見出し画像

株主総会よもやま話(3)

本題に入る前に-出席者ゼロの株主総会

今年の6月総会は、各社とも強力な出席自粛要請をしたこともあり出席者数が1ケタという株主総会もありました。ただ、出席者数ゼロという情報には接していません。

皆様は株主総会の出席者数がゼロという局面に遭遇されたことはありますでしょうか。私は1回だけあります。もう10年以上も前ですが。上場直後で、いわゆる従業員株主というものも用意しておらず、開会時点で株主席側に本当に誰もいなかったのです。

(司会) 定刻の10時になりました。社長、議長席にお願いします。
(社長) 皆様、おはようございます。
(会場) (しーん)
(社長) 先生、これ、やります?
(私)  うーん。1.5倍速(注)でやりましょうか。

注:昔は、事業報告をナレーションで説明するという取扱いはなかったため、議長が自ら事業報告の概要を読み上げていました。そのスピードを上げましょう、という趣旨です。

結局、10分経過したところで1人いらっしゃいました。1.5倍速でやっていたので質疑応答直前でした。社長は嬉しくなって、質疑応答セッションでは逆指名(!)。

 「株主様、せっかくですからご質問いかがでしょうか。」

株主のほうが焦ってました。

 「え、いや、そうですね、応援しています。頑張ってください」

・・・コロナ禍が収まり活気ある株主総会が戻ることを祈っています。

さて、本題に入ります。シナリオの続きです。

本題

決議事項の上程説明

株主総会よもやま話_比較表1

ここでも出ました「合理的な平均的株主」。前回説明したとおり、説明義務を果たしたかどうかは質問をした株主が基準ではなく、また、会場にいた株主が基準でもなく、「合理的な平均的株主」というフィクションの存在を想定し、その「合理的な平均的株主」が理解したかどうかで判断されます。そして「合理的な平均的株主」は株主総会の会場にはきません。圧倒的多数の株主総会に来場しない株主が何をもって剰余金配当議案の賛否を判断しているかというと、招集通知に添付された株主総会参考書類の内容をみて判断しています。

そのため、「合理的な平均的株主」を基準とした場合の説明義務の範囲は、原則として招集通知に記載してあることということになり、シナリオにおいては「議案の内容については、招集通知●頁に記載のとおりでございます。」というフレーズが最も重要になります。これで説明義務は果たしており、あとは株主へのサービスとして概要を説明しているという建て付けになっています。

株主総会よもやま話_比較表2

役員レクチャーでは、よく「迷ったら招集通知」と説明しています。説明義務の範囲は基本的に招集通知に記載している内容であるためです。ただし、事務局としては招集通知に記載されていないことでも説明義務の範囲に入るものを3つ理解しておく必要があります。

1つ目は附属明細書に記載された内容です。附属明細書は招集通知とともに株主に送付されるものではありませんが、事業報告等を補完するものとして作成されていますので、説明義務の内容に含まれます。

2つ目が上記の裁判例です。取締役選任議案において「候補者の氏名、生年月日、略歴、その有する会社の株式の数、他の会社の代表者であるときはその事実」は招集通知に記載されていますが、「・・・に敷衍して、各候補者の業績、再任取締役候補者の従来の職務執行の状況などを付加的に明らかにしなければならない。」の部分は招集通知に記載されていません。そのため、株主に食い下がられたときのために、想定問答としては用意する必要があります。

3つ目が退職慰労金贈呈議案です。最近では退職慰労金贈呈議案自体が激減していますが、株主総会参考書類では次のような記載になります。

株主総会よもやま話_比較表3

清々しいほど何も情報がありません。さすがに裁判所もこれではマズいと思ったのでしょうか。招集通知に書いてあることを説明すれば説明義務を果たしたとは言いませんでした。

【東京地判昭和63年1月28日判タ658号52頁】
報酬額は株主への配当額に直接影響するのであるから、株主総会決議において個別の額や総額を決定しない場合、支給基準によって具体的な金額を知りうるのでなければ、本来利益処分の承認決議について賛否を決しがたいというべく、支給基準について説明を求めうるのは当然というべきである。支給基準を定めて取締役会等に一任することがお手盛り防止の趣旨に反せず、したがって株主の利益に反しない理由を説明する必要があるというべきであり、具体的には、会社に現実に一定の確定された基準が存在すること、その基準は株主に公開されており周知のものであるか又は株主が容易に知り得ること、及びその内容が支給額を一意的に算出できるものであること等について説明する必要があるというべきである

【奈良地判平成12年3月29日判タ1029号299頁】
株主の「基準ではなく金額を明確に公表せよ」という発言に対して、取締役が「算出基準は基準額と乗数と在位年数を乗じて計算しており、それぞれについては役員会で決定させていただきたい」、「受給者のプライバシーの問題にも関わってまいりますので、金額の公表は差し控えさせていただきたい」、「取締役会及び監査役の協議によりまして具体的金額を決定することになりますので、金額の公表については差し控えさせていただきたい」等と説明した点について、このような説明を受けたとしても、本件議案とされた退職慰労金の算出基準が存することは伺われるものの、退職慰労金の具体的金額がどの程度になるのか全く想定できないばかりか、その額が一義的に算出されうるものかどうか判断し得ないといわざるを得ず、十分な説明がされたと認めることは困難である。

これらの裁判例を踏まえ、実務上は算出根拠となる基準の計算式に算入すべき数値までも説明するように運用しています(判例タイムズ1178号248頁(松森宏)参照)。

一括上程方式の付議

株主総会よもやま話_比較表4

このシナリオでは、ここで一括上程方式の採用について議場に諮っています。諮る理由は以前、一括上程方式の適法性自体に争いがあったため、議場の了解は得ているという運営にするためでした。しかしながら上記の裁判例のとおり、一括上程方式は裁判例において適法と認められています。そのため、最近では一括上程方式の採用を議場に諮らず議長の権限として整理する例も多く、特に今年はコロナ禍の影響でシナリオを短くすることが求められたため、議場に諮らずに進めることが多かったのではないかと思います。

