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危機管理INSIGHTS Vol.8:学校法人の危機管理②-学校法人制度改革特別委員会による「学校法人制度改革の具体的方策について」と題する報告書の公表-

1. はじめに

危機管理INSIGHTS Vol.4で説明したとおり、学校法人のさまざまな不祥事を背景として、文部科学省は「学校法人ガバナンス改革会議」を設置し、2021年12月3日付けで「学校法人ガバナンス改革会議報告書」が公表されました。しかし、その後日本私立大学団体連合会と日本私立短期大学協会は、2021年12月6日付けで「学校法人のガバナンス改革に関する声明」を公表し、当該報告書への反対意見を表明しました。

このように関係者の意見集約が難しい状況が発生したことから、「関係者の合意形成を丁寧に図る場」として、2022年1月に大学設置・学校法人審議会学校法人分科会に「学校法人制度改革特別委員会」(以下「本委員会」といいます。)が設置されました。

本委員会は、2022年3月29日付けで「学校法人制度改革の具体的方策について」と題する報告書(以下「本報告書」といいます。)を公表しました。

【参照リンク】
学校法人制度改革特別委員会 「学校法人制度改革の具体的方策について」(本文)
学校法人制度改革特別委員会 「学校法人制度改革の具体的方策について」(概要)

2. 本報告書の概要

本報告書の概要は、下記の2枚のスライドに集約する形で概要が公表されています。

(出典)文部科学省ウェブサイト 「学校法人制度改革特別委員会報告書
(出典)文部科学省ウェブサイト 「学校法人制度改革特別委員会報告書

(1)学校法人の機関構造設計の基本的視点と規律上の工夫

「学校法人の機関構造設計の基本的視点と規律上の工夫」としては、①法人意思決定の構造とガバナンス構造との適切な構築、②規制区分・寄附行為自治・経過措置の工夫、③各種ガバナンスのエンフォースメントの3つの視点が提示されています。

①については、「不祥事の発生の背景となるガバナンス不全の構造的リスク」の低減という観点から、評議員会の地位、理事・監事・評議員の選出に係る在り方の改善を図る必要性が指摘されている点がポイントと考えられます。具体的には、以下のとおり伝統的なガバナンス構造と現代的なガバナンス構造のそれぞれのリスクが示されており、いずれかに偏らないバランス感覚の重要性が読み取れます。

②については、「学校法人における機関設計とガバナンス構造の構築に当たって、私学法の趣旨を逸脱した寄附行為の運用を防止する観点から、必要となる法的規律については個々の法人の違いを問わず共通に明確化して定める必要がある」と述べつつ、「大臣所轄学校法人と知事所轄学校法人との区分や法人の規模に応じた区分を設けた規制を施すとともに、寄附行為による自治を一定の範囲で許容して、学校法人の実情に対応する必要がある」と述べ、規律の共通性と規模に応じた個別性とのバランスを求めていることが読み取れます。

③については、特別背任・目的外投機取引・贈収賄・不正手段による認可取得などに関する刑事罰の新設は、昨今の学校法人の不祥事等を踏まえたものと見ることができ、そのような不祥事が他の学校法人で発生しないようにするという、いわゆる一般予防効果への期待が読み取れます。

(2)学校法人改革の具体的方策

学校法人改革の具体的方策については、学校法人における理事会と評議員会の地位に関し、①学校法人における理事会と評議員会の意思決定権限、②理事会の監督機能によるガバナンス強化、③評議員会のチェック機能によるガバナンス強化および④評議員の選任と評議員会の構成等の適切化が挙げられています。また、学校法人における監査体制の充実に関し、①監事の地位の独立性と職務の公正性の確保、および②重層的な監査体制の構築が挙げられています。さらに、「規模に応じた対応案」という形で本報告書13頁の別紙にて以下の内容がまとめられています。


3. 今後の動向

私立大学等の関係者の方は、議論が二転三転し、混乱している方もいるかもしれませんが、まずは来る私立学校法の改正を見据えて、本報告書の内容を把握しておくことが一の矢として重要です。

その上で、他の私立大学における様々な不祥事を他山の石とし、同じような不祥事が発生しないようにするにはどうすればよいかを自分事として考え、さまざまな方策を自主的に講じていくことが、リスク低減の観点から有用です。例えば、2022年6月1日に施行が迫っている公益通報者保護法対応など、学校法人にも適用される各種法規制への対応を含めた多面的なリスクマネジメントを行うことは不祥事予防策の重要な一角に位置付けられます。


Author

弁護士 坂尾 佑平(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2012年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)、ニューヨーク州弁護士、公認不正検査士(CFE)。
長島・大野・常松法律事務所、Wilmer Cutler Pickering Hale and Dorr 法律事務所(ワシントンD.C.)、三井物産株式会社法務部出向を経て、2021年3月から現職。
危機管理・コンプライアンス、コーポレートガバナンス、ESG/SDGs、倒産・事業再生、紛争解決等を中心に、広く企業法務全般を取り扱う。

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