見出し画像

中国最新法令UPDATE Vol.10:中国独占禁止法改正の概要③

1. 改正ポイント(Vol.9続き)

(1)  他の事業者間の反競争的合意形成の組織・幇助

① 概要

反競争的合意に関する規制の中心は、事業者らが自ら反競争的合意を形成する場合です。では、自らが反競争的合意を形成する場面ではなく、他の事業者らが反競争的合意を形成することにつき関与する行為については、どのように扱われるでしょうか。

このような論点につき、改正独禁法では改正が生じています。端的にいうと、改正点は以下の2点です。

・規制対象者:現行独禁法では業界団体のみが規制対象者であったのに対し、改正独禁法では業界団体のみならず一般の事業者も規制対象者となる(規制対象者が一般事業者にも拡大)

・規制対象行為:現行独禁法では他の事業者間における反競争的合意の「組織」のみが規制対象行為であったのに対し、改正独禁法では「組織」のみならず「実質的な幇助」にも拡大

これを図にすると以下のとおりになります。

【現行独禁法】

【改正独禁法】

② 詳述

本論点について、改正独禁法・現行独禁法の条文に即して説明していきます。
中国独禁法では、事業者が自ら反競争的合意を行う場合のほか、業界団体が事業者間の反競争的合意を「組織」することも規制対象となっていました(現行独禁法16条、改正独禁法21条)。この点は改正独禁法・現行独禁法で変わっていません。

しかし現行独禁法においては、あくまで「業界団体」が事業者の反競争的合意を「組織」することが規制対象でした。すなわち、業界団体以外の事業者が他の事業者の反競争的合意の形成に関与することに関しては明確な規制を置いていませんでした。そのため、例えば製品の生産業者がディストリビューター間での反競争的合意を組織したり、または反競争的合意の形成に協力するような行為につき、独禁法の適用があるかは必ずしも明確ではありませんでした。

改正独禁法では、上記のような行為についても独禁法の適用があることを明らかにするため、改正独禁法19条では「業界団体以外の事業者についても、他の事業者による反競争的合意の形成を組織し、又は他の事業者による反競争的合意の形成を実質的に幇助してはならない」と定められました。

事業者は、他の事業者間の反競争的合意を直接「組織」しなくても、その形成を幇助すれば規制対象となる点で業界団体による反競争的合意の「組織」の禁止よりも広範な規制内容となっています(事業者協会に対する規制は、事業者間での反競争的合意の「組織」のみが規制対象となっているのに対し、改正独禁法19条では直接の「組織」だけでなく、「実質的な幇助」も規制対象に含まれています)。

この条文における「組織」および「実質的に幇助」の定義については、「反競争的合意禁止規定」意見募集案17条が参考になります。すなわち「組織」とは、①事業者が反競争的合意の形成又は実施において、合意の主体の範囲、主要な内容、履行条件などについて、決定的または主導的役割を果たす場合や、②事業者が多くの取引相手と協定を締結し、故意に競争関係のある取引相手に自己を通じて、意思の連絡または情報交換を行わせ、水平型反競争的合意または垂直型反競争的合意を形成させる場合を指すとされています。また、「実質的に幇助」とは、事業者が、上記「組織」行為をしていなくても、反競争的合意の形成または実施に対し、支持を提供し、競争を排除・制限する結果に因果関係を持ち、または顕著な効果をもたらす行為を指すとされています。

(2)独禁法違反に対する制裁の厳格化

① 概要

改正独禁法において、独禁法に違反する行為に対する制裁が大幅に強化されています。全体的に過料が引き上げられたり、従前は過料の対象ではなかった行為につき新たに過料が導入されたりするなど、独禁法違反に対する制裁が強化されています。

改正独禁法・現行独禁法における制裁に関する比較については、下記の図表をご参照ください。

新旧独禁法における制裁に関する比較

② 違法な事業者集中(いわゆるガンジャンピングを含む)への制裁強化

日本企業において注意すべき点として、違法な事業者集中に対する過料が、現行独禁法では50万元以下であったのに対し、改正独禁法では最大で前年度販売額の10%以下の過料が科され得ることになった点があります。M&Aにおいて、本来中国において事業者集中届出が必要であるにもかかわらず、届出を行わずにクロージングしてしまうような場面を、「ガンジャンピング」と言います。ガンジャンピングにもこの制裁が適用されます。現行独禁法では、ガンジャンピングを行ってしまった場合の制裁が50万元以下の過料と小さかったのに対し、改正独禁法では前年度販売額の10%以下の過料が科され得ることになり、ガンジャンピングによるインパクトが大きく上がっています。このため日本企業においては、M&Aの際に中国における事業者集中の要否を慎重に判断し、ガンジャンピングとならないように留意する必要があります。

③ 反競争的合意に関する両罰規定の導入(個人にも過料が科され得る旨が明記)

また反競争的合意については、現行独禁法においてはいわゆる「両罰規定」は置かれておらず、代表取締役や従業員等が直接責任を負うことは明示されていませんでした。しかし改正独禁法では、反競争的合意の形成に責任を負う代表取締役・従業員等の個人にも100万元以下の過料が科され得る旨が明記されています(改正独禁法56条)。

