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インドネシア最新法令UPDATE Vol.11:【速報】インドネシアにおける新外資規制のドラフト版が公表

オムニバスローの制定により投資法が改正され、新たな外資規制の具体的な内容については、大統領令の制定が待たれていました。

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今回、インドネシアでは新たな外資規制等を定める大統領令のドラフトが公表されました。まだドラフト段階のため、今後修正が生じる可能性はありますが、この点に関して日本企業のみなさまから多くのお問い合わせをいただくため、内容をご紹介します。また、本大統領令ドラフトには、外資スタートアップ企業の最低投資額に関して興味深い点が含まれており、その点についてもご紹介します。

1. 外資規制

(1)本大統領令の概観

本大統領令ドラフトでは、事業分野が以下の通り分類されています。それぞれの分類にどのような事業が含まれるかは、別紙の形で一覧表が添付されています。

1. プライオリティー分野(別紙Ⅰ)
2. コペラシ及び中小企業のために留保されているか、コペラシ及び中小企業との協業が必要となる分野(以下「中小企業留保分野」といいます)(別紙Ⅱ)
3. 条件付分野(別紙Ⅲ)
4. 上記いずれにも含まれない分野

上記のうち、外資の持分比率の上限等を定めた、いわゆる外資規制は「条件付分野(別紙Ⅲ)」です*。注目に値するのは、現行の外資規制(大統領令2016年44号)では制限付分野として350項目列挙されているのに対して、本大統領令ドラフトでは条件付分野は48項目のみとなっており、大幅に縮減されている点です。本記事の末尾に、本大統領令の「条件付分野(別紙Ⅲ)」の仮訳を記載しています。

* コペラシ及び中小企業に分配されるかコペラシ及び中小企業との協業が必要となる分野(別紙II)も、外資が単独で実施することはできない点で、外資規制の一部にあたります。

本大統領令ドラフトにおいて条件付分野とされているものを概観すると、新聞・ラジオ・テレビ等による情報発信関係(項目1~5)、輸送事業関係(項目7~29)、アルコール製造・販売(項目31~33、46、47)、インドネシアの伝統的産業(項目35~45)等を保護する姿勢が伺えます。現行のネガティブリストで記載されている多くの事業について本大統領令ドラフトにおいては、条件付分野に含まれていません。

(2)本大統領令ドラフト上の外資規制と個別業法上の外資規制の関係

現行の外資規制のうち、日本企業のみなさまが関心を持たれている分野には、例えば以下の分野があります。

• 製造と関連しないディストリビューター:外資67%まで(現行ネガティブリスト項目196)

• デジタルプラットフォームの運営(投資額1,000億ルピア未満の場合):外資49%まで(現行ネガティブリスト項目300)

• 広告業:原則内資100%、ASEAN投資家については外資51%まで(現行ネガティブリスト項目243)

• 建設業(高技術、高リスク、工事金額500億ルピア超):原則外資67%、ASEAN投資家については外資70%まで(現行ネガティブリスト項目147)

これらの事業分野は、本大統領令ドラフトにおいては条件付分野には含まれていません。しかし、業種によっては個別業法上、内資株主との合弁要件など、広い意味での外資規制が定められている場合もあります。たとえば建設業法32条では、外資建設会社についてインドネシア建設会社との合弁形態が必要とされています。このため、本大統領令ドラフトにおける外資規制と個別業法上の外資規制につき、どのように整合的に解釈すべきかという点が問題になります。

本大統領令ドラフトにおいては、プライオリティー分野、中小企業留保分野、条件付分野のいずれにも含まれない分野について、全ての投資家が参入することができると定められています(本大統領令ドラフト3条2項)。そうすると、本大統領令ドラフトにおいて条件付分野や中小企業留保分野に含まれていない事業については、外資規制が撤廃されることが想定されているようにも思われます。

これに対して本大統領令9条2項において、投資活動の実施は法令に定められた要件に従い許認可を取得して行う旨が記載されています。そうすると、本大統領令上の外資規制に含まれていなくても、個別業法において(広い意味での)外資規制が定められている場合には、それに従わなければならないという解釈も成り立つように思われます。このような解釈をとると、本大統領令ドラフト上の外資規制は外資規制の例を挙げているだけにすぎず、本大統領令ドラフトには含まれない外資規制も存在するという整理になるように思われます。

上記のように、本大統領令ドラフト上、外資規制に関する解釈について明らかでない点があり、実際の制定版や実務運用がどのようになるか、注視する必要があります。

2. 外資スタートアップ企業の最低投資額

外資企業に関する最低投資額については、以前の記事でご紹介しているとおり、外資企業は原則として100億ルピアの最低投資額を満たさなければならないとされています。本大統領令ドラフトでは、テクノロジーに依拠したスタートアップエコシステムをサポートするため、「テクノロジーに依拠したスタートアップ事業のための特別経済地域」において、外資企業は100億ルピアよりも少ない投資金額で事業を行うことができるとされています。日本企業がインドネシアでデジタル系のスタートアップ事業を行おうとする際に100億ルピアの投資額がネックになる例がよく見られました。この規定により、そのような問題が解消されることが期待されます。

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参考資料:条件付分野(別紙Ⅲ)仮訳

条件付分野(別紙3)仮訳_1-10
条件付分野(別紙3)仮訳_11-30
条件付分野(別紙3)仮訳_31-48

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Author

弁護士 井上 諒一(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2014年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2015~2020年3月森・濱田松本法律事務所。2017年同事務所北京オフィスに駐在。2018~2020年3月同事務所ジャカルタデスクに常駐。2020年4月に三浦法律事務所参画。2021年1月から現職。英語のほか、インドネシア語と中国語が堪能。主要著書に『インドネシアビジネス法実務体系』(中央経済社、2020年)など

この記事は、インドネシアの法律事務所であるARMA Lawのインプットを得て作成しています。

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