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月はそれでも出ている

「月はそれでも出ている」は1999年制作の闘病映画です。主人公が気がつくとベッドに縛り付けられ周囲がカーテンで隔離されている謎の部屋でした。部屋には窓が一カ所だけあり縛り付けられた姿勢から窓の外に月が見えることだけが風景の変化を示すものでした。暗い室内は24時間照明が付いていてひっきりなしにサイレンが鳴り救急無線が垂れ流しになり患者が運び込まれてきました。実はそこは地域の医療センターの集中治療室だったのです。以後、意識を取り戻した彼が集中治療室から一般病棟へ移るまでの1ヶ月の話を個室とベッドを準備して再現しているビデオ映画です。病室にはスマホも無ければテレビもありません。新聞も雑誌もありません。頸椎を手術した主人公は、何も無い状態でベッドに固定され朝起きて夜消灯まで天井を見て一日を過ごすことになります。2週間後に親族が来て3歳の娘に会って涙する主人公。身体の清浄も下の世話も完全に看護師任せで漏らした後も定時まで看護師は来てくれません。そのあたりも音声では完全に再現しています。映像ではフレーム外処理ですが。一番辛い描写は次々と運び込まれる急患です。交通事故で死にかけて友人や親族が手術室前に集まり死んで出てくる患者に遺族が喰ってかかる描写が何度もされます。いきなりヘリコプターの音がしたと思ったらドクターヘリで運ばれて来た急患だったり。相変わらずのベッド暮らしの4週目にやっと車椅子での深夜の廊下散歩が許されたときには大泣きする主人公。4週目の最後の日に精神科医二名に別々に診察を受けたうえでついに主人公は一般病棟へ移ることになり、車椅子に移った後、画面からフェードアウトして直後に集中治療室の自動ドアの開閉音がしてこの映画は終わります。これは監督の実体験だそうです。知的欲求を満たすものが皆無の状態で唯一の慰めはベッドに固定されていても見ることのできる月だけだったと。それが満ちていき欠けていき新月になったときにやっと病室を出ることが出来たと語る監督のインタビューがやはりちょっと狂気入ってて怖いです。


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