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内部通報UPDATE Vol.9:改正公益通報者保護法を踏まえて②-改正法施行から1年経過した今、やるべきことは何か?-

1. はじめに

2022年6月1日に改正公益通報者保護法(以下「改正法」といいます。)が施行されてから1年が経過しました。

昨年、改正法の施行日を見据えて、各社で内部通報制度の構築・見直しや、内部通報規程の作成・改定を行ったことは記憶に新しいと思います。

なお、改正法、「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(令和3年8月20日内閣府告示第118号、以下「指針」といいます。)、および消費者庁の「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説」(以下「指針の解説」といいます。)については、下記の記事にまとめておりますので、ご参照ください。

また、主に外国企業の日本子会社のご担当者の方々等を想定して、英語版の解説記事も公表しておりますので、ご活用ください。

【参考リンク】
内部通報制度の『整備』・『運用』のポイント 改正公益通報者保護法対応」(Business Lawyers、2022年6月1日)

[Alert] The Amended Whistleblower Protection Act comes into effect on June 1, 2022(三浦法律事務所)

今回は、改正法や指針の定める内部公益通報対応体制を構築すべく、必要な仕組みづくりを行った企業を念頭に置いて、改正法施行から1年が経過した今、企業においてやらなければならない事項をまとめていきます(改正法未対応の企業は、内部公益通報対応体制の整備のところから始める必要があります。)。

2. 役職員への教育・周知は十分にできているか?

第1に、役職員らへの教育・周知が十分にできているかの確認が必要です。

労働者等及び役員並びに退職者に対し、公益通報者保護法及び内部公益通報体制について、教育・周知を行う必要があります(指針第4.3(1)イ第1文)。

そして、指針の解説18-19頁では、「公益通報受付窓口及び受付の方法を明確に定め、それらを労働者等及び役員に対し、十分かつ継続的に教育・周知することが必要である」、「教育・周知に当たっては、単に規程の内容を労働者等及び役員に形式的に知らせるだけではなく、組織の長が主体的かつ継続的に制度の利用を呼び掛ける等の手段を通じて、公益通報の意義や組織にとっての内部公益通報の重要性等を労働者等及び役員に十分に認識させることが求められる」との説明がなされています。

例えば、過去に1回従業員向けの研修を行っていたとしても、新入社員や中途入社の役職員等当該研修を受けていない役職員に対する教育が十分とは言えません。改正法施行後1年というこのタイミングで、教育・周知が十分であるかをチェックすることには大きな意味があると考えます。

具体的には、新人研修や中途採用社員の入社手続に内部通報制度の研修を組み込んだり、研修内容を動画などのオンラインコンテンツとして保存し、必要に応じて視聴できるようにしたりするなど、教育・周知の抜け漏れが生じないよう工夫することが考えられます。

3. 従事者への教育・研修は十分にできているか?

第2に、従事者への教育・研修が十分にできているかのチェックも必要です。

従事者に対しては、公益通報者を特定させる事項の取扱いについて、特に十分に教育を行う必要があります(指針第4.3(1)イ第2文)。

そして、指針の解説19-20頁では、「定期的な実施や実施状況の管理を行う等して、通常の労働者等及び役員と比較して、特に実効的に行うことが求められる。法第12条の守秘義務の内容のほか、例えば、通報の受付、調査、是正に必要な措置等の各局面における実践的なスキルについても教育すること等が考えられる」との説明がなされています。

例えば、人事異動等により従事者が変更となり、新たに従事者経験のない従業員が従事者として指定された場合には、新任の従事者に対し、指針および指針の解説が求めているような十分な教育・研修を行う必要性が高いと言えます。

具体的には、常時の従事者以外のスポットで指定される従事者にも教育が必要であることから、新たに従事者として指定される役職員向けの教育・研修コンテンツ(動画など)をまとめておき、指定時に視聴を義務付けるようにするなどの工夫が考えられます。

4. 内部通報対応体制の定期的な評価・点検

第3に、内部通報対応体制の定期的な評価・点検を実施し、必要に応じて改善を行うことが必要です(指針第4.3(3)ロ)。

定期的な評価・点検の方法として、指針の解説22頁では、以下のものが例示列挙されています。

・ 労働者等及び役員に対する内部公益通報対応体制の周知度等についてのアンケート調査(匿名アンケートも考えられる。)
・ 担当の従事者間における公益通報対応業務の改善点についての意見交換
・ 内部監査及び中立・公正な外部の専門家等による公益通報対応業務の改善点等(整備・運用の状況・実績、周知・研修の効果、労働者等及び役員の制度への信頼度、本指針に準拠していない事項がある場合にはその理由、今後の課題等)の確認

「定期的な評価・点検」を具体的にどの程度の頻度で行うべきかは、指針や指針の解説には明記されていませんが、例えば1年に1度、体制の問題点がないかをチェックすることが考えられます。

5. 内部公益通報受付窓口に寄せられた内部公益通報に関する運用実績の開示

第4に、内部公益通報受付窓口に寄せられた内部公益通報に関する運用実績の概要を、適正な業務の遂行及び利害関係人の秘密、信用、名誉、プライバシーなどの保護に支障がない範囲において労働者等及び役員に開示する必要があります(指針第4.3(3)ハ)。

指針の解説22頁では、開示すべき運用実績について、以下のものが例示列挙されています。

・ 過去一定期間における通報件数
・ 是正の有無
・ 対応の概要
・ 内部公益通報を行いやすくするための活動状況

「過去一定期間における通報件数」が具体的にどの程度の期間なのかは、指針や指針の解説には明記されていませんが、例えば、1年ごとに集計した上で、運用実績として開示していくことが考えられます。

6. おわりに

内部通報制度は、仕組みを構築して完了、内部通報規程を策定して完了といったものではなく、制度を適切に運用するとともに、定期的に実施すべき事項を遂行していくことで初めて真価を発揮します。

改正法施行後1年というこのタイミングは、1年間の内部通報制度の運用を総括し、対応の抜け漏れがないかをチェックするちょうどよい機会であると思います。


Author

弁護士 坂尾 佑平(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2012年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)、ニューヨーク州弁護士、公認不正検査士(CFE)。
長島・大野・常松法律事務所、Wilmer Cutler Pickering Hale and Dorr 法律事務所(ワシントンD.C.)、三井物産株式会社法務部出向を経て、2021年3月から現職。
危機管理・コンプライアンス、コーポレートガバナンス、倒産・事業再生、紛争解決等を中心に、広く企業法務全般を取り扱う。

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