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「バトン」

心を込めて書き下ろした「バトン」。あらきが受け継いだバトンは無事に渡すことができたのか。秘めた想いを表現した作品です。長いですが最後まで読んでくれると嬉しいです。


走馬灯

ピッーーピッーーピッーーピッーピッピッピッ・・・・ジリジリリリリリ
 
 目覚まし時計であらきは飛び起きた。高校時代に母親が起こすときの金切り声みたいだ。思わず「分かってるよ」と思わず言いたくなる。あらきは、逆算が癖になっていて、毎朝ベッドの上で、「後30分寝られる・・後10分・・後5分・・」などと計算しながら起きるのが習慣になってしまい、

毎日ギリギリに家を出るはめになっていた。「そんなことしていると遅刻するよ。だから言ったじゃない。自分が悪いんでしょう。」と母親に言われているような気分で朝からテンションが下がる。

ボサボサの頭を直すためにシャワーを浴び、皴のあるシャツを気にすることなく家を出た。職場までは、黄色い線の入った車両で2駅。そこから歩いて20分。

改札を抜けるとロータリーに出るための階段が10段あり、いつもはを3歩で駆け上がる。いつものように、最上段に足をかけようとしたが、思ったよりも足が伸びなかった。

その瞬間、身体がふわっと宙に浮いた。一瞬で目の前が綺麗な景色に包まれた。大きな雲の隙間から、陽の光が差し込み、幻想的な美しい青空を描いている。「あっ授業の準備をしなきゃ」、「14時から来客だ。その後は補習が入ってる」、「授業で何を話そう。今日はみんな授業来てくれるかな?」

頭の中で走馬灯のように、考えが駆け巡った。・・・・
体感的は10分くらい。我に返ったあらきは立ち上がり、走り始めた。

途中、小柄で無精ひげを生やしたダンディな男性がタバコを吸いながら立っていた。目じりの笑い皴が印象的でこわもてな顔立ちの中にも優しさがある感じだ。見たことあるような、、、こっちを見ている気もしたが、視線を外し学校まで猛ダッシュ。1分もかからずに着いた。

不思議と息はまったく上がっていない。「あれっ」学校の職員室に入った時、妙な違和感を覚えたが、授業の準備を思い出し、没頭していたらいつの間にか、気にならなくなっていた。打ち合わせも終わり、授業の準備をしていたらいつの間にか、ウトウトしてしまった。


ーーー9年前の8月1日ーーー

ピッ・ピッ・ピッ・ピッ・ピッ・ピッ・ピッ

龍一:「よぉ!樋口元気か」
樋口:「あっ、おぅ!」
龍一:「お前、相変わらず無愛想だな。」
樋口:「うるせぇよ。何しに来たんだよ。」

龍一:「少しぐらいい話したっていじゃねぇか。たまには」
樋口:「、、、、、」
龍一:「そういえば、お前のがんが見つかってからもうすぐ2年か・・・・抗がん剤治療嫌がってるんだってな。ダメだぞ、お医者様の指示に従わないと。」

樋口:「うるせーなー早く帰れよ」

樋口は高校の教師であらきの高校時代、サッカー部顧問でもあった。進学先を勧めてくれたのも、大学卒業後に非常勤講師に誘ってくれたのも樋口だった。ちなみに、当時のサッカー部の部員からは、密かにひぐちゃんと呼ばれていた。

樋口は仕事の合間を見つけては用務員室(技能員室)を自分のアトリエのように使い、サッカー部で使う椅子や屋根付きのベンチ、さらには監督室まで自作していた。ちなににあらきは3年間ひぐちゃんと同じ学校で働いた。

龍一は樋口のよき理解者で同僚として多くの時間を過ごした。二人は、病室でどのくらい話したのだろうか。あっという間に時間は過ぎ、帰り際、樋口は惜しむかのように龍一の後ろ姿をじっと見つめながら、ベッドから見送った。


ーーー9年前の10月1日ーーー

 プルルルルルゥー、商業科準備室の外線電話が鳴った。

あらき:「はい、あらきです。」
山本:「おう、あらき久しぶり。お前の受験番号何番だ?」
あらき:「お久しぶりです。たしか993番ですけど・・・急になんでですか?」
山本:「うふふ。来年から忙しくなるな(笑)」

ぷぅーっ、ぷぅーっ、ぷぅーっ・・・・・
あらき:「あっ、切れた。忙しくなる? あっ えっ? 」

あらきが非常勤講師として初めて教壇に立った時、ひぐちゃん同様たくさんのアドバイスをしてもらったり、お昼を食べに色んな所に連れて行ってもらったのが山本である。あらきが新しい学校に異動しても時々心配して連絡をくれていたのである。

あらき:「自分で確認しようと思ってたのに(# ゚Д゚)・・・・まぁ忘れてたけども(/ω\)・・・・・・」
 
今日が教員採用試験最終選考の合格発表日だということを忘れていたあらきは、おもわず「あっ」という声が出た。準備室の先生方の視線が一斉に集まっているように感じて、なんだか急に恥ずかしくなり慌てて部屋から出ていった。 