④ 信用記録への記載、社会への公示措置の新設

現行独禁法には、独禁法違反につき信用記録に記載されたり、社会に対して公示する措置が取られる旨は明記されていませんでした。改正独禁法では、独禁法違反により行政処罰を受けた事業者は信用記録に記載され、社会に公示され得る旨が明記されています(改正独禁法64条)。信用記録に記載されたり社会への公示がなされると、企業としての信用力が低下する恐れがありますので、日本企業においてはこのような措置を受けることがないよう留意が必要です。

⑤ 刑事罰が科され得る場面の拡大

さらに、独禁法違反につき刑事罰が科され得る場面が改正独禁法では拡大されています。現行独禁法では、刑事罰が科され得る場合としては法執行機構の審査・調査への拒絶・妨害の場合に限定されていました(現行独禁法52条)。しかし、改正独禁法では67条において、独禁法違反全般につき「犯罪を構成する場合、法に基づき刑事責任を追及する」と明記されています。今後の刑法の改正等によって、独禁法違反に対する刑事罰が科される場面が増える可能性があります。

(3)プラットフォームビジネスにおける独占禁止制度の新設

中国では、近年プラットフォーマーによる競争制限行為が重大な問題となっており、例えば、ビッグデータの「殺熟」、出前アプリの「二者択一」など、プラットフォーマーがデータ、技術、資本など利用し、反競争的行為をすることが問題になっています。

これらの問題を解決するため、国務院独占禁止委員会は、2021年2月7日に、同業界に特化した独占禁止に関するガイドラインとして、「プラットフォーム経済領域の独占禁止ガイドライン」(以下「プラットフォームガイドラン」という)(※1)を公布していました。しかし、プラットフォーマーに対する規制は、ガイドラインレベルにとどまり、強制力を有する法律レベルには規定がありませんでした。

※1 原文:国务院反垄断委员会关于平台经济领域的反垄断指南。

今回の改正においては、法律レベルでも、プラットフォームビジネスにおける独占禁止規制が規定されています。改正独禁法9条は、事業者は、データ・アルゴリズム、技術、有利な資本条件およびプラットフォーム規則などを利用し、改正独禁法により禁止される反競争的行為(反競争的合意、市場支配的地位の濫用、競争制限効果をもつ事業者集中を含みます。改正独禁法3条)をしてはならないと定めています。そして、改正独禁法22条2項は、市場支配的地位を有する事業者がデータやアルゴリズム、技術およびプラットフォーム規則等を利用し、市場支配的地位の濫用行為をしてはならないと規定しています。

これらの規定は、プラットフォーマーがデータ、アルゴリズム、技術、プラットフォームを利用した行為であっても、独禁法の禁止規定が適用されることを確認的に規定したものであると考えられ、プラットフォーマーに対して他の事業者とは異なる特別の規制を導入する趣旨ではないと考えられます。

もっとも、プラットフォームビジネス事業に独禁法が適用される旨が法律レベルで明記されたことは、中国政府がプラットフォームに対する独禁法の適用を強化していく意向を反映したものであると考えられますので、中国においてプラットフォームビジネス事業を行う企業においては留意が必要となります。

なお、プラットフォームビジネス事業において留意すべき独禁規制の詳細は、「プラットフォームガイドライン」に規定されています。

2. まとめ

中国において事業を行うにあたり、コンプライアンス上、独禁法は重要な法律の一つです。中国で事業を行う日本企業は独禁法改正内容を理解し、これを遵守することが重要となります。

【関連リンク】


Authors

弁護士 趙 唯佳(三浦法律事務所 カウンセル)
PROFILE:2007年中国律師資格取得。2007~2019年森・濱田松本法律事務所。2019年4月から現職

弁護士 大滝 晴香(三浦法律事務所 アソシエイト)
PROFILE:2017年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。2017~2020年3月北浜法律事務所。2020年4月から現職。

袁 智妤(三浦法律事務所 中国パラリーガル)
PROFILE:2018年中国法律職業資格取得。2018年中国華東政法大学卒業、2021年慶應義塾大学大学院法学研究科修士課程修了。2021年7月から現職

弁護士 渥美 雅之(三浦法律事務所  パートナー)
PROFILE:2009年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2006年~2008年公正取引委員会、その後、森・濱田松本法律事務所、U.S. Federal Trade Commission出向、株式会社LIXIL コンプライアンス調査部長を経て、2019年1月から現職。

弁護士 井上 諒一(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2014年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2015~2020年3月森・濱田松本法律事務所。2017年同事務所北京オフィスに駐在。2018~2020年3月同事務所ジャカルタデスクに常駐。2020年4月に三浦法律事務所参画。2021年1月から現職。英語のほか、インドネシア語と中国語が堪能。主要著書に『オムニバス法対応 インドネシアビジネス法務ガイド』(中央経済社、2022年)など

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?