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インドネシア最新法令UPDATE Vol.5:オムニバスローの制定①「外資規制への影響」

2020年10月5日、インドネシア中が注目していたオムニバスローが国会で可決されました。インドネシアでは、オムニバスローに反対する民衆によるデモや暴動も発生しています。インドネシア法制全体に大きなインパクトを与えることが予想されるオムニバスローですが、いったいどのようなものであり、何がどのように変わるのでしょうか。

今後複数の記事で各分野への影響を紹介していきますが、今回の記事では①オムニバスローの概要と②外資規制への影響について考察します。

なお、オムニバスローは国会で可決されているものの、(デモや暴動もあってか)大統領の署名が未了となっています。もっとも、国会での可決後30日を経過すれば大統領が署名をしなくても法律として成立します。

本記事では、2020年10月12日時点で最新版とされている法律の内容を基に作成しています。実際に公布される正式な原文において、内容が修正される可能性がある点にご留意ください。

1. オムニバスローとは

オムニバスローの目的は、①雇用機会の創設と拡大、②すべての市民が職・賃金、職場における公平な待遇を受けられるようにすること、③投資環境の向上のために様々な規制を調整すること等であるとされています。そして、オムニバスローでは、これらの目的を達成するために数多くの法律を一括して改正しています。

といってもなかなかイメージを持ちにくいかもしれませんので、具体的にオムニバスローの抜粋を一部を見てみましょう。

a. オムニバスロー77条
投資に関する法2007年25号のうち、複数の条文を、以下の通り改正する。
i)オムニバスロー77条1号
(投資法)2条は以下の通り修正する

(投資法)2条
この法律の規定は、インドネシアの全ての業種における投資に対して適用され、主たる参照根拠となる。

b. オムニバスロー109条
有限責任会社に関する法2007年40号(注:会社法)のうち、複数の条文を、以下の通り改正する。
i)オムニバスロー109条2号
(会社法)7条は以下の通り修正する

(会社法)7条
1項:有限責任会社は、公証人作成のインドネシア語の証書により、2名以上により設立される。

イメージがわきましたでしょうか。要するに、オムニバスローは、①どの法律の、②何条を、③どのように改正するのかを、数多くの法律に関してひたすら規定している法律になります。

2. 外資規制への影響

a. イントロダクション
多くの日本企業がインドネシアに進出しています。最近はインドネシアの市場としての魅力の高まりを背景に、製造業だけでなく、ディストリビューター、建設業、広告業等の進出も目立ちます。インドネシアでは、ディストリビューターや建設業、広告業を含むさまざまな業種につき、「外資規制」が定められてきました。例えば、外資による投資はディストリビューターについては67%まで、建設業は67%まで、広告業は51%まで(シンガポール等ASEANエンティティーを通じた投資の場合)とされています。オムニバスローの制定により、各業種につき定められていた外資規制が一律に撤廃されることになるかもしれません

b. 改正前の投資法の枠組み
改正前の投資法においては、①禁止業種と②制限付業種を除き、全ての業種が投資に開放されているとされていました。そして、禁止業種と制限付業種の内容や条件については、大統領令2016年44号でいわゆる「ネガティブリスト」の形で詳細が定められていました

ここでいう「制限付業種」が実務上「外資規制」と呼ばれているものの中心です。大統領令2016年44号のネガティブリストでは、以下のような形で制限付業種が定められていました(下表は要約です)。

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c. オムニバスローによる改正
オムニバスローにより上記投資法12条は改正されました。改正投資法12条では以下のような規定とされています(以下は要約であり直訳ではありません)。

i)禁止業種政府の独占業種を除き、全ての業種が投資のために開放されている(改正投資法12条1項)

ii)禁止業種は以下の通りとする(改正投資法12条2項)
1. 麻薬の栽培等
2. 賭博、カジノ
3. 保護対象の魚の捕獲
4. サンゴの捕獲等
5. 化学兵器製造
6. 化学産業、オゾン破壊物質産業

iii)上記1項及び2項で定める投資の条件の詳細については、大統領により定める(改正投資法12条3項)

お気づきでしょうか。改正前投資法12条1項に存在した、「制限付業種」が削除されています。改正前の投資法制において、ネガティブリストの中心的部分は、外資の持分比率の制限やその他の条件を定めた制限付業種でした。改正投資法では、「制限付業種」というコンセプトが廃止され、禁止業種以外は外資も自由に投資できることが予定されています。禁止業種は上記の通りであり、これらの業種に投資しようとする外資企業はほとんどいないと思います。そうすると理論上は、既存の外資規制(外資の持分比率の制限等)は一律に撤廃され、全ての業種について外資は100%投資できることが想定されているように思われます(ただし、上述の通り例外的な禁止業種は除きます)。

d. 今後制定が待たれる「ポジティブリスト」
改正投資法12条3項においては、「投資の条件の詳細については、大統領により定める」と定められています。2020年10月7日付インドネシア政府のプレスリリースによると、オムニバスローの施行規則として制定予定の大統領令では、「ネガティブリスト」という概念は廃止され、「ポジティブリスト」の形をとるとされています。現時点では「ポジティブリスト」の内容は不明であり、今後の動向を注視する必要があります。

e. オムニバスローの施行により、全ての業種(禁止業種を除く)につき、すぐに100%外資による投資が可能になるのか?
BKPM(投資調整庁)への照会によると、新たな大統領令が制定されるまでは現行の規制枠組みが維持されるため、現行ネガティブリストで外資規制が定められている業種については、当面はまだ解放されないとのことです。


Author

弁護士 井上 諒一(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2014年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2015~2020年3月森・濱田松本法律事務所。2017年同事務所北京オフィスに駐在。2018~2020年3月同事務所ジャカルタデスクに常駐。2020年4月に三浦法律事務所参画。2021年1月から現職。英語のほか、インドネシア語と中国語が堪能。主要著書に『インドネシアビジネス法実務体系』(中央経済社、2020年)など

この記事は、インドネシアの法律事務所であるARMA Lawのインプットを得て作成しています。

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