なお、上記のシナリオでは「ご賛成頂ける株主様は拍手をお願いいたします。」という表現になっています。昔は「ご異議ございませんでしょうか」という表現が多かったと思います。総会屋がいた時代は、一般株主にとっては声を出したり拍手をすることも怖かったので、何も反応がなければ「異議がない=賛成である」という運営にするため「ご異議ございませんでしょうか」という表現にしていました。しかしながら、「ご異議ございませんでしょうか」は日常用語ではありませんので、最近はソフトに「ご賛成頂ける株主様は拍手をお願いいたします。」が多くなっていると思います。

また、上記のシナリオでは、議長は株主席を見渡しただけで「過半数のご賛同をいただ」いたという宣言をしています。議場にいる株主の議決権の過半数の確認方法については、後日、議案の採決の際にご説明します。

事前質問への回答

株主総会よもやま話_比較表5

株主総会では、まれに株主から事前質問状が届くことがあります。事前質問制度を理解するためには、取締役等の説明義務を定めた会社法314条と会社法施行規則71条を確認する必要があります。会社法314条は取締役等に説明義務を課しています。ただし、会社法施行規則71条に定める例外に該当すると、説明義務を免れます。その例外の一つが「説明をするために調査をすることが必要である場合」です(会社法施行規則71条1項1号)。文字通り、調査をしないと回答できないからですね。ただ、その例外の例外があります。「株主が株主総会の日より相当の期間前に当該事項を株式会社に対して通知した場合」(会社法施行規則71条1項1号イ)です。事前に通知しているから調べておいてね、ということになります。この「通知」に相当するものが「事前質問状」と呼ばれています。以上から、次のことを導くことができます。

① 説明義務に関係ないことが事前質問状として寄せられても回答は必須ではありません。説明義務に端を発する制度ですので、「社長のご趣味はなんですか」といった質問が寄せられても回答は必須ではありません(なお、株主総会の会場の場でこの質問を受けた社長は、うどんの食べ歩きと仰っていました)。

② 説明義務に関係することが事前質問状として寄せられても、その株主が会場に来場しなければ対応は必須ではありません。来場しても、質問されなければ対応は必須ではありません。

説明義務は、株主総会で質問を受けてはじめて発生する義務です(会社法314条は「株主総会において、株主から特定の事項について説明を求められた場合には、当該事項について必要な説明をしなければならない。」と規定しています)。事前質問状を送れば答えてくれるというものではありません。さらに上記の東京地方裁判所の判決は、挙手しても指名されないため結局その質問ができず、会社側も事前質問状にあった質問に対応しなかった場合も説明義務違反はないと判示しています。さすがに事前質問状を送った株主のみを避け続けて時間切れで打ち切ったような場合はダメでしょうが、出席株主数が500名、1000名いる株主総会では指名されるとは限りませんので、その場合は説明義務違反の問題は生じないとしています。

以上のとおり、事前質問状が送付された場合も当該株主が来場せず、または来場しても質問しなければ対応は必須ではありません。しかし、当該株主が来場したかどうかや、指名した株主が事前質問状送付株主であるかどうかを捕捉しきれるとは限りません。そのため実務上、事前質問状に記載された質問については、議場での質疑応答の前にあらかじめ回答してしまうことがあります。その回答を「一括回答」(上記裁判例では「一括説明」)と呼んでいます。私の経験上、株主総会前日にアクティビストから100個の質問を受けて、会社のご担当者と徹夜で回答を作成したのが一番過酷な経験です(議場において事前質問の回答が終わるころにはすでに開会から1時間半が経過しています。。)。会社法施行規則上、「株主総会の日より相当の期間前に」という要件がありますので無視することも考えられますが、いずれにしても議場で質問を受けた場合には回答しなければなりませんし、決議取消訴訟の論点は減らしたいと考えるのが株主総会実務担当者のマインドですので致し方ありません。。

・・・

株主総会よもやま話「質疑応答セッション」

株主総会に立ち会わせていただくと、質疑応答セッションでもいろいろなことが起こります。

・議長が発言者として指名した株主が現役社員で、社長を糾弾するシナリオを描いているのが実は壇上で社長の横にいた役員であったり、

 ・議長が回答者として指名した役員が「本件はより詳しい者がおりますので、その者から回答させます」と発言したり(「おいおい、スルーパス!」・・・回答者の指名権は議長にありますので、自分が不適任と思っても議長にボールを返しましょう)、

・ 議長が「本件につきましては事務局にいる弁護士に回答させます」と発言したり(「・・・えっ。私!?」。法的には問題ありません。執行役員が回答するのも、私が回答するのも、法的には説明義務がある取締役・監査役の説明補助者になります)

などなど。
しかしながら、より印象に残っているのは次のような質疑応答です。

(議長)「ではご発言ある株主様は、挙手をお願いします」
(株主)「はい!」
(議長、役員、事務局)(・・・あれ、前社長が挙手してる。)

議長が前社長を指名したところ、ある工場の閉鎖について非難を続ける前社長。徐々に怒りのボルテージがあがる現社長である議長。そしてついに、堪忍袋の緒が切れる瞬間が。

株主総会よもやま話_比較表7.2
画像7

「冷静に」というカードを差し入れたことはあのときしかありません。


Author

弁護士 三浦 亮太(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2000年 弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2000~2018年 森・濱田松本法律事務所。2019年に三浦法律事務所を旗揚げ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?