1. はじめに
ESG・SDGs UPDATE Vol.1において、ESGの起源が国連のPRI(Principles for Responsible Investment、責任投資原則)にあり、PRIに署名している投資機関が国内外で増加している旨をご紹介しました。PRIには、投資家サイドがESGの課題を株式の保有方針等に組み込み、活動的な株主となるとともに、投資対象に対してESGの課題について適切な開示を求めるという内容が含まれています。
昨今のESGを重視する国際的な風潮の中で、株主が企業に対してESGに関する提案をする事例が増えています。欧米ではESG関連の株主提案が株主総会で可決される事例がある旨、米国でESG関連の株主提案が増加しており、森林保護や動物愛護(アニマルウェルフェア)等のサステナビリティに関する株主提案がなされた事例もある旨が報じられています。
日本においては、2020年には株式会社みずほフィナンシャルグループ(※1)、2021年には住友商事株式会社(※2)や株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ(※3)においてESGに関する株主提案がなされた旨が各社のウェブサイトにおいて公表されていますが、2022年に実施された株主総会においてもESG関連の株主提案がなされた旨が各社の招集通知等によって公表されています。
本稿では、2022年に実施された株主総会における株主提案のうち、ESGに関連するものをご紹介します。
2. 2022年の株主総会におけるESG関連の株主提案
(1)環境(E)に関する株主提案
2022年は、電力会社を中心に環境に関する株主提案が多くなされました。また、商社や金融機関に対しても、環境に関する情報開示の拡充を求める株主提案がなされています。具体的には、以下の事例をご参照ください。
第3号議案は、賛成率9.55%で否決されました(東京電力ホールディングス株式会社 2022年7月13日付け臨時報告書5頁)。
第8号議案は賛成率25.8%、第9号議案は賛成率18.1%、第10号議案は賛成率18.9%で、いずれも否決されました(電源開発株式会社 2022年6月29日付け臨時報告書4頁)。
第4号議案は賛成率27.05%、第5号議案は賛成率9.55%で、いずれも否決されました(株式会社三井住友フィナンシャルグループ 2022年7月4日付け臨時報告書3頁)。
第5号議案は賛成率20.18%、第6号議案は賛成率16.21%で、いずれも否決されました(三菱商事株式会社 2022年6月28日付け臨時報告書4頁)。
(2)社会(S)に関する株主提案
ESGの社会(S)の要因については、PRI「責任投資原則 国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)と国連グローバル・コンパクトと連携した投資家イニシアティブ」4頁において「労働条件(奴隷労働および児童労働を含む)」、「地域コミュニティ(先住民コミュニティを含む)」、「健康および安全」、「従業員関係および多様性」が列挙されています。このうち、従業員の権利保護やダイバーシティの確保については、日本においても特に問題意識が高まっている領域と言えます。具体的には、以下の事例をご参照ください。
第4号議案は、賛成率8.56%で否決されました(日鉄ソリューションズ株式会社 2022年6月23日付け臨時報告書4頁)。
第9号議案は、賛成率1.89%で否決されました(東京電力ホールディングス株式会社 2022年7月13日付け臨時報告書5頁)。
(3)ガバナンス(G)に関する株主提案
ガバナンスについては、PRI「責任投資原則 国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)と国連グローバル・コンパクトと連携した投資家イニシアティブ」4頁において「役員報酬」、「贈賄および腐敗」、「取締役会/理事会の多様性および編成」、「税務戦略」が列挙されています。
特に取締役会の多様性については、コーポレートガバナンス・コードの原則4-11で「取締役会は、その役割・責務を実効的に果たすための知識・経験・能力を全体としてバランス良く備え、ジェンダーや国際性、職歴、年齢の面を含む多様性と適正規模を両立させる形で構成されるべきである」と定められるなど、ダイバーシティの文脈で重要性が高まっているところ、これに関する株主提案もなされています。具体的には、以下の事例をご参照ください。
第4号議案は、賛成率3.47%で否決されました(アコム株式会社 2022年6月27日付け臨時報告書3頁)。
第7号議案は、賛成率19.80%で否決されました(東洋水産株式会社 2022年6月24日付け臨時報告書3頁)。
3. まとめ
以上のとおり、2022年の株主総会ではESGに関し、さまざまな株主提案がなされました。
脱炭素推進やSDGsに向けた取組強化の国際的な潮流の中で、今後日本においても、ESG関連の株主提案や株主質問が増加していくことが予想されます。
上記でご紹介した事例からも分かるとおり、ESGに関連する株主提案や株主質問は、電力会社等に限らず、あらゆる業種・業界の企業でなされ得るものであり、ESG課題と無関係でいられる企業は存在しないと言えるでしょう。
自社としてESG課題に対してどのように取り組み、それを株主等のステークホルダーにどのように開示していくかが、今後一層重要性を増していくものと考えます。
Author
弁護士 坂尾 佑平(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2012年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)、ニューヨーク州弁護士、公認不正検査士(CFE)。
長島・大野・常松法律事務所、Wilmer Cutler Pickering Hale and Dorr 法律事務所(ワシントンD.C.)、三井物産株式会社法務部出向を経て、2021年3月から現職。
危機管理・コンプライアンス、コーポレートガバナンス、倒産・事業再生、紛争解決等を中心に、広く企業法務全般を取り扱う。
ESG・SDGsプラクティスグループ創設メンバーとして「今企業に求められるESGのグランドデザイン-取組・開示・表示の勘所-」(三浦法律事務所、ウエストロー・ジャパン、トムソン・ロイター(共催))セミナーに登壇するなど、ESG/SDGs分野にも注力している。