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2013年4月21日

日本の山ガール恐るべし

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朝起きると、昨日から降り続けていた雪は積もっていたが、無風快晴だった。天気が回復したため、今朝はシェルパに起こされるよりも早く、ヘリコプターが ベースキャンプの上空を飛び交っている音で目が覚めた。最初は天気が回復したため、レスキューのためヘリコプターが飛んでいるのかと思った。しかし、ヘリはC2方面に行ったと思ったら今度はエベレスト西陵の肩の上を飛ぶ。そうかと思ったらヌプツェの頂上近くを飛んで、しまいにはアクロバット飛行のように、急旋回してベースキャンプに着陸した。最新ヘリコプターの性能を見せつけるような飛行に、これは何かの撮影か遊覧飛行だと自分なりに結論づけた。

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ウェザーニュースから、今降り続けている雪は今日をピークに明日から回復傾向になるだろうという事だった。だとしたら今朝の晴れ間は束の間の晴れ間だろう。案の定、昼頃になるとまた雪が降ってきた。とりあえず、プモリに行くのは雪が解けてからと考えているので、今日明日はきっとまだベースキャンプだろう。

今のうちに上部キャンプに荷揚げするものを整理しようと考えている矢先に、貫田さんが日本人女性と話している。聞くと彼女はセブンサミッツというエベレスト公募隊に単身応募してきたという。せっかくだから話を聞いてみようとダイニングに案内した。すると、倉岡さんと早坂さんも一緒になり、最近の公募隊事情について教えてもらった。セブンサミッツはネパール発の公募隊で、なんと75人の登山者がいるという。ほとんどが中国人で日本人は彼女ともう1人だけだそうだ。

酸素の数は自分で決め、要望する数をリクエストできる。シェルパは1人から2人。C2までのテントはセブンサミッツが建てたテントを共有する。その上は専属のシェルパが受け持つ。登山計画等は自分で決めるため、高度順化や酸素の使い方、実際の状況等、倉岡さんが丁寧にレクチャーしていた。年齢は30歳前半、一見無謀とも思える若い女性のエベレストチャレンジだと思ったが、意外としっかりと計画が練られており、質問も的を得ていた。日本の山ガール恐るべし!しかし、酸素の使い方などは普通の登山では行われない。ちょうど、今日、最新式の酸素の使用方法について午後に倉岡さんからみんなレクチャーを受けることになっていたので、少しでも足しになればと思って招待した。

午後は本来、高所用の食糧計画を立てようと思ったが、SPCCのミーティングが2時からあるというので、食糧計画の方は五十嵐さんとミトロ君にお願いした。SPCCがミーティングを行うのは珍しい。前回のルート工作ミーティング以後、このエベレストコミュニティーともいえる、エベレストベースキャンプ村のイベントにはなるべく参加しようと思い、大城先生、平出君、貫田さん、お兄ちゃん、早坂さんを誘って参加した。場所はHRA(ヒマラヤン・レスキュー・アソシエーション)前のSPCCテントにて行われた。人はぞろぞろと集まってくるがなかなか始まらない。

午後2時15分頃になるとシェルパの女性が、今日集まった趣旨について説明が始まった。それは、2週間前にアイスフォールで亡くなったアイスフォールドクター、ミンマシェルパと16年間、アイスフォールドクターを務め、昨年12月に自宅で亡くなったアン・ニマシェルパに対しての追悼と残された遺族のための基金集めであった。ヒマラヤンエキスペリエンスのラッセル・ブライスをはじめIMGのグレッグ、エシアントレッキングのダワ・スティーブン、パダゴニアブラザーズのダミアンなど錚々たるメンバーが追悼の意を示した。

アイスフォールドクターは現在のエベレストには欠かせない役割を担う。彼らは登山シーズンのはじめ、エベレスト登山で最も危険地帯と呼ばれるアイスフォールのルート工作を行い、その後もシーズンが終わるまで、早朝2時半からルートのメンテナンスを行っている。まさにエベレスト登山の縁の下の力持ちだ。彼らの仕事はエベレストの中で最もリスペクトされているが、その分危険も多いのだ。基金に関して、僕たちの隊としても協力しようと考え、SPCCを後にした。

ベースキャンプに戻ると、父と一緒に恒例の散歩をしようと思い誘ったが、どうやら下痢と胸焼けがするという。下痢はヒマラヤトレッキングで誰もが通る道だ。僕も僕以外のメンバーも全員かかっている。なぜかしら父はこれまで一度も下痢になっていなかったので不思議に思っていたところだ。これで全員もれなく(漏れていた?)下痢にかかったことになる。

今日は散歩はやめにして、倉岡さんの酸素講習会を受けることにした。酸素講習会といっても、これまで何度も酸素の扱いは行っているため、特に目新しい注意点はないが、高所では、集中力を失い、当たり前のことができなくなる。何度も反復することが大事である。さらに、今回は新しいレギュレーターとマスクが導入された。基本的な使い方は同じであるが、新しいイギリスのサミット製マスクはこれまでのものよりもコンパクトで視界をあまり妨げない、またフィット感もあり、前のタイプと比べると息漏れによるゴーグルの曇りも低減されるようだ。レギュレーターは目盛りが見やすくなり、開閉にミスが少なくなるようになっている。またこれまでレギュレーターの最大開閉値は毎分4リッターだったが、新タイプは毎分6リッターまで吸引できる。これにより、父が高所で厳しいクライミングが必要な時に大きな力となる。今回は特に、高度順化よりも、体力温存を優先しているため、こうした進歩は心強い。

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ベースキャンプの1日は意外に忙しいものなのだ。


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