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ポイント解説・金商法 #11:2023年金融商品取引法等の改正成立と東京証券取引所による「四半期開示の見直しに関する実務の方針」公表


1. 改正金商法の概要

2023年11月20日、第212回(臨時)国会において、「金融商品取引法等の一部を改正する法律案」(以下「本改正法」といいます。)が成立し、同年11月29日に公布されました。

本改正法による主な改正内容は以下のとおりです。詳細はポイント解説・金商法 #9およびポイント解説・金商法 #10において解説をしておりますので、ご参照ください。

(1)顧客本位の業務運営の確保
① 最善利益義務の規定の新設

② 実質的説明義務の規定の新設

(2)企業開示制度の見直し
① 四半期報告書の廃止
・上場会社が期中の業績等の開示として原則として3か月ごとに提出する義務を負う四半期報告書の廃止(第1・第3四半期の開示は、四半期決算短信に一本化)
・代わりに事業年度開始から6か月の事業等に係る半期報告書の提出義務

② 公衆縦覧期間の延長
半期報告書、臨時報告書、発行登録書等の公衆縦覧期間(各3年間、1年間、最大2年)を5年間に延長

(3)デジタル化の進展等に対応した顧客等の利便向上・保護に係る施策
① ソーシャルレンディング等に関する規定の整備
ソーシャルレンディング等の運用を行うファンドを販売する第二種金融商品取引業者に関して、運用報告書に関する規定の整備

② トークン化された不動産特定共同事業契約に係る権利への対応
ブロックチェーンによりトークン化された権利に関して、金商法上のみなし有価証券として金商法上の販売勧誘規制を適用

③ 掲示情報等のインターネット公表

④審判手続のデジタル化

また、本改正法による主な改正内容の施行日は、以下のとおりです。

(1)顧客本位の業務運営の確保
① 最善利益義務の規定の新設:
公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日

② 実質的説明義務の規定の新設:
公布の日から起算して1年6月を超えない範囲において政令で定める日

(2)企業開示制度の見直し
① 四半期報告書の廃止:2024年4月1日
・ただし、経過措置として、同日前に開始した四半期に関しては、現行法に基づく四半期報告書を提出

② 公衆縦覧期間の延長:2024年4月1日
 
(3)デジタル化の進展等に対応した顧客等の利便向上・保護に係る施策
① ソーシャルレンディング等に関する規定の整備:
公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日

② トークン化された不動産特定共同事業契約に係る権利への対応:
公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日

③ 掲示情報等のインターネット公表:
公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日

④ 審判手続のデジタル化:
公布の日から起算して3年6月を超えない範囲内において政令で定める日

特に四半期報告書の廃止に関しては、例えば、3月決算の会社については2023年12月期(第3四半期)に係る四半期報告書(2024年2月14日まで)が最後に提出するものとなり、12月決算の会社については2024年3月期(第1四半期)に係る四半期報告書(2024年5月15日まで)が最後に提出するものとなり、早期に影響が生じますので、改正内容を急ぎ把握する必要があります。

2. 四半期開示の見直しに関する東京証券取引所の対応

本改正法の成立を受けて、東京証券取引所は、2023年11月22日に「四半期開示の見直しに関する実務の方針」(以下「本実務方針」といいます。)を公表しました。

上場企業の四半期開示の見直しに関しては、金商法上の四半期報告書の廃止に伴い、取引所規則に基づく四半期決算短信に一本化される方向性が示されていました。なお、当該方向性が示された金融審議会ディスクロージャー・ワーキング・グループによる報告内容の詳細に関しては、ポイント解説・金商法 #6をご参照ください。

本実務方針は、四半期決算短信への一本化による企業のコスト削減・開示の効率化を踏まえつつも、開示の後退を防ぐために四半期決算短信による開示をより充実させ、実効的にすることを目的として、今後の取引所規則の改正や四半期決算短信の作成要領の改訂の方針を示したものです。

