面白い本・好きな本|日本の文化“省略の美学”篇
日本の文化には「省略の美学」があると言われている
茶の湯や俳句、禅など、情報を削ぎ落とし、制約をつけることからくる深い味わい。
最小限の所作で、最大限の効果を生み出す。
ギガが減る
携帯電話の料金プランによるんだけど、通信容量を気にしながら、ぎりぎりのせめぎ合いに悪戦苦闘する人々。
1GBでは心もとない、、5GBあればなんとかなる?
それとも、10GB以上で安心したい。。。
そんな中から生まれた「ギガが減る」という言葉。ギガは10の9乗という意味なので、文章としてはおかしいんだけど、気持ちはとても伝わる。。
いかに通信容量を削減するか、その制約があるから工夫も凝らす日々。
容量との戦い
ゲームソフトのドラゴンクエストが今年で35周年。
そして、初代ドラクエの容量はなんと、たったの64KB。
ドラクエ15000個で、ようやく1GBと言えば、その少なさが伝わるかと。
なので、ゲームで使用するカタカナは20文字しかない。少しでも情報をそぎ落とし、容量を減らす戦い。
人物が前を向いてカニ歩きしてたのも、横や後ろ姿を加えると容量オーバーになってしまうから。
同じ見た目で、色だけ変えて別々のモンスターとしたり、雲の形を緑色にして草として表現するのも、容量を減らすため。
同じ曲でも、テンポをゆっくりにして、音程を下げることで、より怖い場面を演出し、宝箱の中にアイテムを入れる容量を削減するため、からっぽの宝箱を発明したり。。
35年前のゲーム開発も、現代のスマホも、容量との戦いは終わらない。
制約があるからこそ、工夫を凝らす。
日本の文化“省略の美学”篇
ということで、「省略の美学」について考える3冊の本。文字を省略したり、光を省略したり、所有物を省略したり。
省略することで見えてくる、日本の文化の美しさ
ドラクエが発売された約35年前、もっと昔の80年前、そしてさらに昔の800年前の本。時代を遡り、日本の文化に思いを馳せる。
残像に口紅を/筒井康隆/1989
文字を省略していく、美しさ。
物語の展開に合わせて、言葉がひとつ、またひとつと消えていく。とても実験的な小説。
言葉が消えると同時に、物語の中の世界でも、消えた音を含むあらゆる存在が消えていく。
「こ」という文字が消えると、「コップ」も「コーヒー」も存在しなくなる世界。そして、「あ」という文字が消えると、「愛」も「あなた」も消えてしまう世界。
小説の後半になればなるほど、使える言葉がすくなるなる。つまり、物語の世界の中でも、様々な存在が消えていく。
だけど、最後の言葉がなくなるまで、物語の体裁が保たれているところが、この小説のすごいところ。
とてもおすすめ。
陰影礼讃/谷崎潤一郎/1939
光を省略していく、影の美しさ
明るく白い空間ではなく、薄暗く静寂な場所。硬く反射するものではなく、柔らかく光を深く吸収するもの。凹凸はっきりではなく、見え隠れする神秘性。
そして、何と言っても羊羹。
陰翳のある深い色合いや質感が美しい、と。
「日の光を吸い取って」「暗黒が一箇の甘い塊になって」「ひとしお瞑想的になる」と、凄みのある文章で羊羹について語る。
光と影という観点から、日本人の美意識を読み解く名著。
方丈記/鴨長明/1212
無駄な所有物を省略する、美しさ
今の言葉でいうと、シンプルライフやミニマリスト。四畳半(方丈)で、質素に、そして風流に暮らす。
室内には机と棚と寝床と座布団のみ。
南に縁側、東に庇があり、薪を焚く。
棚には書物を並べ、仏画を飾り、琵琶と琴に囲まれる暮らし。
ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人とすみかと、またかくのごとし。
無常観を表白する流麗な文章に始まり、五つの大きな災厄から、この世の無常と人の命のはかなさを悟り、移り住んだ日野山で、方丈の閑寂な生活を淡々と記す。
清少納言の「枕草子」、兼好法師の「徒然草」と並んぶ、日本の三大随筆の一つ。
質素で、風流に暮らす美しさ
方丈記がYoutube大学で取り上げられているのに気づく。
同じタイミングでアップされる、すごい偶然。
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