ーーー9年前の11月1日ーーー

その日は、どしゃ降りの雨だった。
一人の女性の影に小さな女の子が隠れるように立っていた。その隣にはまだ幼さ残る長男の一郎が、一家の大黒柱のようなたたずまいで真っすぐ前を向いていた。あらきは、深々とお辞儀をし、前へと進んだ。そこには、笑い皴が素敵なひぐちゃんがいた。あらきはゆっくり話しかけた。

『先生。
 先生、俺、やっと受かりましたよ。あなたが「アルバイトをしに来い」と、誘ってくださらなかったら教師になってなかったんですよ。講師の面接が校長室だったから、めちゃくちゃびっくりしたの覚えています。

講師とはいえ、急にひぐちゃんみたいに、授業することになったんだよなぁ~。簿記の解き方を忘れていたから、毎日、遅くまで必死に勉強したのは良い思い出だったなぁ~。あの頃は、緊張で毎日、お腹が痛くなってた。

でも、楽しかったなぁ~、毎日どろだらけになるまで、生徒と一緒にサッカーしたり、ふざけている生徒の首根っこ捕まえて、あなたの真似して諭している風に叱ったっけな!?指導で悩んだときは、自分の高校時代を思い出して、ひぐちゃんの口癖や考え方を真似させてもらいました。

そういえば、「お前はサッカーをするならこの大学へ行け。」とアドバイスしてくれたんですよね。何一つ、一人じゃ何もできていなかったことに今更、気づきました。。でも、、

先生、、、、、、、、、、明日からは、ちゃんと一人で歩んでいきます。悩ましい生徒がいたら相談しに来ますね。お供え物もしますので、生徒を守ってくださいね。
高校時代、調子に乗っていた私をちゃんと叱ってくださったり、いつも私の道しるべになってくださり本当にありがとうございました。

樋口イズム〔シンプル is best〕大切にします。今度は、俺が、頑張るよ。ゆっくり休んで。せんせい、、、、せんせい、ありがとう。』


帰り際、あらきは龍一に呼び止められた。 

龍一:「久しぶりだな。お前、樋口とはいつが最後だ?」
あらき:「龍一さん、お久しぶりです。じつは、7月中旬頃だったと思います。ご自宅に近況報告もかねてご挨拶に行きました。病気の事は知っていましたが術後の状態は知らなかったです。

あらき:「でも『調子がいいんだ』とおっしゃってたので安心していました。その日も結局、すぐに『もう帰れ、こんな所にいないで帰って勉強でもしろ。もうすぐだろ』って追い返されちゃいました。」

あらき:「言いたいことも、聞きたいこともたくさんあったのに、、、、、、、もっと色んなこと話したかったです・・・・」



 
あらきは今にも崩壊しそうな感情を目頭で必死に堪えていた。
 
龍一:「じつはな、亡くなる少し前に、樋口の奥様から『もう長くないから話せるうちに会いに来てくれませんか』って電話があったんだよ。相当痛みがあったみたいだけど、そんな素振りみせずに昔みたいに色んな話しをしたよ。

帰り間際に、「こいつは俺が育てた中でも最高傑作だ。ってみんなに自慢してた、弟子のあいつ(あらき)には伝えたのか?』って聞いたら、

樋口のやつ、血相を変えて『死んでもいうんじゃねぇ。』って!
『今あいつは、教師になるために必死で勉強してるんだから、あいつのじゃまをするんじゃねぇ』だってよ・・・・自分が死にそうなのにな!」
 

いつも、ぶっきらぼうで、口が悪く、人を寄せ付けないひぐちゃんが、私なんかのために、そんなことを思ってくれていたなんて考えもしなかった。「お前、不器用だな」って言われてからずっと、≪生徒にどうすれば伝わるか。どんなことを伝えるべきか?≫を必死に考えて授業してきたのだ。

あらき「合格したらもう一度見てもらいたかったのに、、、、、
先生いなくなるの早いよ、、、、、、、、、、、、、、」
 
あらきはもう感情を止めることは不可能だった。あらがうことはせず涙とともに何事にもかえがたい感情が一気にあふれ出した。
月明りに照らされたホールに大きな大きな鳴き声が雨音を打ち消すかのように響き渡っていた。


補習

「せんせぇー、あらき先生?」
「あっごめん」
「先生大丈夫ぅ?」
「う、うん大丈夫、ごめんごめん。ちょっとぼーっとしてた。」
「先生、何か嫌なことがあったのぉ?」

「すまん、すまん。お腹がキューとなっている君を見てたらちょっと昔を思い出してね・・」
「なにそれぇー」
「ごめん、大丈夫だ。さぁ補習を再開しよう。」

「赤点なくしてくれるかぁ、それか面白いこと話してくれたら許すぅ」
「おい、おい、代わりに宿題たくさん出します。」
「えーー最悪ぅ。あと少しで卒業なのに」
 
ガラガラガラーーー

突然、見回りの先生が教室に入ってきた!

