20個の餃子
「おふくろの味はなんですか?」
就職活動の最終面接でこう聞かれたとき迷わず「餃子です。」と答えた。
実家近くのスーパーで木曜日はひき肉が安かった。だから毎週木曜日は餃子の日。
うちはニラやニンニクは入れずにキャベツをたくさん入れるタイプ。時期によってキャベツが白菜になったりした。晩ご飯で残っても朝から食べられるそんな我が家の餃子が大好きだし、毎週食べてたら餃子自体が好きになった。
おふくろの味が餃子だったからかはわからないけど、無事内定をもらえた。
配属された場所は地元から遠く離れた山形県だった。
知り合いはいないし、ひとり暮らしでご飯を作るのは億劫。
そんな時はご飯屋さんに一人で食べに行った。
ある日、ずっと気になっていた「餃子」の文字を大きく掲げるお店に行ってみた。餃子を売りにしているラーメン屋さんというわけでもなく、餃子一本でやっているお店のようだった。
ひとり暮らしを始めて気づいたけど餃子を包むのって時間がかかる。
実家を出る時、母に餃子の作り方のメモをもらったけど結局1回作ったきり冷凍餃子を食べていた。
忙しいのに毎週餃子を作ってくれた母を崇めた。本人に感謝を伝えると包む作業は好きだから苦じゃなかったと言っていた。
久しぶりに冷凍餃子じゃない餃子が食べられるとワクワクしながら入店。
私以外にお客さんがいなかったことにワクワクの半分がドキドキに変わったけど特に問題ない。中国人のお母さんがお冷を出してくれた。
「餃子だけでお腹を満たしたい」
思い切って焼き餃子を15個注文した。足りなかったら追加で頼もう。
出てきた焼き餃子は1つが大きくて、追加する選択肢はすぐに消えた。
羽はついていないけど、底はパリっと焼かれていて中も野菜が多めでおいしかった。
15個でも結構しんどかったな。残り2つの餃子を見ながら考えていると、テーブルにそっと水餃子が置かれた。
驚いて顔を上げると、中国人のお母さんが「これも食べて」と言ってくれた。さらに白米とサラダも出してくれた。
学生のように見える子がお金がなくて焼き餃子しか頼めなかったと思ったのかもしれない。
ありがたい。こんな大量のおまけ初めてされた。
でも今の私のお腹では全て受け止められる自信がない。
迷ったけれど1秒後には「ありがとうございます。」と伝え、食べる決意を固めていた。
出されたものはすべて食べる。運動部根性がまだ残っていた。
なんとか全て食べ切ったけど、水餃子のスープ部分は残した。
それくらい限界だった。
私は餃子が好きだ。
ラーメン屋や居酒屋であれば、必ず頼む。
いろんな所で餃子を食べたけど、知らない土地で20個餃子を出してくれたあのお店が忘れられない。
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