのです。つまりストーリーテラー型のブランドにとって、商品は要素 の一つに過ぎません。顧客に買ってもらうのはストーリーなのです。それゆえ、実店舗も同様に、 ストーリーを語るための舞台やスタジオに変容するといえます。
2.「自分の価値観と一致するブランドは?」→「活動家」型
コロナを経て主流になってきた、SDGsやサステナブルという考え方ですが、こうした取り組みを いち早く活動家として始めたのが、アパレルブランドのパタゴニアです。
1985年以来、同社は儲けにかかわらず年間売上高の1%を環境団体に直接寄付する取り組み、 従業員にも自然愛や平和的な抗議を広める活動家を積極的に採用、さらには2025年までに衣 料品製造にサステナブル原料かリサイクル原料だけを使う宣言もするという、一貫して活動家と しての信念を貫いています。表面上だけのCSRを打ち出す企業とはまるで違うことが分かりま す。
こういったブランドの価値観に共感してモノを選びたい層は確実に存在していますし、何ならコロ ナが価値観の一致でモノを選ぶ人をより一層増加させたのではないかと思います。
3.「新しくてクールなものは、どこにいけば手に入る?」→「流行仕掛人」型
アマゾンやアリババでどんなものでも手に入るようになった時代に、実店舗の価値を「質の高い 新しい出会い」に振り切ったのがこのタイプです。ネイバーフッドグッズのマッド・アレキサンダー が、実店舗をD2C系のブランドの効果的なマーケティングスペースとして活用した例が挙げられ ます。
(イメージがつきにくかったので別のリンクを貼っておきます。 )
私がこの光景を見たとき、思い浮かんだのが新宿伊勢丹本館の地下にある、ビューティーアポセ カリーです。「インターネットではいくらでも買い物はできる」「オンラインの方が便利」そんなことは 分かり切っているけど、「それでもあそこに化粧品を買いに行きたくなる」という感覚がビュー ティーアポセカリーにはあります。足を運んだら、「わくわくやどきどきが絶対にある」「探していた カテゴリーでも別のブランドや商品と出会える場所」というイメージがきっとネイバーフッドグッズに も共通してあるのでしょう。
流行仕掛人型の仕事は、膨大な選択肢を徹底的に厳選し、顧客が信頼を寄せる視点を提示す ることにあると言います。
4.「一番充実した体験が味わえるのはどこ?」→「アーティスト」型
ここでは玩具店のキャンプの例が出されています。
玩具を売っている企業といえばトイザラスですが、トイザラスが「どこに行けば玩具が買える の?」という問いに答えるのに対して、当社は「今日は何をしようかな?」という問いかけにこたえ ることで差別化を測りました。子連れのファミリーが家族単位で定期的に通いたくなるようなお店 にするため、物販に割く面積を2割程度に抑え、残る8割を子どもと家族が体験できるブラックボッ クス的なシアターにしたのです。
そのため収益化の仕方も特殊です。3か月ごとにテーマが変わる体験空間では特定のブランドが スポンサーとして入ります。また店内で開催するイベントのチケットによっても収入を得るという、 物販収入をあてにしない店舗の作り方です。物販ではなく、まずはストーリー性のある体験づくり に注力しています。
商品を入手することが最大の課題ではなくなった今、消費者は印象的な体験を用意してくれる独 創性やスキルのある企業に喜んで対価を払うということを体現します。
5.「自分のことを一番理解してくれるのは誰?」→「透視能力者」型
ここで述べられるのは、データの活用を徹底して行うことによって顧客の欲しいに確実に応えると
いうものです。
データサイエンスで独自のアルゴリズムを開発し、そのアルゴリズムに基づいて顧客の声をすく いあげ、顧客の嗜好を予測する膨大な知見を蓄積していきます。これを実践して300万人を超え る常連客を抱え、取り扱いブランドを700まで伸ばしたのが衣料品販売を手がけるスティッチ フィックスです。
透視能力型の小売業者は、テクノロジーや人間の直感を駆使して顧客のニーズや嗜好、欲求を 予測します。過去の購入履歴だけでなく、データの共有を前提に顧客と開かれた関係を築くか ら、顧客ニーズを正確に予知可能です。
この方法をとっているのは日本ではまさにファッション通販のZOZOTOWNでしょう。こういった企 業では、データが蓄積されればされるほど勝ちパターンが分かってきて、顧客に提供できる価値 が高まり、忠誠度が高まるという好循環を生みます。
以上、前半の5つを詳しくみていきました。ここまでだけでも、なるほどこんな風に分類できるのか と勉強になりました。次回の記事で6から10にふれていきます。
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