「どなたか先生の補習で残ってますか?」
「違うよぉ。一人で課題やってたぁ」
「今、誰かと話してませんでしたか?」
「えへへ(笑)」
「今日はもう遅いですから、そろそろ帰りましょう」

「今いいところぉだったのにぃー、あらき先生の課題やってたぁ」
「そういうことだったんですね、、、、でももう時間なので帰りますよ」
「はぁーーい。先生さようなら、
「さようなら。気を付けて帰ってくださいね」

「あらき先生もまたね」
そう、小さな声でつぶやき彼女は学校を後にした。

野良猫の道案内

ーーーーーーーーー3か月後ーーーーーーーーーーーーー
 駐車場から桜並木がずっと続く一本道。進んでいくと、途中だだっ広い空間が現れる。そこには、たくさんの墓石が縦横、同じようにたくさん並んでいて、必ず迷う。

目印は、石でできたサッカーボールだ。いつもは野良猫が道案内をしてくれる。今日も猫はあらきを案内し始め、一つの墓石の前に停まると丸くなって日向ぼっこをしはじめた。

あらきは、墓石の前に立つと、一礼し、いつものようにお花とお線香を立てた。すると目の前に、笑い皴の似合うダンディな男性が現れた。あらきは一瞬ビックリしたが、にやりと笑い、話し始めた。
 
あらき:「先生こんにちは。御無沙汰しています。お元気でしたか?
  :「ああ。お前、なぜこんなところにわざわざ来たんだよ」
あらき:「先生にご挨拶に来たんですよ。まぁかたいことはいいじゃないですか!!あれから10年が過ぎたんですね。今日は教え子の大学の入学式なんですよ」
 
  :「なんか感慨深いだろ。あれだけ心配してた子どもたちが立派に卒業し、もう新たな門出を迎えていると思うと。」
あらき:「ですね。あっという間でした。まぁ結局、私が出来たことは何もなかったですけどね。」

  :「あいかわらず、お前は本当に不器用だったな・・まぁ、お前らしいけど。ちったぁ成長したじゃねぇか。」
あらき「先生こそ相変わらず、口が悪いですね。最後くらいは、素直に褒めてくださいよ。」

  :「お前、まだ心配してんのか?」
あらき:「いえ・・・・・・」
  :「もう心配すんな。あの子は、少しずつだけど強くなってるよ。お前と一緒で不器用で、諦めが悪いけど、人一倍努力して、たくさん涙を流してんだから」

 あらき:「ですね。私も大丈夫な気がします。先生ありがとうございます。これからは、あの子たちを一緒に見守ってくださいね」
  :「いやだよ。それより、お歳暮で送ってきた館山にある越紋商店の伊勢海老、もう一回、送れよ。」

あらき:「えーまたですか。いいですけど、今時期じゃないから、ないかも知れませんよ。なかったら、アジの開きで我慢してください。」
  :「だめだ。なきゃ、お前が釣ってこい」
あらき:「嫌ですよ。まだ寒いですし・・・・」
 
会話をし始めてから、どのくらいたったのだろうか、二人の会話はいつまでも続いた。だだっ広い大きな大きな霊苑を、真っ赤に染まった夕日が一匹と2つの墓石の影を綺麗に映し出していた。

おしまいに


編集後記

授業についていけず、授業のたびに凹んでいた生徒を励まそうとして書き始めたなんちゃって小説、卒業するころにはとても元気になっていたので結局、その生徒にこの「バトン」は渡しませんでした。でもどこかできっと「笑顔で自分らしい人生を歩んでくれている」と思います。そしていつか次の子ども達へのバトンとなるのを楽しみにしています

私は第二の人生をここ鳥取県の大山からスタートさせました。不安な時、辛い時、これまでの事を思い出し、みんな何をしているんだろうって考えることで気持ちを切り替えることが多いかもしれません。

そして、鳥取県にある大山(だいせん)に来てから3週間があっという間に過ぎ、この短い期間で古民家再生、シェアハウス、旅行コーディネーター、イベント企画、クラウドファンディングサポート、有機野菜農園、芝農家、梨農家、おにぎり屋、米麹屋、食品会社、教育関連企業、絵画、写真、イラスト、ライター、ウェブデザイン、地域おこし協力隊サポート、ジビエ、投資家、ミニ四駆の動画、スポーツ振興(モルック・ビーチスポーツ)、手紙で繋がる旅、など本当に多くの仕事や取組みを見ることができました。

そこでの感じたことは、また別のノートで書きたいと思います。
まだまだ自分がやりたいこと、自分らしいものには出会ってはいませんが、なぜかとても前向きです。

「人生には色んな生き方があり、仕事は求人票だけがすべてではないんだ」と、人は心の持ち方と環境を変えれば、何にでも挑戦でき、人生が変わることを身を持って体験し、そして次世代の子ども達に伝えることが私の次の夢になりました。自分の生き方に疑問を持ち、行動しようとしている人、すでに行動している人達と情報共有しながら勇気をもいらい、また、勇気をおすそ分けしながら、自分にできることは何でも挑戦していきたいと思います。

「小さいことから初めてみる」を大切に焦らず大山ライフも満喫したいと思います。
小説も読んでくださりありがとうございました。交流してくださる方大募集してます。

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