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インドネシア最新法令UPDATE Vol.1:最低投資額に関する考え方を明確化する新法令

1. 総論

2020年4月1日に、投資調整庁規則2020年1号(以下「本新規則」といいます)が公布され、同日から施行されています。本新規則は、OSSシステム(*1)を通じた許認可発行に関するガイドラインを定めるものです。OSSシステムは、許認可発行の基幹となる重要なシステムですが、急ピッチで整備されたものであるため、法令・実務上、取扱いが不明確な点も多数存在していました。本規則は、このような点を明確化する試みであると考えられます。本新規則のうち、重要と思われるのは以下の事項です。

• 最低投資額に関する考え方の整理(本新規則6条)

• ビジネスライセンス及びコマーシャル・オペレーショナルライセンスを、満たすべきコミットメントの種類に応じて4分類すること(本新規則21条2項、26条2項)

• 事業の種類を、主たる事業と従たる事業に分類すること(本新規則15条以下)

• 外国駐在員事務所を開設するには、外国駐在員事務所ライセンス(Izin KPPA)を取得することとされていたが、本新規則により登録制となり、外国駐在員事務所として登録されている旨は、事業者識別番号(NIB::Nomor Induk Berusaha)の別紙に記載されること(本新規則46条1項、2項)

• 法令の空白が生じていた商亊外国駐在員事務所に関して、明確な規定を置いたこと(*2)

• フランチャイズにつき、外国のフランチャイザーは、フランチャイズ登録証(STPW:Surat Tanda Pendaftaran Waralaba)を取得することに加えて、事業者識別番号を取得する必要があること(本新規則49条1項)

本ニュースレターでは、上記のうち、最低投資額に関する点を扱います。その他の点にご関心がある場合には、ご遠慮なくご連絡下さい。

*1 OSSシステムとは、インドネシアにおける許認可発行を統一的に行うプラットフォームであり、政府規則2018年24号により、2018年6月21日より施行されているものです。OSSシステムの特徴は、許認可の発行が自動化され、人による個別の審査が基本的に行われないという点にあります。

*2 外国商事駐在員事務所については、投資調整庁規則2017年13号に規定がおかれていました。しかし、投資調整庁規則2017年13号は、投資調整庁規則2018年6号により廃止されました。もっとも、投資調整庁規則2018年6号には、外国商事駐在員事務所に関する規定が置かれておらず、投資調整庁規則2018年6号と同日に公布された投資調整庁規則2018年7号においては、外国商事駐在員事務所への言及があるものの、外国商亊駐在員事務所の活動内容や許認可等については規定が置かれていませんでした。このため、外国商亊駐在員事務所の活動内容や許認可につき、法令上の規定が存在しない状況となっていました。

2. 最低投資額に関する従前の状況

インドネシアでは外資企業の最低投資金額が設けられており、外国企業がインドネシアに投資を行う際には重要な考慮要素となります。

投資調整庁規則2018年6号(投資調整庁規則2019年5号により改正)(以下「投資調整庁規則2019年5号といいます」)において、外資企業は100億ルピア超の最低投資額(土地・建物を除く)を満たす必要があるとされていました(投資調整庁規則2019年5号6条3項a)。

もっとも、100億ルピア超の最低投資額は会社全体として満たせば足りるのか、各事業ごとに満たす必要があるのか(例えば、2つの事業ラインを有する外資企業の場合、200億超の最低投資額が必要となるのか)については、法令上明確な定めがありませんでした。このため、一つの外資企業で複数の事業を行う場合に、いくらの最低投資額を満たせばよいのかが法令上不明確となっていました。

実務上は、照会時期や回答者により投資調整庁の回答内容が異なり得るという状況であり、5桁のKBLI番号(インドネシアで採用されている事業分類番号)ごとに100億ルピア超の最低投資額を要求する立場や、KBLI番号の上2桁が共通しているものについては全体で100億ルピア超の最低投資額を満たせば足りるとする立場が示されていました。

3. 投資調整庁規則2020年1号による最低投資額の考え方の明確化

本新規則は、投資調整庁規則2020年1号による最低投資額の考え方を明確にしています。まず、100億ルピア超の最低投資額は、5桁のKBLI番号ごと、プロジェクトロケーションごとに満たす必要があるとの原則を明示しました(本新規則6条2項a)。これに対しては、卸売業、飲食サービス業、建設業のそれぞれにつき、以下の例外が設けられています。

• 卸売業
卸売業については、100億ルピア超の最低投資金額は上2桁が共通するKBLI番号ごとに満たす必要があるとされています(本新規則6条3項a)。このため、卸売業については、複数のKBLI番号を取得する場合でも、上二桁が共通する場合には100億ルピア超の最低投資金額を満たせば足りることになります。

• 飲食サービス業
飲食サービス業については、県(カブパテン)又は市(コタ)ごとに100億ルピア超の最低投資金額を満たせば足りるとされています(本新規則6条3項b)。このため、飲食サービス業については、同じ県(カブパテン)や市(コタ)において複数の種類の飲食サービスを営む場合には、最低投資額は全体で100億ルピアで足りることになります。他方で、複数の県(カブパテン)や市(コタ)で飲食サービスを営む場合には、県(カブパテン)や市(コタ)ごとに100億ルピア超の最低投資額を満たす必要があります。

• 建設業
建設業については、一つの活動につき100億ルピアの最低投資額を満たす必要がある
とされています(本新規則6条3項c)。「一つの活動」の意義については、法令上は必ずしも明らかではありません。

建設業に関する基本的な業法は、建設サービスに関する法2017年2号(以下「建設サービス法」といいます)です。建設サービス法において、建設業は、大きく①建設コンサルティングサービス、②建設施工、③統合建設施工に分けられています(建設サービス法12条)。これらについては、それぞれ細分類や各細分類において行うことができる活動が定められています(建設サービス法13条)。

「一つの活動」がどこまでの細分類を指すのか、必ずしも明らかではなく、今後の実務動向を注視する必要があります。 


Author

弁護士 井上 諒一(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2014年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2015~2020年3月森・濱田松本法律事務所。2017年同事務所北京オフィスに駐在。2018~2020年3月同事務所ジャカルタデスクに常駐。2020年4月に三浦法律事務所参画。2021年1月から現職。英語のほか、インドネシア語と中国語が堪能。主要著書に『インドネシアビジネス法実務体系』(中央経済社、2020年)など


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