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中国最新法令UPDATE Vol.8:中国独占禁止法改正の概要①

1. はじめに

2022年6月24日、中国の第13期全国人民代表大会常務委員会(以下「全人代常務委員会」といいます)第35回会議において、「独占禁止法の改正に関する決定」(※1)が公表され、同年8月1日から施行される予定です。2018年立法計画に組み入れられてから、数年にわたって中国国内外から注目を集めてきた改正独占禁止法(以下「改正独禁法」といいます)の施行がいよいよ目前となりました。

※1 原文:全国人民代表大会常务委员会关于修改《中华人民共和国反垄断法》的决定。

今回の改正は、2008年8月1日に施行された独占禁止法(以下「現行独禁法」といいます)の初の改正であり、M&Aにおいて中国で事業者集中(※2)届出が必要となる要件の改正や、プラットフォームビジネスにおける独占禁止制度の新設など、重要な改正が含まれます。

※2 「事業者集中」は、日本でいう「企業結合」にあたります。

さらに、2022年6月27日、独占禁止法の執行をつかさどる国家市場監督管理総局(以下「SAMR」といいます)は、改正独禁法の公表に合わせて、独占禁止法の6つの重要な下位規則の改正に向けた意見募集草案も公表しました。

本稿では、今回の改正に至るまでの経緯を簡単に触れたうえで、日系企業の関心が高いと思われる改正ポイントを紹介するとともに、改正独禁法の施行に際し、各企業が採るべき対応について紹介します。

2. 独占禁止法および下位法の改正経緯

中国の独占禁止法は2008年に施行されてから、公平競争の保護、経済発展の促進、消費者利益および社会公共利益の保護のためのルールを提供し、重要な役割を果たしてきました。他方で、社会主義市場経済の発展とともに、現行独禁法における制度の不備や一部の反競争的行為に対する処罰が十分でないなどの問題も指摘されてきました。特にプラットフォームビジネスなど新しい事業の発展とともに、一部の大規模プラットフォーマーによるデータや技術、資本などの濫用や反競争的行為が行われ、公平競争ひいては消費者の利益を害していることが問題とされました。このような現状を踏まえ、現行独禁法の改正が急務とされました(※3)。

※3 第13期全人代常務委員会による「中華人民共和国独占禁止法(改正草案)に関する説明」をご参照ください

そして、2018年9月、全人代常務委員会は独占禁止法の改正を立法計画に組み入れ、2019年から立法活動が開始されました。独占禁止法については2回の意見募集を経て、2022年、改正に関する決定が出されるに至りました。

また上記のとおり、独占禁止法の6つの重要な下位法についても、現在改正に向けて意見募集が行われております。当該6つの下位法は以下のとおりです。

独占禁止法の6つの重要な下位法

3. 改正ポイントの概要

今回の独禁法改正では、さまざまな重要な内容が含まれています。M&Aに伴い中国において事業者集中届出を提出する義務が生じる基準につき改正が予定されており、中国内外でM&Aを行う際にインパクトが生じ得ます(詳細は中国最新法令UPDATE Vol.9:中国独占禁止法改正の概要② 1.(1)参照)。また、改正独禁法では、垂直的反競争的合意に関するセーフハーバーがはじめて導入されていますが、「マーケットシェア15%基準」を満たせば必ず「セーフ」となるのではなく、当局側で反競争性を立証すれば摘発され得る点で、マーケットシェアのみに完全に依拠することができない点に留意が必要です(詳細は中国最新法令UPDATE Vol.9:中国独占禁止法改正の概要② 1.(2)参照)。

また反競争的合意に関し、事業者自らが反競争的合意を形成する場合に加えて他の事業者間における反競争的合意の形成を「組織」したり、「実質的に幇助」することも新たに禁止されるに至っています(詳細は中国最新法令UPDATE Vol.10:中国独占禁止法改正の概要③ 1.(1)参照)。さらに、今回の独禁法改正で、独禁法違反行為に対する制裁が厳格化されています(詳細は中国最新法令UPDATE Vol.10:中国独占禁止法改正の概要③ 1.(2)参照)。また、中国におけるプラットフォームビジネスの発展に伴い、プラットフォームビジネスにおける行為についても独禁法の適用があり得ることが明記されています(詳細は中国最新法令UPDATE Vol.10:中国独占禁止法改正の概要③ 1.(3)参照)。

次回以降、2回に分けて、独禁法改正のポイントを解説していきます。

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Authors

弁護士 趙 唯佳(三浦法律事務所 カウンセル)
PROFILE:2007年中国律師資格取得。2007~2019年森・濱田松本法律事務所。2019年4月から現職

弁護士 大滝 晴香(三浦法律事務所 アソシエイト)
PROFILE:2017年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。2017~2020年3月北浜法律事務所。2020年4月から現職。

袁 智妤(三浦法律事務所 中国パラリーガル)
PROFILE:2018年中国法律職業資格取得。2018年中国華東政法大学卒業、2021年慶應義塾大学大学院法学研究科修士課程修了。2021年7月から現職

弁護士 渥美 雅之(三浦法律事務所  パートナー)
PROFILE:2009年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2006年~2008年公正取引委員会、その後、森・濱田松本法律事務所、U.S. Federal Trade Commission出向、株式会社LIXIL コンプライアンス調査部長を経て、2019年1月から現職。

弁護士 井上 諒一(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2014年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2015~2020年3月森・濱田松本法律事務所。2017年同事務所北京オフィスに駐在。2018~2020年3月同事務所ジャカルタデスクに常駐。2020年4月に三浦法律事務所参画。2021年1月から現職。英語のほか、インドネシア語と中国語が堪能。主要著書に『オムニバス法対応 インドネシアビジネス法務ガイド』(中央経済社、2022年)など


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