本実務方針の主な内容は以下のとおりです。

(1)四半期決算短信の開示内容・開示タイミング
① 開示内容
・四半期報告書で開示されていた事項のうち、投資家の要望が特に強い「セグメント情報等の注記」および「キャッシュ・フローに関する注記」(※キャッシュ・フロー計算書を省略する場合)を注記事項に追加
・開示が義務付けられる事項以外についても、投資家にニーズのある事項の積極的な開示を促すため、適時開示ガイドブックにおいて例示を行い、自発的な開示を促す。

② 開示タイミング
・決算内容が定まり次第開示
・サマリー情報・(注記事項を除く)財務諸表等を先行して一部開示することも可能
・四半期末から45日を経過する場合は、状況について適時開示

(2)四半期決算短信のレビュー、エンフォースメント
① レビューの一部義務付け
・四半期決算短信の監査人によるレビューは原則任意
・会計不正等により財務諸表の信頼性確保が必要と考えられる場合、監査人によるレビューを義務付け。義務付けの要件は、直近の有価証券報告書等において無限定適正意見(結論)以外の場合等、5つの場合とされ、要件該当後の四半期短信に付される財務諸表についてはレビューが義務付けられる。要件該当後、提出される有価証券報告書・内部統制報告書において、義務付けの要件に該当しない場合に義務付けが解除される。

② エンフォースメント
・会計不正の概要を早期に把握できる仕組みを構築
・具体的には、(i)改正不正等の疑義が生じた場合等に、上場企業に対して必要な調査および調査結果の報告を要求できるよう上場規則に明示すること、(ii)公認会計士等へのヒアリングを求める場合の上場企業に対する協力義務に関する上場規則の射程を、会計不正等が生じて実効性確保措置の検討に必要と認める場合に拡大すること、など

(3)半期決算短信・通期決算短信の取扱い
・金商法上の半期報告書および有価証券報告書が存続することから、現行の取扱いを維持(ただし、2Q短信において、上記(1)①のとおり、1Q・3Q短信で追加される事項について開示の義務付けはせず、各社の判断とする。また、2Qの連結財務諸表の様式は、1Q・3Q短信に適用される財務報告の枠組みではなく、新制度における半期報告書に適用される財務諸表規則に従う。)

(4)情報開示の充実
・上場企業が主体的に判断し、投資家にとって有用な情報が積極的に開示される市場環境整備を行う。
・当面は、(i)適時開示ガイドブックに事業環境の変化に関する開示のポイントを追加し、開示を要請する、(ii)バスケット条項の理解を促進し、開示目安についてはその位置付け・示し方を見直す、(iii)継続的に開示例を公表し開示拡充を促す、といった対応を行う。


Authors

弁護士 峯岸 健太郎(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2001年一橋大学法学部卒業、2002年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)、一種証券外務員資格。19年1月から現職。06年から07年にかけては金融庁総務企画局企業開示課(現 企画市場局企業開示課)に出向(専門官)し、金融商品取引法制の企画立案に従事。
『ポイント解説実務担当者のための金融商品取引法〔第2版〕』(商事法務、2022年〔共著〕)、『実務問答金商法』(商事法務、2022年〔共著〕)、『金融商品取引法コンメンタール1―定義・開示制度〔第2版〕』(商事法務、2018年〔共著〕)、『一問一答金融商品取引法〔改訂版〕』(商事法務、2008年〔共著〕)等、著書・論文多数。

弁護士 所 悠人(三浦法律事務所 アソシエイト)
PROFILE:2014年早稲田大学法学部卒業、2016年早稲田大学法科大学院修了、2017年弁護士登録(第一東京弁護士会)。2021年8月から現職。さまざまなファイナンス案件、金融レギュレーション案件、不動産取引案件を軸としつつ、M&A・紛争を含む企業法務全般を広く取り扱う。
主要著書・論文は、『ポイント解説実務担当者のための金融商品取引法〔第2版〕』(商事法務、2022年〔共著〕)、『消費者取引とESG(第4回)「競争法規制とESG」』(NBL No.1223、2022年〔共著〕)等。

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