M&P LEGAL NEWS ALERT #15:AIコンプライアンスと内部統制システム
1. AIに関する内部統制システム
このような質問が機関投資家とのエンゲージメントや株主総会であった場合にどのように回答するでしょうか。
AIはDXの推進や生産性の向上、競争上の優位性といったビジネス上の機会をもたらす一方で、さまざまなリスクと課題もあるところ、取締役は、①他の取締役の任務懈怠行為や従業員の不正行為等を阻止するための内部統制システムを構築すること、また、②構築された内部統制システムを適切に運用することが求められており(*1)、AIの使用等に関連して企業不祥事が生じた場合、取締役の内部統制システム構築・運用義務(善管注意義務)違反が問われることになります。
そして、AIに関する取締役会による監督体制が確立されているとは必ずしもいえないのが現状であることを踏まえると、まずは現在の内部統制システムにおけるリスク項目の1つとして自社に関連するAIのリスクを追加し、リスク対応方針等のポリシーを策定・更新する、社内教育・研修を実施する、適切に取締役会に報告されるプロセスとプロトコルを整備するといった進め方が考えられるところです(詳細は「M&P LEGAL NEWS ALERT #9:米国企業の開示からみるAIに関する取締役会の監督」をご参照ください)。
こうしたAIに関する内部統制システムを具体的に検討する際の参考になるのが、冒頭の質問を含め、企業によるAIの使用とリスクマネジメントに関する事項が追加された、米国司法省(DOJ)による「企業コンプライアンス・プログラムの評価」(Evaluation of Corporate Compliance Programs:ECCP)に関するガイダンスです。
ECCPは、企業不祥事を起こした企業に刑事責任を負わせるか、また、どのような責任を負わせるかについて連邦検察官が判断する際、企業のコンプライアンス・プログラムの有効性と妥当性を評価する指針となるものですが、企業が同様の評価を実施する際のツールとしても機能しており、2024年9月23日に新たな改訂版(*2)が公表されました。
2. 企業コンプライアンス・プログラムの評価(ECCP)のアップデート
ECCPは、2017年2月の公表以来、以下の3点を基本的な枠組みとした上で、DOJが問題意識を持つ新たなリスクや課題に対応するために継続的に改訂されてきました。
① 企業のコンプライアンス・プログラムが適切に設計されているか
② コンプライアンス・プログラムが真摯かつ誠実に適用されているか(コンプライアンス・プログラムが実効的に機能するために十分なリソースと権限が与えられているか)
③ コンプライアンス・プログラムが実際に機能しているか
そして、今般改訂されたECCPでは、AIの悪用リスクに関するDOJの問題意識(*3)を反映して、AIの使用とリスクマネジメントについて以下の質問事項が追加されています。
また、DOJは、ECCPに基づき、以下の点を検討するとしています(*4)。
なお、ECCPでは、企業がAIの使用に関するリスク評価を実施する際のリソースとして、2023年1月に公表された米国国立標準技術研究所(NIST)の「AIリスクマネジメントフレームワーク」(*5)が挙げられています。
日本企業としては、ECCPにおける「コンプライアンス・プログラム」を「内部統制システム」に置き換えた上で、AIの使用とリスクマネジメントについて機関投資家や株主から質問された場合にどのように回答するかという観点も踏まえて検討し、AIに関する内部統制システムを構築・運用していくことが考えられます。
Author
弁護士 関本 正樹(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2007年東京大学法学部卒業、2008年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)、ニューヨーク州弁護士。21年7月から現職。18年から20年にかけては株式会社東京証券取引所 上場部企画グループに出向し、上場制度の企画・設計に携わる。『ポイント解説 実務担当者のための金融商品取引法〔第2版〕』(商事法務、2022年〔共著〕)、『対話で読み解く サステナビリティ・ESGの法務』(中央経済社、2022年)等、著書・論文多数。