三浦くもり

制服を着ていた頃、ずっと窓の外を見ていた。教科書は無くなるし、プリントは回ってこないし、授業は理解できなかった。退屈だった。

この世界のどこかにいる、まだ出会っていない人のことを思っていた。いまどこにいるのだろう。どんな音楽を聴くのだろう。何に苦しんでいるのだろう。

寝る前には、ベランダから街を眺めた。星空のない街に生まれて十数年。夜景に美しさよりも暖かさを感じる程度には東京を愛していた。それと同時に、雪の降る街や山の見える街に憧れを抱いていた。これから出会う人の故郷を想像すれば、夜の寂しさは曖昧にできた。

制服を着ていた頃、あなたと出会う日のことを考えていた。雲に隠れている虹の話を、きっとあなたは目を見て聞いてくれる。だからそれまでは一人で抱えて歩くことに決めた。誰にも傷付けられないように。失われないように。忘れてしまわないように。

私の名前は三浦くもり。あなたと虹を見るための、前段階。